ギャル☆ネコ☆ダンジョン~猫も杓子も❤恋せよ乙女~

音々🎵

第1章 迷い迷って猫に会う。

第1話 みちのみち、とおりゃんせ❤

 大冒険がしてみたい。いろんな意味で。


 制服のセーラー服は、怒られないギリギリのラインを狙って着崩している。なんとか地毛だと言い張れそうな髪色に、ナチュラルなちょいギャルメイク。目立たないところにしっかりアクセもつける。


 ネイルは禁止されている。なぜかここだけ妙にチェックが厳しい。

 イミワカンナイけど、これだけはどうにもならないから休みの日だけ。

 

 どこまでセーフ? どこからがアウト?


 毎日のように繰り返されている、校則の守り手たる教師や風紀委員たちとの激しい陣取り合戦。


 まあ、確かにこれも一種の冒険ではある。


 この戦いに勝利するために、重要なポイントは次の二つだ。なぜなら鞄と靴は学校指定じゃない。一番のこだわりポイントになりうるわけだ。


 自転車通学なら、背負えて両手が自由になるリュックタイプの鞄。それからペダルから足が滑らないようにするために、やっぱりスニーカーがベストなのかな。


 だけど私は、微妙に通学距離があるのにあえての歩きを選んだ。

 革製のボストンタイプのバッグを腕にかけて、革靴を履いて颯爽と街を歩いてみたかったんだ。まあ……皮って言っても合皮レザーなんだけど。


 実は、歩きにこだわる理由はもう一つある。どっちかと言えばこっちが本題。


 そもそも自転車通学って、寄り道がしづらいんだよねー。


 友達と一緒に無駄にたくさん写真撮って、無駄にスイーツ買い食いしたりしながら無駄に喋りまくって、無駄に時間かけて帰る――小学生の時は、そういう無駄にギャルっぽい感じに憧れてたりしたんだ。


 いざやってみると――まあそれはそれでそれなりには楽しかった。

 だけど私って多分、中二病ってやつなのだ。実際に、中二だし。



***



 今日は、友達に適当に言い訳してソロ帰宅だ。久々の土曜の半日授業だから、時間はたっぷりある。


 中学に入って二度目の春。二年になった私は週一ペースでソロ帰宅をしている。

 一度も通ったことがない未知の道を探して、それを通って家へと帰ることにしているからだ。


 見たことない、何か特別なものに出会えやしないかってさー。


 別に、友達との毎日が楽しくないってわけじゃない。今だってカッコいいギャルにはなりたいと思ってるし、目指してもいる。

 だからこれは、ワガママなだけなのかも知れない。

 ただ、なーんとなく、アンニュイってやつなのだ。


 気怠げな眼差しで、ワンランク上の大人の魅力。

 ま、そんなものに憧れてアンニュイメイクの勉強したこともあったりはした。


 ただ、本当に退屈なのはどーなの? それはなんか違うんだよなー。

 欲しかったのは、あくまで佇まい的な? オーラ的な? 影がある感じ? それだけで十分。つまるところ、ミステリアスな訳あり美女感。


 したらさ、ご同類認定されて、危険な香りがする男が声かけてきたりするかもじゃん? 


「お前もプレイヤーなのか?」


 とかなんつって。

 プレイヤーとか言ってるのはなんかこう……闇のゲーム的な? まーそんな感じ。それ以上の深い設定はない。


 しかもだよ? そういうやつに限って、案外母性本能くすぐってきたりするんだよねー。ギャップ萌え。お約束ってやつ?

 超強くて、いつも命がけで私を守ってくれるんだけど、ふとした瞬間に逆に守ってあげたくなるような弱さを見せてくる――みたいな? あーもうたまらんて。


 で、待てども待てども一向に非日常が来てくれないもんだから、結局ちょいギャルメイクに戻しちゃった。

 どうもワンランク上の大人の魅力は私にはまだ早かったみたい。そううまくいくわけねーって思い知らされた。


 要するに、ギャルに憧れるギャル未満。私、朝顔あさがお菊莉くくり十四歳は、めくるめく大冒険がしてみたいのだ! ホントの意味で!



***



 待っているだけじゃ何も始まらない。非日常なんてものは、向こうからやって来てはくれないのだ。

 ならば、こっちから探しに行くしか無い!


 ――いうてもさ。


 よし! じゃ、いっちょトラックにでも轢かれてみるか! 


 ――とはならんでって話で。


 挙句の果てが、無駄な足掻きの未知の道探し、っていうわけだ。


 繰り返される平和で穏やかで、いつもと同じ退屈――じゃなくて普通には楽しい日々。

 でもそれだけじゃ何か人生損しているような、ちゃんと楽しめてないような、どこかの誰かに、何かで負けているような――そんな気がして来る。

 

 あー私の人生ってこれから先もずっとこのままなんだろうなー。


 とか大げさにため息をついてしまった。


 何せ時代は今や令和ってやつなのだ。スマホのナビアプリさえあれば、道なんて知ってようが知らなかろうがどうにかなっちゃう。

 道に迷うって概念すらなくなりつつあるわけだよ。お気軽に冒険出来るようになったのはいいけど、本当の冒険はできなくなってるのかも。


 アニメやドラマなんかで見たことがある遥かな大昔――例えば昭和? とかって時代には、ご近所にもさまざまな冒険が転がっていたりしたんだろうか?


 うーん、エモいよねー。あー……でも、土曜日も毎日学校があったんだとか?

 ぶっちゃけ、それだけはありえないけど……ちょっとそういう時代に憧れてしまったりもする。


 それでも、きっといつかは! 自分の可能性を信じるんだククリ!

 めくるめく大冒険が、きっと君を待っているぞ!


 そんな風に自らに言い聞かせながら、今日も今日とていつもと同じ、いつもと違う帰り道探し。


 何か妙ちきりんな事件にでもエンカウントしないもんかねー。


 もうあらかた試し終わって残りの数も少なくなりつつある、未だに通ったことがない道――未知の道を探しながら歩く。

 いつも通りの、そんな無駄な足掻きを繰りかえして――のはずだった。


 ――ついに来た! 未知の道、エンカウント!



***



 今日は、その見つけたばかりの路地が妙に気になったんだ。それは、大型車両が通るのはちょっと難しいだろうなっていうくらいの狭い道だった。


 なんの意味があるのか、道を包み込むように両側の側面に高い壁が建てられている。

 道が壁に囲まれるような形になっており、そこだけが他の空間から切り分けられているようになっていた。


 高速道路の遮音壁みたいになっていると言えば分かりやすいだろうか。


 あれ? こんなとこにこんな道あったっけ? ここら辺はあらかた探索済みのはず。なんで今まで気がつかなかったんだろ?


 淡い期待を胸にしてわざと寂れた感じの、少しでも危険な匂いがしそうな路地に足を踏み入れてみたりするのはいつものこと――そしてそれが、危険でもなんでも無いってのを思い知らされるだけ――なんだけど、この道は今までとはオーラからして違う。


 これってレンガだよね? 古くさー。昭和レトロとかってやつ? けど、それが逆に、いい。何かエモいじゃーん。


 なぜか、その路地の壁の建材だけが、唐突な感じにレンガ造りなっている。

 周りを見回して見たけど、他の壁はコンクリートで出来ているから、その道のレンガ壁だけが時代から取り残されてしまっているような、なんだか異質な雰囲気を漂わせていた。


 壁は、巡る季節を何回も乗り越えてきたんだろうなってことが一目で分かるような、すっかり色褪せた古びたレンガで出来ている。

 ところどころ崩れかけたりもしているし、落書きも多数。


 何より、その路地への入り口付近、少し高い位置に、左右のレンガ壁をつなぐような形で注連縄しめなわのような物が張ってある。


 紙垂しで――というのだったか? 稲妻をイメージした形に折ってある紙がいくつか垂れ下がっている縄である。

 私は、その注連縄らしきものを見上げつつ、うーん……と唸ってしまった。


 つか、ヤバヤバのヤバなんですけど。なにコレ? 注連縄? 神社とかでよく見るやつだよね? よく分からないけど、この道を封印してる――とかそういう感じのこと?


 壁だけじゃない。道自体もそうだ。周りの道は全てアスファルトで舗装されているのに、その道だけが土が剥き出しになっていて未舗装だった。


 道は、ビルとビルの細い合間に出来た極小のスペースを縫うように伸びていっている。

 ひっそりと、まるで影に隠れるように。


 だけどそれでいて、周囲に全く打ち解けれていない違和感と不調和感が、強烈なまでの存在感を放っていた。


 俄然、興味が湧いて来て視線がその路地に吸い寄せられる。と、その時。


稀人まれびとよ……」


 え? 今何か聞こえた? 気のせい? じゃないよね?


「稀人よ……稀人よ……」


 路地の奥から、誰かに声をかけられたような感じがしたが、目を凝らしても誰もいない。

 しかし、気のせいだとは思えなかった。かなりはっきりと聞こえたからだ。


「嘘? なになになになに? 今の何? なんかヤバくない?」


「稀人よ……」


 やっぱり、誰かに呼ばれてる。後ろを振り返ってみるが、誰もいない。

 どうも稀人というのは、私のことを言っているらしい。


 明らかに、未知の未知が目の前で起こっている。こうなるともう、興味を抑えることは難しい。

 花に群がる蜜蜂のごとく、だ。なんだか、こっちにおいでと誘っているような感じもあったり……。


 未知の未知が待っている未知の道……。


 でもさー、いくら狭い道だからって、こんな目立つ道を今まで見落としてたってこと? ありえなくない?


 道は暗く、狭く、曲がりくねっているようで、そのせいでどこに繋がっているのか先が見通せない。


 どこに繋がってるんだろ?


 久々に、むくむくと湧いてくる冒険心に心が踊るのを感じて、すぐにスマホのナビアプリを確認してみたら――。


 ナビアプリを信じるならば、そこには道が無いということになる。目の前に見えているはずの道が。

 出来たばかりの新しい道ならまだ分かるけど、これはどう見ても相当に古い。


 こっちに何かある。ナビに載っていないような何かが。特別な、何か。


 予感めいたものに誘われて、その路地に足を踏み入れたんだ。

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