第8話
この学園のいくつもあるうちの一つの食堂へとやってきた僕たちは
「っ!美味しいです!こ、これが無料だなんて信じられないです!」
サーシャが目の前の料理を一口頬張り、歓喜の声を上げる。
食堂で出される学食はすべて無料。いくらでも食べ放題なのだ。
「にしてもすげぇよな。まさか神殿騎士団団長の弟子だなんてよぉ」
「そう」
「ですわ!」
今、僕とサーシャの周りにいるのはバース、金髪縦ロールのアリスとリリスだ。
「そんなことより、アリスとリリスのその喋り方は何なの?」
僕に関する話を深掘りさせるのは不味い。
ボロが出てきてしまう。
「この話し方」
「ですか!」
「そう」
「ですわね!」
「貴族の人は変わった人が多いのでちょっと変わった話し方をしてみようと思ったの」
「ですわ!」
「ん?」
貴族の人が変わっているから、自分も変わってみようとした、と。
「いや、確かに貴族の人は変わっている人が多いがそんな喋り方の人はいないよ?それに変わった特殊な貴族は何かしらの目的があってそうしているわけだから……」
確かに貴族に変わった人はいないが、それは必要があってそうしているだけの場合がほとんどであり、素でおかしな奴なんていないだろう。
「そうなん」
「ですの!」
「いやまぁ、そうだな。だが、なんで貴族のことをスラム出身のノーンが知ってやがんだ?」
バーンも僕の言葉に同意するが、それはそれとして僕が貴族家についていることに対して疑問の声を上げる。
「ん?国立国教騎士団団長から聞いた」
「あ?あぁ、なるほどな」
あ、納得してくれるんだ……結構無理やりな誤魔化し方だったとも思ったんだけど。
国立国教騎士団団長便利かも。
「そうだったん」
「ですの!」
「じゃあこの喋り方はやめるんですの」
アリスが一人で語尾まで話しきり、リリスが何も言わずうんうんと頷く。
「あ、ですのはつけっぱなんだ」
「そうですの。これは私のこだわりなんですの」
リリスがうんうんと頷く。
アリスが語尾まで全部話し、リリスが何も言わずにうんうんと頷く。
あれ?何も変わってなくないか?
「私も聞きたいのですけど、なんでノーンくんはさっきから執拗に匂いを嗅いでから食べるんですの?」
執拗に匂いを確かめながら学食を口に運んでいた僕に対して、こてんとリリスが首を傾げながら疑問の声を上げる。
「ん?毒がないか確かめるためだよ?僕の鼻ってばちょっと特別製だからね」
何か危ないものが仕込んであればすぐに気づくことが出来る。
「ど、毒ですの!?」
「……」
僕の言葉にアリスとリリスが揃って驚愕の表情を浮かべる。
リリスってば感情を無表情かつ無言のまま表現していて少し面白いね。
「まぁないとは思うんだけど、一応ね」
基本的に僕は毒耐性も強いため、滅多な毒で倒れることはないがそれでも万が一のために毒の有無の確認は欠かせない。
もう癖なのだ。
「すげぇな。おい」
「す、すごい意識ですのね?」
「……」
僕の言葉に対して三人が若干引いたような目で僕を見てくる……これは別に裏の世界で生きる者だけの習性でもなく、スラムの人間の食えるかどうかの判別に嗅覚を頼るし、そこまで不思議なものでもないだろう。
毒とかも普通にあるし。
「あれ?アリスさんが一人で話している?あの話し方やめたんですか?」
そんな最中、目の前に出された食事を食べ終えたサーシャが疑問の声を上げる。
食事に夢中になりすぎて話を聞いていなかったね。
「そういえばですわ」
リリスはそんなサーシャのことを無視して話を続ける。
「ノーンくんが目標として彼女を作ることって言っていましたけど正気ですの?」
「あぁ、そういえば。黒属性とかいう初めて聞いたもんにびっくりして忘れてた。……ありゃ?そういえば、結局黒属性ってのは何なんだ?」
「ん?……まぁ現、僕だけの固有属性だと思って」
「固有属性、なるほどな」
固有属性と聞いて察したのか、バースはそれ以上詮索してこない。
固有属性を持っている人にとってその属性がどんなものかという情報はかなり重い。
性質を知られていると初見殺しにならないし、対抗策を考えられるかもしれないので、ほとんどの人が自分の固有属性について語らない。
まぁ、僕の場合は別に教えても全然敵わないけど、説明が面倒。
「それで目標が彼女を作ることだと言うのは本当のことなんですの?」
バースのせいで一度はズレた話の流れを戻す。
「ん?まぁ、本当だよ。そもそもなんで自己紹介で嘘を付く必要があるんだよ」
「え?じゃあ本当に彼女を作るためにこの国立国教騎士学園にですの!?」
「そうだよ」
僕はアリスの言葉に頷く。
「しょ、衝撃ですの。サーシャは彼女というわけではないのですわね。私はてっきり……」
「ふぇ!?」
いきなり話題を振られたサーシャが驚愕の声をあげる。
「うん。違うよ」
だが、そんなサーシャとは対照的に僕は冷静にアリスの言葉を否定する。
「あっ。そういえばサーシャ。僕と付き合ってくれない?」
そして、僕は続く形でサーシャへと言葉を告げる。
「……えっ!?そ、それは私のことがす、好きっていうことですか?」
「いや?別にそういうわけではないけど」
「何なんですか」
僕がサーシャの質問に答えた途端、サーシャの表情から感情が抜け、視線が氷のように冷たくなる。
「私のこと好きでもないのに告白したんですか?」
「でも、両者に利点はあるよ?」
「そういうものじゃないんですよぉ!恋愛はぁ!お互いが好きになってこそなんですぅ!」
「……むぅ」
やはり、難しい。
好きだの愛だのがどうのこうのと言われてもいつかも死ぬかわからない脆弱な相手に対して自分の人生を捧げたいと思うような好意を僕は抱ける気がしない。
「まったく……そんなデリカシーのないことを言っちゃうノーン君にはこうです!」
サーシャは容赦なく僕の昼食。
エビフライ定食のメインどころである最後に残っていたエビフライを強奪していく。
「あっ……」
「ふん、なのです!」
「まぁ、俺ら貴族は割と利点で婚約を決めることがあるが、平民間だと違うわな。言う相手を間違えたな。ノーン……とはいえ、スラムの人間と婚約する貴族がいるとは思えないが」
「え!?そうなんですか!?」
「えぇ。そうですわ。ただ、私としては燃えるような恋がしたいですわ!」
「……」
「俺らは生まれながらにありとあらゆる利点が与えられる代わりに多くの義務があるからな。こればかりは仕方ないさ」
「貴族も大変なんですね……」
この後、時間が許す限り恋愛について僕たちはみんなで思うがままに話すのだった。
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