九月

 親の承諾書を提出できたのは、夏休みも折り返しに差し掛かった十八日のことだった。

「おや、ありがとう。広報活動には特に規制をかけていないから、好きにやりなさい。デモについては、きっと椿つばきくんからも連絡が入るだろう」

 萩野はぎのさんは相変わらず優しくて、でもその分手首の傷痕が痛々しかった。

「はい。自分なりに少しずつ頑張ってみます」

「君の成果を楽しみにしているよ」


 それから一ヶ月弱。手取りは思ったよりも多く、一月で約五万円を稼ぐことができた。私が主に請け負っていたのはSNSだった。五万円を稼げるほどリツイート数が多かったということは、否定語句禁止法に反対している人も多いということなのだろう。

 新しくデモに参加するよう、私だけではなく梨花りか桜田さくらだにも声がかかった。

「今回のデモは、お前ら三人にもデモの起こしかたを知ってもらおうという萩野さんの意向で、手続きは俺と三人でやることになった。とはいってもメインはお前ら三人だから、まあ頑張ってみろよ」

 そろそろ教師を辞めるとか言っていた塚越つかごし先生は一向にやめる気配がなく、まだ青柳学園高校あおやぎがくえんこうこうで教鞭をとっている。

「分かりました。期日とか、メンバーとかってどうなっているんですか」

「基本的には『マリーゴールド』のいつものデモ活動ということになっているから、メンバーは別に新しく集める必要はないぞ。その代わり、日付や場所は自分たちで決めていいそうだ。そのプレゼンも行わなくちゃならないから、できれば二週間以内に手配をよろしくな」

 そういって塚越先生は出て行った。

「相変わらず急に呼び出して急に変なこと押し付けてくるよな」

「そういうところが好き」

 梨花の塚越先生への愛も少々よく分からない。

「とりあえず、時間もないことだしもう始めちゃおうよ。どうせ暇なんだから」

 テスト期間の最終日ということもあり、何もないのに時間だけがあるという状況に陥っていた。

「えっと……、デモを起こすには……っと。いつどこでだれが何のためにやるのかを警察に申請する、か……」

「じゃあまず日にちとか考えないとね」

 二週間以内ということは、その後にプレゼンをして、決定してから申請を行うのだろう。場所はどうしようか。

 しばらく部屋に沈黙が流れる。

 珍しく、桜田が一番に口を開いた。

「俺、十月三十一日の渋谷でやったらいいと思う」

「――珍しく桜田がシリアスだと思ったら、やっぱりそういうこと言いだすか~! ハロウィーンの渋谷なんて無理に決まってるじゃん、絶対申請通るわけないって」

「でも桜田の意見も一理あると思うよ、私は。人も多いから知名度も上がるんじゃない?」

 その後、一時間とポッキーひと箱を費やした話し合いの結果、第一希望はハロウィーンの夜六時からの渋谷、第二希望は十一月一日午前中の国会議事堂前となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る