第16話

 陽も落ち、既に時刻は夜。

 サーシャの家にアリスとリリスが集まり、彼女たちは女子会を開いていた。


「全く!ナンパするなんて!」


 サーシャはボスボスと枕を叩く。

 普段のサーシャならそんなことはしないだろう。

 なんて言ったてその枕は高級品。普段使うのすら躊躇うレベルのものでサーシャはひどく大切に扱っていた。

 だがしかし、そんな枕へと容赦なく拳を振り下ろすほどにサーシャの心は荒ぶっていた。


「荒れていますわね。まぁ、あの二人の追い詰めかたが……」


 その様子を見ていたアリスが苦笑する。


「サーシャはノーン君のことをどう思っているんですの?」


「……」


「ふぇ!?」


 アリスとリリスがたった一言で顔を真っ赤に染めるサーシャへと好奇心むき出しのワクワクとした表情をサーシャへと送る。


「えっと……私のこと助けてくれて……スラム出身であることに劣等感を持ってなくて、強くて、頭が良くて、かっこよくて、とても頼りになるんです……」


 そんな視線を受けるサーシャしどろもどろになりながらもノーンに抱いている感想を告げる。


「おぉですわ。でも、ノーン君って異常なまでに常識を知らないですわよね。私としてはそこがどうしてもマイナス評価になってしまうんですわ。そこらへんは気にならないんですの?」


「そうなんです!だから私がしっかりしないと……!」


 アリスが持つノーンへの率直な感想、酷評。

 だがしかし、そこにすら愛おしさを抱くサーシャは小さく握りこぶしを作り、力説する。

 これ以上ないほどのイケメンで頭脳明晰、鎧袖一触な完璧超人とも言える彼が時として見せるポンコツ具合。

 そのギャップにサーシャは魅入られていた。


「なるほですわ……ふむふむ。青春ですわ。それで結局のところ、どう思っているんですの?好きなんですの?」


「ふぇ!?」


 サーシャは既に赤く染まっていた頬を更に赤らめてうつむく。


「……」


 そして。

 長く、長く、長い沈黙が続いた後。

 

「た、多分、好き、です……」

 

 サーシャが消え入りそうな声でぼそりと声を漏らす。

 

「最初はただ助けてくれて強くてすごいなぁという憧れだったの。でも、その。勉強でも実技でも優しく教えてくれて……。強くて優しくてかっこよくて。本当に強くて頼りになって。……その。だけど完璧じゃなくて、そこが」


「そうなんですわね」


 しどろもどろになりながら話すサーシャへとアリスとリリスは温かい眼差しを向ける。


「応援しますわ!……にしても、ノーン君を相手にいったいどうアプローチしていいのかわからないですわね」


「……」

 

 応援すると意気込むアリスであるが、実際のところ何をすればいいのか、まるでわからなかった。


「そうですよね!」

 

 アリスの言葉にサーシャが勢いよく頷く。


「掴みどころがないと言うか、少し不気味というか」


「ノーン君の悪口は言わないでください」


「あ、ごめんですわ」


 急に真顔になりガチトーンで話すサーシャにアリスは謝る。


「でも、リアルな話として恋愛感情を理解してない相手を落とすのって絶対に大変ですわよね。趣味とかも全然わかんないですわ。色々と謎が多い人ですの」


「そう、ですよね。私はいったいどうしたらいいんでしょうか。もう諦めてこのまま恋人になったほうがいいのでしょうか?ですが、やはりそういうのは互いが好きでないと……」

 

 ノーンと恋仲になるのは実に簡単であると言えるだろう。

 付き合って、と言われればノーンはその言葉を決して拒まぬであろう。


「真面目ですわね」


「え?そうですか?」


「はいですわ。基本自分が好きな相手、欲しい相手は何が何でも手に入れますの。それに貴族は基本政略結婚ですわ」


「そ、そうなんあだ……あっ、そうだ。貴族の恋愛事情を教えてください!私だけ根掘り葉掘り聞かれるのもアリスとリリスに好きな人はいるの?」


「私はいませんわ。それに婚約者もいませんの。リリスも同じですわよね?」


「……」


 うんうんとリリスは無言のまま肯定する。


「そうなんですか。じゃあじゃあ……」


 三人の女子会は夜遅くまで続いた。

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