第二星 特殊技能訓練

冒頭の後の出来事です。

――――――――――――――――――


 模擬戦は正直に言うと楽しくなかった。結局は蹂躙になってしまったからな。


 確かに天日あまび陽翔はるとは今までの人と比べて強かった。だが、僕が壊してしまった10歳くらいの少年に圧勝できるか、と訊かれたら答えは「No」くらいの強さしかない。ちなみに、僕の予想だと接戦になりそうだ。


「ご主人様、現在の時刻は9時10分ほどです。昼食までの時間ではいかがなさいますか?」


 近くにスタンバイしていた玲奈が問いかけてくる。それに対して僕は玲奈の瞳を見つめ、これからの予定を話した。


「もうあらかじめ決めておいた。特殊技能スキルの訓練をするよ。勿論、玲奈もね」


「は、はいっ! 承知いたしました!」


 頬を薄紅色に染めて元気よく答える玲奈。それほど久方ぶりにする特殊技能の訓練が楽しみなのだろう。


「ここでは特殊技能の訓練ができないから移動するよ」


 特殊技能の訓練には特殊な場所が必要なのだ。ここの訓練場ではいけない。


 僕と玲奈はバイクに乗り、別の訓練場へ向かっていく。


   *


 それから数分後、僕達は「特殊技能訓練場『星月夜ほしづきよ』」の裏口玄関に到着した。ここでは、通常の訓練場では基本的に使うことができない特殊技能を使うことができる。


 この訓練は基本的に僕と玲奈だけで行う。僕の特殊技能の使い方を教えられるのは父上だけだからな。ちなみに父上は現在、職務を全うしている最中だ。


「今更ながらで恐縮ございますが、最高機密であるご主人様の特殊技能を拝見させていただいてもよろしいのでしょうか?」


 首を傾げて尋ねてくる玲奈。それに対して僕は即座に答える。


「今後は僕と玲奈が一緒に任務に赴くことになるから、お互いの特殊技能を把握しないと困るよ。あと、今は私的時間だからそんなに畏まった口調で話さないでほしい。……これは命令だ」


 これに関しては命令しないと従ってくれない。


「承知いたしました――じゃなくて、分かりました!」


 僕はその反応に苦笑を浮かべながら、玲奈と共に人がいない建物の中へ入っていく。


    *


「早速、特殊技能の訓練を始めようか。まずは僕が実演するから見ておいて」


「はい! しっかりとこの目に焼き付けておきます!」


 そこまでしなくてもいいんだけどな……。


 何やら全力(?)でこちらを見つめてくる玲奈。ちなみに距離は10mほど離れている。


「僕にある唯一のスキルの名称は知らないと思うから、説明するよ。ほら、こっちにおいで。大きな声を出して話すことではないからね」


 そう言うと、そそくさと近づいてきた玲奈。僕はそれを見ながら説明を始める。


「僕の特殊技能は『星月之誓約せいげつのせいやく』。星月家が代々継ぐ『星月せいげつ』に似ている特殊技能だよ」


 代々と言っても僕や姉上達は2代目の世代であり、僕と祖父母以外の星月家が所持しているスキルは『星月』である。父上は『星月』の初代だ。この場合の初代は、星月家の初代ではなく『星月』の初代という意味なので注意が必要。


 要するに、『星月之誓約せいげつのせいやく』を所持しているのは僕だけということだ。尚、その理由は分かっていない。


「この特殊技能の能力は……複数の特殊技能を扱うことができることかな?」


 『星月之誓約せいげつのせいやく』は保持者である僕でも分かることが少ない。特殊技能鑑定屋でもお手上げなくらいだからな。


「複数の特殊技能を扱うとは一体どういうことでしょうか?」


 案の定、玲奈は疑問を抱いたようである。


「僕の特殊技能は一つしかないのに、なぜか別のスキルを扱うことができるんだ。それも、聞いたことがない特殊技能を。例えば『新耀星誕しんようせいたん』というスキルなどかな」


 特殊技能について人間が知ることは非常に少ない。特殊技能を所持している者……所謂いわゆる「覚醒者」は全員が特殊技能を報告する義務があるとしてもだ。


 覚醒者は西暦1985年以降に生まれた者か、それ以外の突然に特殊技能を得た人しかいない。最近は少子化も相まって入手できるデータが少ないので、特殊技能については未だに謎が多いのだ。


「星月家は『星月せいげつ』があるから星月流剣術ほしづきりゅうけんじゅつを更に強くすることができる。それは僕も例外じゃない」


「私も何度か見たことがあります。おっしゃる通り、非常に強力なものでした」


 玲奈が剣術の訓練を見に来たことが何度もあったからな。そのことを言っているのだろう。


「今回は……どうせなら玲奈が見たことがない技にしようか」


「いいのですか!? ありがとうございます!」


 玲奈は花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。


 よし、期待に応えるために全力を出そう! ……久方ぶりに全力を出すけど大丈夫か? まあ、今日の午後に行う家族交流戦で全力を出す予定だったし、大丈夫だろう。



   ***



 ご主人様は私が見たことがない技を見せてくださるようです。……どのような技なのでしょう? 素晴らしいことは確実ですが、詳しいことは分かりません。


「危ないかもしれないから、もう少し離れてくれ」


 そうご主人様がおっしゃられたので、100mほど離れます。通常は視力が2ほどの私ですが、特殊技能を使用することで視力を最大11.0ほどまで上げることができるので、問題はありません。ちなみにですが、聴力も上昇できます。100m程度の距離の音を拾うのは造作もないです。


 一方でご主人様は目を瞑り、集中しているようでした。……相変わらず素敵です。あの時からずっと……いえ、更に輝かしくなっております。男性とは思えないサラサラな白銀の髪に、とてもお美しい御尊顔。性別を問わず、大抵の方々は見惚れ、ご自分の容姿に自信を無くし、裸足で逃げ出してしまいそうです。


 そう語っていくうちに、私の顔が熱くなっていくのを感じます。いけません。早く元に戻さなければならないです。


 私が気を鎮めていると、ご主人様は目を瞑ったまま頭上に2を構えました。その剣のつか金色こんじきで、青く輝いている宝石が埋め込まれています。刀身は白銀色の鋭く光を放っており、非常に美麗な長剣だということが分かりました。


「月光は我のもとに降り注ぐ “星月流剣術――月華両刀げっかりょうとう”」


 ご主人様はそう口ずさみ、2本の真剣を振り下ろしました。


 ……その刹那、離れていても分かるほどの衝撃波が辺りに発生し、凄まじい音を轟かして斬撃が飛んでいるのが見えます。


 先ほど、振り下ろしました、と言いましたが、正確には振り下ろしているのかは分かりません。速すぎて見えませんでした。分かったことは、剣が振り下ろされたはずの空間が揺らいで見えることです。


 神速で飛んでいった斬撃は訓練場の壁に衝突し、崩壊させました。


 ……ご主人様、これは流石にやりすぎです……。


 これを修理するのは私なんですから、あまりこういうことはしてほしくなかった……わけではありません。特殊技能の良い訓練になるので、壊してしまっても全然大丈夫です。


「おかしいな? “月華両刀げっかりょうとう”を放つ直前に力を抑えたのに……」


 そんなご主人様のお言葉を聞かなかったことにし、私は訓練場の修理をするために駆け出しました。




――――――――――――――――――


 更新が非常に遅れてしまい、誠に申し訳ございません。以後もこのようなことが起きる場合があるかもしれませんので、そのときは「コイツ、また更新遅れたんだな」という温かい目でお見守りくだされば幸いです。


〈追記〉

 現在判明しているしゅうの特殊技能を書きました!


星月之誓約せいげつのせいやく』……星と月は誓った

 『新耀星誕しんようせいたん』……新たな耀く星が誕生した

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