第7話

「……」


 僕からの質問を受けた彼女は何も答えることなくただただ静かに僕の方へと視線を向けてくる。


「……裏切り者」


 長い沈黙の果てにようやく彼女は口を開く。


「ん…?僕は君を裏切った記憶ないけど?」


「御託なんて求めてない」


 彼女は僕の言葉を一瞬で切り捨て、こちらとの距離を詰めてくる。


「よっと」


 速くはあるが、一切の技のない動きで僕の方はと来た彼女の腹に蹴りを一発。


「ふぐっ……!?」


 避けることも、ガードすることもなかった彼女はそのまま僕の一撃を喰らい、大きく吹き飛ばされる。


「……ぁ」


 蹴りを受け、地面へと転がる彼女の身に再びの変化が訪れる。


「……あ、ぁ?わ、私は何を……いつ、え、ぁえ?な、にが……おぇ」


 全身からどこか黒い煙をあげるお姉ちゃんほ焦点の合わない目で茫然と言葉を漏らし続ける。


「やっとの降臨、だね」


 お姉ちゃんの体から出てきた黒い煙が一つとなり、1人の少女の姿となってこの場に顕現する。


「邪魔」


「……っと」


 この場に顕現した少女は自分の近くにいたどこか虚ろなお姉ちゃんへと腕を一振りして大きく吹き飛ばす。


「セーフ」


 吹き飛ばれて宙を舞ったお姉ちゃんが地面へと落ちる前に僕は彼女をキャッチすることに成功する。


「自分の家族を殺した仇に随分と優しい態度を見せるのだな」


「お姉ちゃんを操っていた君が言う?」


「ふん、それが内心で望んでいたことを叶えたまで。あの時の私は本当に望んでいないことをそれにやらせるほどの力もなかった」


「まだ幼かった少女の大好きな弟を独り占めしたいっていう些細な願いでお姉ちゃんをさも家族を皆殺しにすることを望むサイコパスかのような扱いしないで欲しいな」


 僕と少女は互いに無表情のまま感情豊かに言葉の応酬を行う。


「ふふっ……さて、初めましてだね。こうして実際に会うのは。君に会えて嬉しいよ、神様」


 僕は目の前にいる少女。

 長らく存在を認知してはいたが、それでもついぞここまで互いに肉体で持って顔を合わせることなかった神様へと僕は言葉を向けるのだった。

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