第8話

突然の妹からの連絡に驚いたけど、嬉しくて色々な話をした。

それでも、凜華様からはいくら待っても来る気配がないので、寂しく手持ち無沙汰になっていい暇つぶしになっていた。

昨日は予定になかったのに告白紛いの事を勢いで発言してしまって、流れるままに連絡先を交換。しょうがなく交換してくれた。みたいな雰囲気になっていたから、不本意だったのかもしれないと思ったら私から連絡がしにくいと感じていた。昨日の今日でひと言くらいは来ると思い込んでいたのに。

友達になるのが嫌だとは言ったけれど、いつも見ているだけの人から、話せるようになっただけでも満足のはずなのに、嬉しさのあまり気持ちだけが先行して暴走気味になってしまったことは否めない。チャンスがきたと思ってあの場では開き直っていたけれど一晩経って少しの後悔が沸いてきて、さらに冷静になってから自分の行動を思い返すと恥ずかしすぎて、布団に潜り枕に顔を埋めて、満足するまで叫んだ。

それでも、気まずさを超え今は引くべきときじゃないと思っていた自分の頭とは逆に、いつも通り教室に行くのをためらって、教室近くの階段の踊り場で予鈴が鳴るまでやり過ごそうと隠れていたのに、ひーちゃんにあっさり見つかり、そのまま引きずられるように保健室に連れていかれている。

「凜華が体調悪そうだったから、保健室にぶち込んでおいた」

色々言いたいことはあったけれど、きっとまた顔を見たら想いが溢れてしまうかもしれない。

ひーちゃんが扉を開けようとした所で丁度よく扉が開いて中から顔を出したのは、その張本人だった。

これも何かの運命か、とそんな事を思ったけれどそれどころじゃない。昨日の今日で話が出来て舞い上がって、体調も心配して来たのに、話したくて仕方がない。

まずは呼び方に気を付けて、と言われても長いこと好きを拗らせている私がそう簡単に変えられるわけもなく、写真や映像でない本物と対面した時に溢れ出しそうなソレを抑えて喋っている。けれど、咄嗟に出る言葉はどうしても『凜華様』呼び。

わざわざ高校まで押しかけて来た私だから、結局行きつく先はただの友達でいるのは納得いかないから、少なくても友達以上にはなりたい。この1年でこの関係性にケリをつけたいのに。

「凜華様、動いて大丈夫なの?」

いくら意識してもやっぱりこうなってしまう。もっと話をしたら妄想の中で鍛え上げられた癖はなくなってくれるかな。

「やっぱり様っていうの、キャラじゃないかなぁ…」

「ごめんなさい。つい、癖みたいなもので」

他のファンと呼び方が一緒なのは嫌だったけれど、家に何冊もあるインタビュー誌に書かれていたのを見た時から、この呼び方が一番しっくり来ていたから定着している。

「私、友達少なくて。咲花さんみたいなキレイな人を友達とか信じられないし、未だに直視できませんが」

少し考えて、火照った顔を隠しながら振り絞って返事をする。

「きれいって私が?」

自分を頑張って着飾って、少しでもよく見てもらいたくて頑張ったから、そう思ってくれている事が嬉しくて舞い上がってしまいそうになる。

「よく言われない?最初モデルさんかと思ったもん」

「凜華様にそう言ってもらえるなんて幸せです!」

「呼び方戻ってます…」

つい嬉しくて、頬が緩んでしまう。でも、全員が全員「キレイ」というジャンルが好きとは限らないって何かの雑誌で見たことがある。そう言ってくれるだけで「好き」というわけじゃないから、喜ぶにはまだ早いのかもしれない。少しでも気に入ってもらえるように、好みをしっかりと確認して、そうなれるように努力をして早く私を好きになってもらいたい。ひーちゃんがいる事も忘れ会話に夢中になっていた。クスクスと笑っているのが分かって、黙らせようと静かに睨みつけた。

2人きりではないけれど、楽しい時間をゆっくりと過ごしていると、凜華様のスマホがなって視線を奪われた。

「間違いだったら申し訳ないんだけど、咲花さんってさ」

「さんは嫌」

「――咲花ちゃんってさ」

まだ話はじめたばかりで内容が分かるわけじゃないのに、悪い予感がした。これは、もしかしたらが的中したのかもしれない。スマホを操作している横顔を見て察した私も私。

その横顔は見慣れている、この感覚は勘違いではない。

それは、奈桜と仲良く話している時によく見る顔だったから。

面と向かって対面で話したのは1度きり、小学生の頃だったし会話というには程遠いものだった。それからも試合を見に行くことは多かったけれど、他の子達と違って無駄に話しかけにいったりサインをせがんだりもしたことがない。

欲しくなかったわけではないけれど、そういう事をする子達をあまり好きじゃなさそうなのをなんとなく感じていたから、そういう印象をもって覚えてもらいたくなかったから。

「妹さんいたりする?その子もバスケしてたり」

楽しい会話が続いていた後すぐのタイミングで奈桜の質問をしてくるから、少しだけむっとしてしまった。態度に出してしまいやってしまったと思ったけれど、タイミングが悪すぎた。今の凜華様には全く関係のないことなのに、独占欲丸出しの自分が恥ずかしくなってきた。

確かに、2人は先輩後輩という間なのにとても仲がよかったし、そんな関係性の奈桜がいなかったら知り合うこともできなかった。だけど、今はもう交流があるわけじゃない、凜華様はとっくにバスケを引退しているし、当時の学校近くに住んでいるわけでもない、クラブがある場所も遠い。それなのに、どうして今更。

妹に嫉妬してもしょうがないのは分かっているのだけれど、あの一件から当時の関係者と距離を置いている事は明らかで、その為の進路だったって、直接話をしなくても私には分かっていた。

私にバスケの才能があって、奈桜のいた立ち位置が私で、もっと近くでサポートしていればあんな目に――

って「ストーカー染みているから気を付けた方がいいよ」とひーちゃんに言われたのに変われていないじゃない。そんな行動になりがちな自分を自制したいから抑えているけれど、本当はもっと話したいのに、今更普通の接し方が分からない。

それくらい私はこの片思いを長々と拗らせすぎた。

むしろ、疲弊していた彼女を見なければ私は見ているだけでもよかったのだけれど。

見ているだけじゃなくて、近づきたいと思ったからこそ、ひーちゃんと同じレベルにと言わなくても、他のクラスメイトと喋る時みたいにはなりたい。自分の欲求を抑えつつ、じわじわと距離を詰めていくにはどうしたらいいのか。

少しでも同じ空間に居たいからと追いかけて受験した私家族には詳しい志望理由を話したことがないけど、さすがに奈桜には気づかれたかもしれない。

元々関係値を築き済みの奈桜が出てきて変にちょっかいを出されたくない、まともに話せて、連絡先を交換した今がチャンス、邪魔をされたくない。

奈桜から何か聞いた?アルバムを隠し持っていた以上の話はないと思う。

妹がライバルだと思ったことはないけれど、いつも近くにいた奈桜に嫉妬していた。今近くにいるのは私なのに。

こんな事を思ってしまう私は、凜華様の隣にいる資格はないのだろうか?

「多分、私がよく知ってる子だけど、奈桜がどうかしたの?」

こんな態度を取りたいわけじゃないし、2人の関係性が恋仲じゃないはずなのに

どうしも可愛くない態度をとってしまう。

今更後悔しても遅いのだけれど――

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凛と咲く花 彩女 @aya_me

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