第9話

 昼食を食べ終えて教室の方へと戻ってきた僕たち。

 

「よし、これで全員戻ってきたな。イプシロンクラスといえど、時間くらいは守れるようだな」


 僕たちの午後の授業はレイン先生の若干見下しているような発言から始まった。

 

「じゃあまずはこの学校の仕組みについて話そうか」


 レイン先生は大きな紙を取り出し、黒板に貼り付ける。


「これがなんだか分かるか?」

 

 αクラス 287pt

 βクラス 233pt

 γクラス 201pt

 Δクラス 186pt

 εクラス 153pt

 

「入学試験の点数の平均?」


 レイン先生が黒板へと張り付けた大きな紙に書かれていたのはクラスごとにバラバラなポイント数。

 確か、ここに書かれていた数字は合格発表の際に表示されていた入学試験の各クラスごとの平均だったはずである。

 

「お、おぉ。そうだ。うん。そうだ」


 僕の言葉を聞いてレイン先生はしどろもどろになりながらも頷く。


「このptによってクラスが決まる。そして、最下位であるεクラスにはしょぼい待遇しか与えられていないということだ。わ、わかってくれるか?これが学校のシステムなんだ」


 ……威厳に満ち溢れた態度を見せていたレイン先生は最後の最後のところで言葉が僕の方を見ながら弱くなっていく。

 だから、なんで僕の方を見て弱くなっていく。


「じゃ、じゃあ私達はずっとあんなボロいところで暮らさなくてはいけないということですの!?」


「そんなボロくないと思うんですけど」

 

「安心してくれ。これらのポイントはテストによって変化する。学力による実力テスト、実力を競う実技試験に不定期に開催される特別試験。それらによってこのポイント数は増減し、クラス自体も変わっていく」


「ほ、ほんとですの!」

 

 アリスがレイン先生の言葉に対して歓喜の言葉を上げる。


「まぁ、そんなシステムもうすでに形骸化しているがな」

 

「なんでですの!?」


「ここεクラスには平民や爵位の低い貴族が集まっている。この学園に血統主義の考えがないわけではない。血統の優れていない奴らが集まったこのEクラスがどんな扱いをされるのか、想像に難くないだろう?」

 

 僕の血統の歴史はかなり古いんだけどな。

 これでも僕はこの国が誕生するよりも遥か前に行動を起こしたブレノア教の開祖を影から支えた始祖以来途絶えることなく続いた一族の生まれである。

 由緒正しさで言えばこの国の中でもダントツでトップだろう。


「そんな……ひどいですの!」

 

 僕とサーシャとを除いたクラスメートに悲痛げな雰囲気が漂う。


「今でも十分だと思うんですけど……」

 

 悲痛げな雰囲気のクラスメートとは対照的にサーシャは現状に不満がないことを漏らす。

 うん、僕もそう思う。

 命の危険がないだけでもかなり恵まれていると思うんだけど。


「ふっ。それが嫌なら死ぬ気で努力し、他者に絶対的な成績を見せつけるんだな……別になにも俺が血統主義の考えなわけではない。この学園の主な考え方が血統主義なだけだ。俺にはどうすることもできないわけだ。な?わかるだろう?」


 だからどうして僕を見るのだ。

 流石にビビりすぎ……というか、やっぱりこいつってば僕の正体知っているだろ。なんでこの人が僕の正体を知っているの?

 どこのどいつが漏らしたんだろう……。


「ふん!実力を見てぇんなら俺が全員ぶっ倒してやんよ。それで解決だろ?」


 先生の話を聞いてざわめきたっていたクラスメートをバースは鼻で笑う。

 

「そうだ。その粋だ。頑張ってくれよ。俺は個人的に行き過ぎた血統主義は好まないんだよ」

 

 そんなバースの姿を見たレイン先生は笑みを浮かべ、そう告げるのだった。

 

 ■■■■■

 

  国立国教騎士学園の詳しい説明と学園内の施設説明と使い方。

 生徒会や各委員会、クラブについての説明に時間割を配ったりと。

 諸々の説明と作業を行っているだけで簡単に時間は流れ、午後の授業は無事に終了した。


「はぁー、あんな寮で過ごすなんて最悪ですわ」


「……」


 僕たちは学園の授業が終わり、寮に向けて足を進めていた。


「そうですか?あんなにきれいなところじゃないですか。雨風が防げて倒壊の恐れがなく、隙間風とかも入ってきませんでしたし、私の実家なんかよりもずっと立派ですよ。むしろこっちのほうが落ち着きます」


「命の危険がないだけでも上等。というか屋根と壁があるだけ贅沢」


 任務上、泊まる場所がないことなどもざらにある。

 寝袋のようなかさばるものを持っていけないので、基本木に寄っかかて寝る。

 いつ命の危険が襲ってくるかわからないので睡眠中であっても気は抜けない。

 

「あなた達の価値観には同意しかねますわ」


「……」


「だな」


「ん?バースもそんな弱音ごとを言うの?」

 

 アリスの言葉に同意するバースの言葉に対して僕は疑問の声を上げる。

 

「うっ」


 弱音。

 この一言を聞いてバースは顔をしかめる。


「いや!全然平気だわ!むしろ楽しみだし!ほら!早く行くぞ!」


「はぁー、単純ですわ」


 ふん!と意気込むバースを見てアリスがため息をつく。

 ちゃんとリリスも一緒にリリスもため息ついている。

 音はないけど……ため息まで音がないってどういうこと?


「ん?」


 僕たちが寮の前に着くと見たことない集団が寮の前に立っていた。

 

「おい!見ろよ。このボロ小屋を。誰が住むんだ?こんなボロ小屋」

 集団の一人がわざとらしく笑う。

 その男の発言に周りの人たちが同意する。

 なるほど。さっき発言した人がこの集団のトップってわけか。


「いや、こんなボロ小屋でも学園の劣等生である蛆虫たちの虫かごという意味なら機能するか!」


「んだとてめぇ!バンバラ!」


 こちらを挑発してくる集団のトップに立っていると思われる男の言葉へと噛みついていくバース。

 へぇー、あの男。バンバラって言うんだ……知らないな。家名は何だろうか?


「ストップ」


 今にもバンバラに飛びかかろうとしているバースの首根っこを僕は掴み、彼を止める。


「は?なんだ?」


「……ッ!と、止めてくれるなよ!」


黒精プシュケー


 わめくバースを無視して僕はサクッとバンバラたちへと魔法をかける。

 彼らの精神をそのまま乗っ取り、強引にその意識を闇の底へと沈める。

 

「『消えて』」


 そして、彼らへと迫りつつあった悪意をそのまま消してあげる。

 わざわざ見殺しにする理由もないだろう。

 

「え?ちょ?殺し、た?」


「え、えぇ、で、ですわ」


「ふぇ?」


「殺したって人聞き悪い。別に彼らを殺す理由はないでしょ。ただ気絶してもらっただけ。僕はどれだけ血気盛んな人間だと思われているの?」

 

 僕は動揺の声を漏らすサーシャたちに対して苦笑しながら抗議の声を上げる。


「あ!あぁ、そうだな」


「よかったですわ」


「ですね」


「そんなことよりさっさと寮に入ろうよ……こんな人たちは置いてさ」


「そうですね」


 僕たちは寮へと入るドアの前で気絶して倒れているバンバラたちを置いて寮の中へと入っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る