第六涙 初バトル! 初必殺技!

 怪女に向かって走る輪環りんかを追うショーペンが叫んだ。

「マジカル・タイムストップ」

 輪環はすぐに異変に気づいた。

 ちょうど目の前を横切ろうとしていた燕が、とつぜん空中でピタと止まったのだ。まるで、クリスタルアートリウムのように、燕が宙に氷漬けになっている。

「ショーペン、何をしたの?」

「魔法の力で時を止めたわ。いま動けるはあなたと敵と繭玉の中の人だけ」

 ショーペンの言った通りで、包囲の警官隊は、みな中途半端な姿勢のままで静止していた。

「輪環、ジャンプよ」

 彼女は、ショーペンに言われたとおりにジャンプした。自身が想像するよりも、はるか高く跳躍した。

 輪環は、面食らって叫んだ。

「どうしてこんなに高く飛んじゃうの!」

「魔法少女に変身すると、あなたの体にも魔法がかかるのよ。どんなアスリートにも負けない身体能力が備わるの」 

 輪環は、警官隊がつくる人の壁を、ひとっ飛びで飛び越えた。

 タンッ! 着地もなんなく決めた。

 目の前に、巨大な繭玉!

「あんた、何者……」

 頭の上から声が聞こえた。見上げると、繭玉の頂上に怪女がいるのが見えた。面食らった顔をしている。

 ショーペンが答えた。

「魔法少女よ! モスデストロイヤーズを倒すために生き返った戦士よ!」

 怪女は輪環を睨みつけた。

「なんだかよくわからないけど、要するに敵ってことね」

 怪女は、パッと宙に飛び上がると、輪環めがけて急降下した。そして、右手の五指をひとつに束ねて、突き出してきた。魔法少女を串刺しにする気だ。

「マジカルドレス、オートダンスモード!」

 ショーペンが叫んだ。と、魔法のドレスが、輪環の意志に関係なく、華麗に舞い始めた。輪環は踊るドレスに踊らされた。

 魔法少女は、クルクルと高速ターンをしながらジャンプし、怪女の攻撃をかわした。

 怪女の爪は鋼鉄かそれ以上だ。アスファルトがクッキーみたいに粉砕された。

 敵は即座に、天に踊る輪環に向かって飛びかかった。

 空中での攻防だ。

「おとなしく串刺しになりなさい」

 怪女が輪環のお腹を突き刺そうとした。

 輪環は、身体をひねり、軽く躱す。さらに、一輪の薔薇にそっくりな形の魔法のステッキを、敵の頭蓋めがけて振り下ろした。

 ガコンッ。鈍い音がした。怪女の顔が歪んだ。

 と、魔法のステッキがパッと光ると、次の瞬間には、三日月を思わせる長刀に変身した。キラリ、刃が陽光に煌めく。

「必殺、ムーン・スラッシュ!」

 魔法少女の斬撃は、目にも止まらぬ速さであった。

 怪女は身体を真っ二つにされた。

 三つの物体が地面に舞い降りた。輪環と、二つになった怪女だ。

 輪環は驚いていた。怪女の攻撃をかわし、鮮やかな反撃をきめたのは、彼女自身の意志による動きではなかった。身体が、ドレスの力で勝手に動いたのだ。

「どうして……」

 ショーペンがそばに駆け寄ってきた。

「初めての戦いだったから、あなたはまだ魔法少女の力の使い方を知らない。だから、ドレスのオートダンスモードを発動させて、戦いの補助をしたのよ」

 ショーペンが肩に飛び乗った。

「これがあなたの力。あなたの傷の力よ。次からは、補助なしで戦うのよ」

 輪環は、薔薇の花のステッキを握り締めた。目には光が灯っていた。 

 

 敵を倒し、一見落着かと思われた。

 しかししかし、モスデストロイヤーズを見くびってはならない。

「ケッケッケッケッケッ」

 ドロドロした笑い声が聞こえた。その声は、二箇所から同時発生していた。

 分裂した怪女の右半身と左半身の、半分づづになった唇が動き、笑い声を立てている。二つの半身が、それぞれの口で笑っているのだ。

 右半身の腕と足が動いた。左半身の腕と足も動いた。左右の半身が、器用に手足を動かし、互の身体をくっつけ合おうとしている。

 その様を、輪環は気味悪そうに眺めた。

 やがて、ふたつの体は、切断面をぴたりと合わせてひとつになった。

 刀剣によって引き裂かれた傷口が、ジッパーを閉じていくかのように、癒着して皮膚を再生していった。傷が完全に治ってしまった。

 怪女は、何事もなかったかのように、涼しい顔して立ち上がった。

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