第15話
何でもない学園の休み時間での一幕。
「あぁー、彼女がほしいー」
「それな。だよな?ノーン」
「ん。当たり前。僕がこの学校に来た理由は彼女を作ることだからね」
僕はいつも一緒にいるサーシャたち以外の友だちとダラダラ雑談に花を咲かせていた。
「すっげぇよな!その理由!まぁあんだけ強ければスラムの奴だったら十分だよな!」
「あーあ。俺らももっと強ければなぁ。親はきついし、かと言って生活が楽なわけじゃないし」
「もう貧困に喘ぐ平民と変わらねぇよな」
「それな!」
「でもスラムよりはマシでしょ?まともな体を作れるご飯を食べれるもんね。カビたパンは?誰かの嘔吐物は?雑草は?虫は?死体は?食べたことある?」
「「すまん、負けた」」
僕の一言に自分の前にいる二人は声を揃えて、頭を下げる。
彼らはナーバスとレーニン。
二人とも同じクラスのクラスメートであり、騎士爵の子息。
騎士爵とは領地も仕事もない一代限りの栄誉称号である。
何の仕事も与えられないのに、騎士爵であり貴族であることには変わらないので屋敷に住み、高い服やドレスを買い他の家のパーティにでなければならない。
そのため、入ってくるお金が増えるわけではないのに出費が重なるのでその分食費などを削らないければならないのだ。
しかもこの二人の親は辺境でたまたま活躍しただけなのでもともと騎士として大金を稼いでいるわけでもないので、更に苦しい……一応、騎士爵となった者の子供は再び親同様に騎士爵を承りやすくなるという特権もあるものの、焼け石に水とも言える利点だろう。
まぁ、この制度自体が優秀な騎士を苦しめ、力を与えないようにするためのものだから苦しくて当然なのだが。
昔は反乱の恐れとかもあったからよかったとして、現代でやる必要があるのかどうかは疑わしい。
活躍したものにはちゃんとそれ相応の報酬を与えるべきだと思う。罰ゲームでなく、ちゃんとしたものを。
「いやぁ、でもよ。うちの親とかは本物の貴族になれるようにとうるさいからなぁ……親からの重圧が本当に凄くて」
騎士爵は3世代に渡って活躍し続けたら男爵として認められるようになる。
ただし、騎士爵から男爵に上がれた人なんて長いこの国の歴史の中でも数えるほどしかいない……まぁ、よほどの事でもない限り本物の貴族にはなれない。
「そうそう。死ぬほど鍛えさせられるしな。そこはスラムにも負けないだろ!」
「ん?スラムは無法地帯、戦場だよ?気を抜けば死。みんな死にものぐるいで戦い方を学ぶよ?まともに教育を受けない中でのそれだから、強さに直結するかどうかは別だけど、実際に命を懸けるし、死者も多いよ?」
まぁスラムに住む人全員とまでは言わないが、ほとんどの人は強くなろうとする。
強くなければずっと略奪されるだけだからな。
「「すまん、負けた」」
「そうだね」
僕はナーバスとレーニンの二人とくだらない雑談をダラダラと続ける。
「なぁ、ナンパしね?」
そんな中、急に当然ナーバスが立ち上がって変なことを言い出す。
「お!いいじゃん!」
「ナンパ?なにそれ?」
「え?知らねぇの?仕方ねぇな。へい、教えてやってレーニン!」
「仕方ねぇな!ナンパってのは面識ない者に対して公共の場で会話、遊びに誘う行為のことだ。簡単に言えばそこらへんの女を口説くんだよ!」
ナーバスに言葉を振られたレーニンは意気揚々と説明を始める。
「なるほど……良いね」
言われてみれば何も恋人を学園内で必ず作らなければならないわけではない。
王都内でナンパして彼女を作ったとしても何の問題もないだろう。
「ナンパするのひよっている奴いる?いなぇよな!」
「おう!」
「ん!」
僕たち三人は拳を合わせて声を上げる。
各々が一つの確固たる覚悟を決めて。
■■■■■
学園が終わり放課後。
僕たちは人通りの多い王都の大通りへとやってきた。
「いいか、ナンパの心得はなとりあえず話しかけることだ!」
「おー!」
「行くぞ!レーニン!」
「ノーン!まずは俺らの勇姿をその目に焼き付けろ!」
王都の大通りへとやってきてそうそうナーバスとレーニンが意気揚々と口を開き、果敢に挑んでいく。
「あ、あの、その」
「しょ、しょこのお姉さん!」
「何?話しかけないで?忙しいの」
「いや、その」
そして、ナーバスとレーニンが話しかけた女性はさっさと歩き去ってしまう。実に見事な玉砕である。
うーん。ダメそうだね。
ナンパ……ナンパかぁ。
まぁ、普通に女の子を誘えばいいよね。
うーん。あの子がいいかな。
「やぁそこのきれいなお姉さん。キョロキョロしているけど何かお探しですか?もしよければ僕とお茶しませんか?美味しいお店を知っているんです」
僕が話しかけたのはあたりをキョロキョロと見渡している女性。
身に着けている服装は地味めで、ここ王都で売られているのは見ない。
真っ赤な瞳に真っ黒な髪……王都じゃまず見ない瞳の色と髪色で、僕も王都で一度も見たことのない女性。
まず間違いなく王都出身ではなく地方出身の人だろう。
「え?あ、私ですか?」
「はい。あなたです。せっかく王都に来たのなら最高に美味しいお店に行ってほしいんですよ」
「最高に美味しいお店、ですか」
「はい。忘れられない楽しい思い出になりますよ?あぁ、安心してください。お金なら全部僕が出しますから」
僕が初めて会う女性へと話しかけてナンパへと挑戦したところ、ポンポンと肩を叩かれる。
「ん?」
僕が後ろを振り向くとそこにいたのはサーシャとアリスにリリス。
「何をしているんですか?」
サーシャは僕の肩に手を置いたまま、疑問の声を上げる。
「え?ナンパ」
迷いなく答えた僕は。
「ふん!」
「あいた!」
サーシャの手によって頬を何故か思いっきり叩かれる。
「ごめんなさい。この馬鹿男のことは気にしないでください。私達が責任とってお連れしますから」
いい感じにナンパが成功しつつあった僕は強引にサーシャたち三人の手で連行されていく。
「あ、ごめんね!」
地面を引きずられた状態のまま、僕はポケットから金貨を取り出して話しかけた女性へと投げる。
「これはお詫び!それで何か美味しいもの食べて!王都のお店はどこも美味しいから忘れられない楽しい思い出になると思うよ!じゃあまたね!」
金貨をプレゼントした僕は、女性の反応を見る暇もなくスピードアップしたサーシャたちの手によって路地裏にまで引きずりこまれた。
「何をしているんですか!」
「だからナンパ」
僕の前に仁王立ちで立ち、疑問の声を上げるサーシャに対して僕は一言。
「なんでそんなこと!そういうのには恋愛感情がないと……!」
「いや、ナーバスとレーニンが」
僕は責任の所在をサラッとナーバスたちの二人へと移す。
「なるほど。ナーバスさんとレーニンさんですか」
「うん」
「そうですか……。ではナーバスさんとレーニンさんと少しお話をしてきましょう」
サーシャは笑いながら二人のもとに向かっていく。
何度も断られても未だなお諦めずにナンパを繰り返している二人の元へと……。
彼らも諦めが悪いな。
「……僕はどうすれば?」
アリスとリリスの二人共に路地裏で放置された僕は疑問の声を上げるのだった。
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『鬼畜ゲーの悪役令嬢、もといその実はただのコミュ障陰キャ奇行種だった美少女の幼馴染(ラスボス)に転生した僕は彼女が闇落ちしないよう見守ろうと思います!』
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