第3話

 食事をとった後、僕たちはしばしの自由行動を取っていた。

 僕がここに来た目的はレジスタンスを秘密裏に探るため。

 ここで行動が縛られると何も出来なくなってしまうので、自由行動は必須だった。


 ただし、自由行動をしていると言ってもそれをしているのは僕の他にサーシャとバース、アリス、リリスの五人だけだ。

 その他のクラスメートはレイン先生からのありがたい補習授業である。

 この面々は日々、僕からの指導を受けているため、頭の悪いバースであっても成績はかなりマシ。

 とりあえずは免除ということになっているのだ。


「はー、落ち着きます」


 地方らしい田舎の町を歩いていると、サーシャがそう呟く。

 

「意味がわかりませんわ!全然落ち着かないですわ」


「…天」


 それに対するアリスとリリスの反応は正反対。

 ここには平民として生まれ、田舎で育ったサーシャと貴族出身でぬくぬく都会で育ってきたアリスの差が激しく出ていた。

 治安も良くないのか、ちょいちょいスリにあいそうにもなっている。

 慣れていないアリスとリリスはそのスリの対処に苦難していた。

 

 ちなみに僕は言うにも及ばす、バースは流石と言うべきか何も変わらずスリに対処しているし、サーシャも慣れているのか、対処には余裕そうだった。


「すみません!おっちゃん!串焼き一つ!」


 僕は他のメンバーから離れて少しだけ離れて路上に店を構える屋台のおっちゃんに声をかける。

 

「あいよ!銀貨一枚な!」

 

「おいおい!そりゃないよ、おっちゃん!串焼き一つでそんな高価なことねぇだろ?」


「いいだろう?どうせ金は持ってるんだ。少しくらい恵んでくれたってな?」


「えー。まぁいいよ。金ならあるしな!それで何?そんな余裕ないのか?」


「まぁ、そうだな。ここ最近南の領地全体での税金が引き上げられてな?」


 ん?そんなの僕は聞いていないぞ。


「それでみんながみんな生活がかっつかっつになっちまってなー。どこも火の車さ!あんちゃんも貴族の子息やろ?なんとかしてくれんか?」


「あー、そうだな。父上に頼んでみるよ」


「お!そうか!ありがとな!ほらできたぞ!銀貨2枚だ!」


「増えてんじゃねぇか!まぁいい。ほら」


「お?マジか!あんちゃんも太っ腹やなー!」


 僕はおっちゃんに銀貨2枚を渡して串焼きを一本受け取る……それにしても、かなり規模が大きそうだな。

 税金が引き上げられたなんて僕は知らない。 

 爺ちゃんもおそらく知らないだろう。

 

 つまり全ての南の貴族、中央から派遣された人材すべてがグルってわけだ。

 全員が全員レジスタンス側に寝返るとは考えにくい。

 ということは洗脳か、脅しか。

 どちらにせよ、面倒なことになるのは変わりなさそうだ。


「……また買い食いですか?」


 串焼きを買って戻ってきた僕を見てサーシャが半ば呆れながら言葉を漏らす。


「別に良いじゃん。んー、美味しい」


 僕はついさっき買った串焼きを頬張りながらサーシャへと声をかける。


「本当に食べるのが好きなんですね」


「ん。美味しものは心を豊かにする」


「まぁ、それはわかりますが」


「僕は個人的に貴族が食べるようなお上品な料理よりこういうほうが好きなんだよね」


「ですよね!私もです!学園などで出てくる料理はどれも豪華で美味しいには美味しいんですけど、なんか少し落ち着かなくて……」


「だよね。こういうほうが持ち運びも便利だし」


「持ち運びですか?」


「そうそう。仕事に持っていける」


「……え!?串焼きを食べながらですか!?」


「うん、そうだよ」


「す、すごいね」


 僕とサーシャは他愛もない会話をしながら町を歩く。

 ちなみにだが、バースとアリスとリリスは貴族での付き合いがある人のところに挨拶に行かなければいけないらしく、抜けてしまっている。

 急に予定が入ったようで、僕が串焼きを屋台のおっちゃんから買っている間に連れていかれたのそうだ。

 

「ん?」


 そんな中、僕はどこか異質な魔力を感じて足を止める。


「どうしたのですか?」


「いや……」


 なるほど……あそこか。


「ちょっと行こ」


「え?な、何?」


 僕はサーシャの手を取り、歩きだす。

 躊躇なく裏路地に入り、先へ先へと進んだたどり着いた場所は一人の露天商の店。


「な、なんでこんなところに……?」

 

 かなり治安の悪いところにまでやってきたことに少しばかりの恐怖を抱いているサーシャが困惑の声を上げるのだが、僕はそれを無視し、たどり着いた露天商の老婆へと口を開く。


「お前?何者?」


 僕は少しばかり感じた異質な魔力が気になって来ただけなのだが、この露店で売られているものを見て初めてこの店の異常性に気づいた。

 売られているものはすべて劣化してはいるものの、そのどれもが一級品。

 値札に書かれている値段では決して手に入らないようなものばかりであった。


「ヒヒヒ、価値に気づけるとはお主もうやるのぅ」

 

 僕の視線を受けてもビクともしない老婆は怪しげな笑みを浮かべて、しわくちゃの口を開く。


「何者?」


 怪しさ。

 怪しさしか残らない老婆。

 放置することなど出来はしない


「だ、駄目ですよ!いきなりいちゃもんつけちゃ!」


「……そうだね」


 別にこいつに背教の疑いがあるわけでもない……そこまで問い詰める用件でもないだろう。

 ただの露天商であれば、ね?


「これ頂戴」


 僕は一つの異質な魔力を放つネックレスを指差し、購入したい旨を告げる。


「ヒヒヒ、まいど」


 僕はお金を渡し、ボロボロになったネックレスを受け取る。


「せっかくだし、サーシャの分も」


「え?」


 僕はついでにサーシャが持っておくべきであろう優秀な指輪を一つ買う。


「『輝け』」


 僕は魔法を使ってネックレスと指輪を新品同様のものにまで戻す……これは神話時代の秘具だ。

 当然、強力な力を秘めている。

 ここに売られているものすべてが神話時代のオーパーツと言うべきものである。


「え!?」


「はい、あげる」


「あ、ありがとう」


 僕はピカピカになった指輪をサーシャの指につけてあげる。


「ヒヒヒ」


「……それじゃあ、またね」

 

 僕たちの様子を見て楽しそうに笑っている老婆へと視線を送り、再び会おうと告げてからこの場を去る。

 にしても、だ……あの老婆は一体何者なんだ?

 今まで会ってきた者の中で最も不可思議だったが……どこかで会ったような気も、僕の同類のような気もするんだけどな。

 何だったのだろうか?

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