第6話

 そこがどこであろうとも光あるところには必ず闇もある。

 煌びやかで栄華を極めるこの国の王都においても行き場を失った者たちの行き着く底の底、スラム街が存在していた。


「随分とここも静かになったものだ」


 普段はならず者たちで賑わうここは混乱の渦にある表と違って実に静かのものだった。

 いつもは響いている怒号と下衆たる声。

 絶叫に悲鳴、すすり泣く声もその何もかもが消え去っている。


「ふんふんふーん」


 血潮に彩られ、いつもより更に多くの死体が転がるスラムの道を僕は鼻歌を歌いながら進んでいく。


「やぁ、クレア」


 しばらく進んだその先。

 強引な力で整地され、広場となった場所に茫然と立っていた一人の少女を視界にとらえた段階で僕は立ち止まり、口を開く。

 まだ、警戒をする必要も攻撃態勢を取る必要もない。

 僕は実に自然な態度でクレアの前に立つ。


「うっ……ぁ、あぁぁぁ」


 僕からの言葉を聞いた少女は、僕とサーシャの前から忽然と姿を消していたその少女、クレアは頭を抑えながら呻き声をあげる。


「あぁぁぁぁあああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」


 口からだらしなく涎を垂らし、獣のような声を上げるクレアは体をよじらせる。

 そんな彼女へと地面から浮かび上がってくるドロドロとした黒く、禍々しい液体が流れ混んでいく。


「うっ、あ、……ぁぁ!!!」


 失っていた力。

 『 』の再臨に伴って徐々に熔け、クレアから盛れ出していた何かが再び彼女の元に集まり、一つとならんと荒れ狂う。


「ぉっ、ぁ……がぁ!!!」


 体中から血を吹き出し、鈍い音を立てながら体より湧き上がってくる血肉に押される形でその体を大きくさせていく。


「あー、ぁー、あ゛ー」


 珍しいヴァイオレットの瞳はその色を徐々に美しい碧へと変えていく。


「おかえり、お姉ちゃん……いや、今は神様って呼ぶべきかな?今、君はどっち?」


 先程までは確かにクレアであったその女性へと僕は笑みを浮かべながら疑問の声を投げかけるのだった。

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