第1話

 帰りのホームルームの中で。


「中間試験まで後二週間を切った」


 教卓の前に立つレイン先生が間近までに迫った中間試験について話し始める。


「この中間試験もクラスのptに反映される。上から順に30pt、20pt、10pt、5pt、0ptだ。順位は一人の中間試験の全教科の平均点の合計となる。以上だ」


 重要な知らせを淡々と行ったレイン先生は詳しいことは説明せずに話を終わらせる。


「それでは帰りのホームルームを終わりとする。早々に帰宅するように」


 そして、そのままレイン先生はさっさと教室を出ていってしまった。


「ひ、ひどくないですの!合計点ってことは私達のクラスが圧倒的に不利じゃないですの!」


「……」

 

 レイン先生が退出した後の教室では、各々の生徒たちが先生の残した説明について話し始める。

 定期テストが平均点ではなく合計点で決まる以上、元々の人数が少ない僕たちは初めの段階で不利を強いられてしまっているのだ。


「い、いいじゃないですか。今のEクラスの人たちは17人くらいなので頑張れば勝てるじゃないですか」

 

 不満げに声を荒らげるアリスに対してサーシャがそれを宥める。

 イプシロンクラスへと落ちた元デルタクラスの人たちの中にはバンバラを含め自主退学したものが数多くいた。

 その結果17人しかいなくなり、僕たちとそう変わらない人数にまでなったのだ。


「だが、ガンマクラスより上を狙うことはできねぇじゃねぇか」


「いいじゃないですか。私はデルタクラスで満足ですよ?」


「おいおい、向上心持てよ!」


「大丈夫。みんな100点取ればいいんだよ。この学園の中間試験の平均点が50点超えることはほぼないらしいから」


 悲観的なことを話すみんなに対して告げた僕の言葉にうんうんとリリアも同意してくれる。


「これだから天才はですの……」


 そんな僕に対してアリスが呆れたように呟く……やっぱり流石にダメか。


「私達はデルタクラスに上がったとはいえ元イプシロンクラスだ。そもそもイプシロンクラスの連中に勝てるのか?元々の学力も、そして人数も負けているではないか」


 僕たちが話しているところにキースも混ざってくる。


「た、確かにそうですね」


「か、勝手に三下扱いしてしまっていたですわ。ど、どどどうしたらですの」


 キースの発言に二人が動揺しだす。

 確かにバンバラといい、確かになんとなくの三下感はあったね。


「まぁ、勉強するしかねぇだろ」


「おぉ。バースがそんなことを……」


 僕はそんなバースの言葉に対して感嘆の声を漏らす。

 あのバースが。

 勉強嫌いのバースが自発的に勉強しようだなんて……。


「うるせぇよ!」


「まぁ、それしかないですね。デルタクラスのみんなで勉強でもしましょうか」


「「ひぃぃいいい!」」


 みんなで勉強しようと言うキースの発言にナーバスとレーニンが悲鳴を上げる。

 二人はカタカタと震えながらサーシャを見ていた。

 サーシャ。あの二人に何をしたの?


「これから毎日みんなで勉強するとしよう。場所はレイン先生の家にしようか」


 キースはそんな悲鳴を上げる二人を無視して話を続けるのだった……ん?レイン先生の家?

 何故にそこなの?

 

 ■■■■■


 ということで、放課後。


「な、なんでお前らが?」


「失礼しますねー」


 僕たちはレイン先生の家へと押し入っていく。

 困惑するレイン先生をよそにキースが強引に中へと入っていく……本当に強引だな。まぁ、商売にも思いっきりの良さが必要だと言うしね。

 うん。

 このくらいのほうがいいのかもしれない。


「お邪魔しますわ」


「……」


「お邪魔させていただきます」


「邪魔するね」


「お邪魔する」


 続々とクラスメートたちがレイン先生の家に入っていく。

 レイン先生は領地持ちの貴族の家なのでご実家は領地の方にある。

 なのでレイン先生は一人暮らしであり、王都に建てられたこじんまりとした一軒家である。


「はー、大きな家ですね」


 貴族の家と考えるとかなり小さいレイン先生の家へとやってきたサーシャは感嘆な声を上げる。

 貴族視点と平民視点は大きく違うだろう。


「いやいや、ちょっと待て。なんでここに来た?」


 突然入ってきた僕たちに対して、レイン先生は困惑の声を上げる。


「いや、みんなで勉強しようとなりまして、場所をここにしようと」


「いや、なんでそうなる?」


「先生なんですから私達の勉強を見るのも仕事でしょう?」


「いや、俺は別の仕事があってここでやっているんだが?」


「え?」


「いやだから」


「え?」


「俺には仕事が」


「え?」


「あの」


「え?」


「おい?」


「え?」


「……」


「え?」


「はぁー、もういいわ」


 ただ『え?』の一言でゴリ押していくレイン先生は根負けし、ため息をついて諦める。

 凄いな……圧が。

 

「はぁー、お前ら全員が入れるような場所があったかな」

 

 レイン先生は僕たち全員を眺めて、ため息をつくのだった……クラスメート全員15名、これら全員が入るにはかなりの広さがいるだろう。


 ■■■■■


 しばし時が流れ、ようやく準備が整った。

 

「はぁぁーー」


 レイン先生が重い重いため息をつく。

 レイン先生の家には結局Dクラス15名が集まれるような場所はなかったため、急遽部屋の模様替えをしてスペースを作らなければいけない事態となってしまった。

 魔法を駆使して作業すること1時間。

 ようやくその準備が終了した。

 長い。非常に長かった。

 確実にこの一時間別のところで勉強したほうが確実に良かった。


「じゃあ俺は別のところで仕事をしてくるから後は好きにしててくれ」


「待って」


 しれっとこの場から立ち去ろうとしていたレイン先生を僕が止める。


「ひぃ!?」


 そして、僕に止められたレイン先生は情けない声を上げる。

 いや、あの、だからなんでそんなにビビっているの?

 僕ってば特に何もしていないよね?


「わかった。俺も教えよう」

 

 そして、レイン先生は方針を一瞬にして転換し、教えるのに対して意欲を示すのだった。

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