第14話
イプシロンクラスからデルタクラスへと上がったことで寮も変わった僕たち。
最初に与えられていたイプシロンクラスの狭い部屋はデルタクラスに上がったことで打って変わり、一人で暮らすには少々広いくらいの大きく、綺麗な部屋となった。
「た、高いんですね」
「そんなことでいちいち驚かないでくれませんの?」
「……」
新しい部屋となった僕たちは布団などの家具類や小物などを買うためヒンネス商会にやってきた。
流石にあれだけの部屋を与えられて家具類が何もなしと言うのは不味いだろうということで。
「そ、それでも高いものは高いですし……」
「同意」
家具とかってこんな高いのか……爺ちゃんが使っているような家具類って一体どれだけの値打ちが……。
「貴方が国立国教騎士学園で学び、上に登っていくのならばこのくらいの金銭感覚にはなれておく必要がありますわ。あそこのバースを見るんですわ。あんな脳みそまで筋肉に染まっている男であってもしっかりとした審美眼で物を見ているわ」
「……」
アリスとリリスが指さす先にいるのは売り場で一人、売り物を見て買うものを決めているバースである。
あいつ、あんな狂戦士面して柄もクソ悪いのにこういう場で貴族としての教養はしっかりと見せつけてくる。
「そ、それもそうですね……じゃ、じゃあこれをお願いします」
アリスから背中を押されたサーシャは遠慮がちに一番安い布団を手に取る。
「いやいや、そんな安いものじゃなくていいよ。金額に関しては安心してほしい。すべてプレゼントとして送らせてもらうかね。君たちがしてくれたことはとても金じゃ表現できないようなことだから」
そんなサーシャに苦笑しながらも僕たちの隣を歩くキースが自信満々に告げる。
ここ、ヒンネス商会はキースの親父さんが商会長をやっているのだ。
そしてキースは次期商会長。
そのため、ここで売られている商品すべてを無料でプレゼントしてくれるということができるのだ。
実践演習で活躍してくれたお礼なんだそうだ。
君たちのおかげでデルタクラスに上がることができたと。
実践演習のおかけで、僕が他のクラスメートに話しかけられることも増えてきた。
「ほら、こんなのはどうだい?」
キースが指をさしたのは一つのクイーンサイズのベッド。
「き、金貨五枚。……ひぅ」
サーシャは提示された金額の高さに目を回し、倒れてしまった。
金貨一枚で5人家族の平民が一年何不自由なく生きられるからね……金貨五枚など彼女にとっては天文学的な値段だろう。
「……」
サーシャの体が地面へと倒れる直前に彼女の体を受け止めた僕はそっと彼女をお姫様抱っこの形で持ち上げる。
「ふむ。仕方ない。では私のおすすめを一通り揃えることにしよう」
キースは容赦なく高めのものを揃えていく。
「ノーン君。君も遠慮せずにどんどん貰って構わない」
「いや、僕はいいよ。必要なものは神殿騎士団長に頼んで用意させるから」
「え?」
「え?」
「……」
「あ、う、うん。そうか」
「あ、でもここらへんの小物は貰おうかな」
一度断ってからではあるものここで僕は思い出す。
ガイア姐さん遠慮し過ぎもよくないって言われたことを。。
「あ、うん。そう……わかった、どうぞ?」
僕は適当にいくつかの必要そうな小物類を手に取る。
うーん。品揃えが豊富。
なんというか、価格が安いものから高いものまでなんでも揃っている。
結構便利だ。
「まぁ、これだけあればいいだろ」
しばらく経って。
キースがサーシャの分を集め終えたことで一通りの買い物は終了である。
僕は小物だけで、アリスにリリス、バースは最低限のものは既に持っていたので、一から物を揃えるサーシャが一番時間かかったのだ。
ちなみに、サーシャは目を覚ました後、買って貰ったモノの値段を聞いてまたぶっ倒れた。
なので、今。
買い物を終えて帰路についた道のりで僕はサーシャを背負って進んでいた。
「……ねぇ、神殿騎士団長に用意されるってどういうことかしら?」
「僕は神殿騎士団の団長とも交流があるからね。国立国教騎士学園への入学祝いということで色んなものを揃えてくれることになったんだよ」
確か、数年ほど前だったはずだ。
たまたま仕事を一緒することがあった神殿騎士団長とその時に賭けを行い、無事に僕の勝利。
その際に賭けに勝ったとのことで僕の言うことを一度だけなんでも聞くよう言ったのだ。
その約束を今、果たしてもらうときと言えるだろう。
「あの人は教養に優れているし、堅物の生真面目な団長としての像があるけど、私人としては割と可愛いもの好きでインテリアとかにもこだわるし、最近は筋肉がつき、とうとう六つに割れだした自身の腹筋を見てしょんぼりとするくらいには乙女だよ、あの人」
インテリアにもこだわりのあるあの人なら適当にインテリアを全部任せても問題ないだろう。
「そ、そうなんですの!?」
「……」
「あ、あの人がそんな……?」
「そうだよ。結局のところあの人も一人の人間でしかないしね?」
僕たちはダラダラと雑談に花を咲かせながら寮に向かって進んでいくのだった。
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