第7.5話
「奈桜、ずっと携帯見てどうしたの?」
「久しぶりに連絡取れた人から連絡が来たんだけどね、その返事まだかなぁって」
「いつから待ってるの?」
いつから待っているかと聞かれたら、もう数年。先輩がバスケを辞めて、顔を出さなくなってから何十年というわけではないのに、ずっとずっと昔に感じた。
しつこく連絡をしない方がいいと我慢をしていたけれど、それでもきたやっときた返事で舞い上がってしまう。私が送った内容と全く関係がなかったけれど、それでもいいと思うほど嬉しかったのに、すぐに返事を返したのか逆に引かれてしまったのだろうか…。
「今朝からずっと待ってるんだけどなあ」
「朝?もうすぐ午後だけど、もしかしてあんた社会人の大人と付き合ってるとかじゃないよね?」
「そんなまさか」
先輩は引退をすると行って地元の普通高に通うと言っていたから会えなくはなってしまったけれど、さすがにあれだけ辞めると言っていたからまたバスケをしている事はないと思う。
練習に追われている私と違って、高校生はきっと自由な時間が多いから、返信をするタイミングは沢山ありそう…という完全な偏見だけれど、もしかしてここからまた数カ月と返事を焦らされるのだろうか。
「まぁあっちがそのつもりならいいけど。内容がなあ…」
「奈桜って追われるよりも追いたいって感じだもんね」
「何よそのイメージ」
確かお姉ちゃんが、突然進路変更をして光莉さんと同じ学校に行くと言って遠くの高校に1人暮らしをしてまで通い始めた。元々成績もよく、悪いこともしてこなかったお姉ちゃんだったし、光莉さんもうちの両親が高く評価していたこともあって揉める事もなく決まった話だったけれど、同時に私は妙な不安を覚えたのも確かだった。
「お姉ちゃんがさ、先輩を追いかけて受験したかも疑惑が」
「お姉ちゃんってあの美人の?」
私と違って、美人で人あたりもよくて、でも何を考えているのか分からなかったお姉ちゃんは、少なからず先輩へ好意を抱いていたのは私も感じていた。
クラブの集合写真とか、そういうのをすごく欲しがるし。可愛い妹の写真が欲しいから!とは言っていたけれど、わざわざ自分でコレクションするほど、シスコンを感じたことはない。
その目的が先輩だったとして、もしかしたらという不安を払拭すべく先輩との久しぶりのメッセージを期に質疑応答でもして情報収集をしようと思っていたけれど、肝心の返信がこない。
「お姉さんが関係してるならお姉さんに聞いてみれば?」
状況が分かっていないはずの友人の言葉が的確過ぎて、私は勢いそのままにお姉ちゃんへメッセージを打ちこんだ。
『お姉ちゃん元気してる?』
先輩と違ってお姉ちゃんはすぐに既読が付いて返事が来た。
普段からやり取りをしていて仲が良い姉妹ではあると思うけれど、普段の学校生活については詳しく聞いたことがなかったので、初めて姉の普段の生活の話をする。私はまだ姉が1人暮らしをする家にお邪魔したことはないから詳しく聞いたことがなかった。
他愛のない話をして、いくつかやり取りをした所で本当に聞きたかった事を聞く。
『どこの高校に進学したんだっけ?』
さっきまでテンポよくやりとりが出来ていたのに、明らかに返事が遅くなるメッセージにじれったさを感じた。回りくどく聞かないで、最初から聞いてしまえばよかったと思うけれど、隠すなら隠すで両親に聞けばいい話だから問題がない。
知れるタイミングが少し遅くなるだけだし。でもこれは、きっと思っている通りの結果なんだろう。お姉ちゃんは口には出さないだけで明らかに先輩のファン。クラブで撮影した写真は自分にも分けて欲しいとお願いされるし、私が写っているからといいつつ、私が一切写っていない関係のない写真データまで手に入れていた事も知っている。応援だって、私に来ると伝えずに来ていた事も知っていた。お姉ちゃんはきっとバレていないとおもっているけれど、あの人は自分で自覚していないだけで結構目立ってしまう。姉の話をしただけで、美人のお姉さんがどうした?とさっきみたいに言われてしまうほどには。
さすがに、先輩がバスケを引退してまで続いているとは思っていないから、学校が同じだったとしてもたまたま、という可能性もある。
後は姉の返答次第で、勘違いかだったかどうかわかるはず。
『言っても分からないと思うから』
最初から私の中で確定していた情報が、この一言だけで確実になった瞬間だった。でも私はそれ以上何も聞かない。次は先輩とのやり取りで聞き出せばいい。お姉ちゃんにはそれっぽい返事を返して、後は先輩からの返事を待つことにした。
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