第10話

 レイン先生の家で行われた中間テストお疲れ様会を終えた僕は南の領地の方に来ていた。

 未だここは平和であるが、それでも、教会から派遣される騎士の数は多くなっていることで領地内の一般市民たちが何か起きたのかと不安がっていた。


「こうしてみると壮観」


 教会が保有する戦力、騎士団は3つ。

 教皇自らが率いる超精鋭部隊、聖騎士団。

 教会の一般戦力であり数多くの騎士がいる、聖堂騎士団。

 そして、最後に僕たち異端審問官。


 ここに派遣されているのは教皇を含めた聖騎士団。

 滅多に神都から離れることのない聖騎士団、それも教皇もいるとなると確かに何が重大な事が起きたのだと市民たちは思うだろう。

 

 それに加えて異端審問官最強たる『死神』である僕もここにいるのだ。

 今、ここに教会が力のほとんど投入していると言っても良い。

 僕は様々な戦闘準備に動いている聖騎士団から視線を外して爺ちゃんがいるところを探し、転移した。

 

 ■■■■■


 聖騎士団の駐屯所。

 そこの奥に教皇はいるようだ。

 教皇の周りには聖騎士たちもいるので流石にいきなり現れるわけにもいかない。

 ちゃんと正規のルートで会いにいく。


「教皇様へのお届け物を持ってきました」


 駐屯所の入り口で見張りをしている聖騎士の二人に封筒を見せる。


「うむ。よし」


 封筒に押されているシーリングワックスを確認したのだ。

 教皇への届け物にだけ押される特殊な刻印。

 特殊な魔力も一緒に込められいるのでは偽装されることはまずない。

 僕は正しい入り口から堂々と駐屯所の中に入る。


「えーい!」


 そして、僕が駐屯所の中に入ると同時に小さな女の子が僕に抱きついてくる。


「ん?」


「ぎゅー!」


「いや、何?何のよう?」


「ぎゅー!」


 ぎゅー!っと言って僕に抱きつくだけで僕の質問に答えてくれない……え?何この子。

 まだ誰かもわからないこの子を力づくで叩き潰すわけにもいかないし、ぞんざいに扱うことも出来ない。


「よっこいしょ」


 足にしがみついて離れない小さな女の子をお姫様抱っこで抱えてあげる。

 僕が対処するのは少々手が余る、このまま連れて行って教皇にどうすればいいか問おう。

 

「わー!きゃー!」


 小さな女の子が楽しそうな声を上げる。

 

「じゃあ、行くよ」


「ぎゅー!」


 僕は小さな女の子を抱えたまま爺ちゃんがいる天幕に入る。


「教皇様に知らせを持って参りました!」


 そして、僕は久しぶりに行う教会特有の敬礼をしながら教皇に向かって声を張り上げる。

 

「誰からじゃ?」


「『我は全てを知っている』であります!」


「うむ。あいわかった。お主らしばし席を外せ」


 爺ちゃんが自分の周りにいる聖騎士に告げる。


「は!」


 天幕から聖騎士たちが出ていく。

 そして、天幕内に残されるのは僕と爺ちゃんと、小さな女の子。


「そうか。もう中間試験は終わったか」


「うん。終わったよ」


 その状況になると共に話し出した教皇の言葉に僕は頷く。


「そうか。思ったよりも早かったのだな。まだこちらはほとんど何も進んでおらんよ」


「ふーん。僕は好きに動いて良いんだよね?」


「当たり前じゃ。だが、何か情報を掴んだら儂の方に連絡をくれ」


「うん。わかったよ」


「じゃあ、ほれ」


 僕は爺ちゃんから差し出された紙束を受け取る。


「今わかっている情報がそれらにまとめられておる。少しはお主のためになると良いのじゃが」


「うん。ありがたくもらうことにするよ。ところでこの子は?」


 僕はこれまで教皇が一歳触れていなかった自分が抱えている小さな女の子へと視線を送り、疑問の声を上げる。


「あぁ。親を失い身寄りのない子を見つけてのう」


「……?別にそれくらい珍しくないだろう?」


「いや、その子はその見た目のせいで忌み子として扱われているようでなぁ。流石に捨ておけんとは思ってのう」

 

 確かに……真っ白な髪にヴァイオレットの瞳。

 なかなか居るものではない。

 というか、僕も世界中を回っているがこんなの見たことない。

 珍しい見た目と言うのはそれだけで迫害の対象なり得るのだ。


「爺ちゃんはお人好しなんだから……だからと言ってほいほい拾ってどうするのさ」


「その子、お主に任せることにする」


「は?」


「拾ったはいいものの、誰にもなついて貰えんでのう。困っていたのじゃよ。そこで現れたのがお主じゃ。その子もお主になついているようじゃし、任せるとしようぞ」


「え……?」


 僕は自分の腕の中にすっぽりと収まっている小さな女の子へと視線を落とす。


「ぎゅー!」


 小さな女の子は屈託のない笑顔を見せ、僕の腕を強く抱きしめる。

 えー、邪魔なんだけど。


「いいじゃろ。その子は少し遠い場所から連れてきたのじゃ。ここらで歩き回ってもその子が誰かは誰もわからぬであろう」


 僕とこの小さな女の子で兄妹として活動しろっていうことか。


「う、うーん」


 とはいえなぁ。

 僕は目立たないように髪色も瞳の色も変えるし、別に目立つ必要もなぁ。


「どうせ儂らが動いたことですでに事は大事になりつつある。大胆に動いたほうが良いじゃろう。あえて目立つことで注意の目をある程度向けさせることで、影で動きやすくなるということもあるじゃろう」


「うーん。なるほどね」


 まぁ、いいか。

 どうせこの件はすぐに片がつくだろう。

 最初から目立たず隠密行動をするか、あえて目立つことで注目をそらし、その上で夜などに活動するか。

 どちらが効率的か。

 それを図るためにも実験的に動いてみるのも一興か。


「そうだね。じゃあ僕がこの子を預かることにするよ」

 

 僕は爺ちゃんの言葉に頷く……僕はこの子を預かることにするのだった。

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