第6話
ボロボロの寮に対して各々不安の声を上げていくクラスメートたち。
「言いたいことは痛いほどわかる。だが今は早く寮に入り、荷物を運べ。お前らがどれだけ不満を口にしたところで何も変わらん」
だが、そんなクラスメートたちの不安の声にレイン先生は全然取り合わず、
「納得いき」
「ませんわ!」
「こんなのあんまりじゃない」
「ですね!」
そんなレイン先生に対して金髪縦ロール二人は抗議の声を上げるが、僕としては喋り方のほうがあんまりだと思う。
何でそんな話し方をしているのだろうか?
なんかの魔法だとしても、魔力は感じないし……マジでなんでそんな話し方をしているの?
「あなた達もそう思いません」
「こと!?」
僕がそんなことを考えていると急に金髪縦ロール二人から話を振られる。
「いや、思わない。別に命の危険はなさそうだし」
急に話を振られた僕はそのまま率直な感想を漏らす。
僕にとって寝泊まりするところなど、雨風が防げればそれでいい。
雨風が防げるだけではなく、最低限の安全の保証がされているのであればそうはもう最高と言ってもいい。
基本的に僕が寝泊まりしているのは敵陣地内にあったのだ。
それと比べれば全然いない。
「いえ、あの、その私も平民ですのでこういったところのほうが落ち着きます」
そして、僕に続くような形で僕のすぐ隣にいたサーシャもおずおずとその疑問の声にこたえる。
「俺は別にどこでも寝れる」
「平民だけならともかくあなたも」
「ですの!」
そして、そんな僕たち二人にだけでなくまさか強面の男も同意の言葉を口にする。
しかし、僕たち三人以外は金髪縦ロール二人と同じようにこの寮に対し嫌な気持ちを抱いているようだった。
「とりあえず寮に荷物を置いてこい。話はそれからだ……あぁ、そうだ。ちゃんと入学式で連絡あった通り荷物の整理を終えたらしっかりと教室に来いよ?」
どれだけ騒ごうとも一切取り合わないレイン先生。
「で、も」
「ですの!」
それに対して不満の声を上げる金髪縦ロール二人……ん?でもですの?
なんか言葉が普通におかしくない?
なんというか無理矢理感がすごい。
「いいから早くしろ。各々の部屋の場所は玄関ホールに書いてある」
「はい」
「ですの!」
金髪縦ロール二人はとうとう苛立ちを露わにしだしたレイン先生に睨まれて、慌てて頷き、機敏な動きで寮の中へと入っていく。
どうやらビビリであったようだ。
「じゃあ、また後で」
「はい、また後で」
寮の中へと入り、各々の部屋の位置を確認し終えた僕とサーシャは分かれて各々部屋へと向かう。
「……さて、と。やることがないな」
自分の部屋の方へとやってきた僕であるが残念なことにやることがない。
基本的に僕は必要なものがあれば現地調達せよの理念で動いているので荷物はない……どう考えても早いけどさっさと教室の方に行くか。
■■■■■
僕たちの寮から少し離れたところにある各学年、クラスの教室がある建物へと僕は訪れ、設備が他のクラスと何も変わらないイプシロンクラスの中へと僕は入る。
「っ!」
教室の前に置いてある先生用の椅子に座っていたレイン先生が僕を見て顔をこわばらせる。
そんなレイン先生から感じるのは緊張、それと恐怖。
はて?僕がなにかしただろうか……別にレイン先生やその周りの人間で異端の疑いを受けたことのある人もいなかったはずだよね?
「あっ、早いね。ノーンくん」
「そっちこそ。早いね」
そんなことを考えながら僕とレイン先生しかいない教室でしばらく待っていると、サーシャが教室に入ってくる。
僕と同様に荷物が少なかった分、作業も少なかったのだろう。
「それで聞いて欲しいんだけど、私の部屋にベッドが置いてあったの。私、ベッドで寝るの初めて。今から楽しみなんだ」
「おー、それは良かったね」
僕とサーシャはどこの席に座れば良いのかわからず教室の窓側で雑談していたところ、続々と他の生徒たちが入ってきて、そして。
最後に金髪縦ロール二人が入ってくる。
「よし。とりあえず席につけ。どこでもいいぞ」
全員が揃かったことを確認した教卓の前に立っている先生の言葉を聞いた僕たちは各々好きな椅子へと座る。
「じゃあ、とりあえずこの学校の仕組み。そしてなんでEクラスの寮だけがあんなにもしょぼいのか。教えてやる。と、その前にはまずは自己紹介だな。俺はさっきも聞いたと思うがレインだ。Eクラスの担任を受け持つことになった。よろしく頼む」
レイン先生の後、続々とクラスメートたちが自己紹介をしていく。
そのクラスメートのほとんどが僕の知らない人たちだった。
唯一知っていたのが、商会の一人息子であるキースだった。
キースの親である商会長に昔、世話になったことがあったので覚えていた。
「次は私たちの番」
「ですわね!」
そして、次に立ち上がったのは金髪縦ロール二人。
ん?二人……?自己紹介って普通一人でするものじゃないのか?
「私の名前はアリス・ロンド」
「ですわ!」
「そしてこっちは妹のリリス・ロンド」
「ですわ!」
「私達の属性は風」
「ですわ!」
「私達の目標は国立国教騎士団団員になること」
「ですわ!」
「よろしく」
「ですわ!」
自己紹介でもその喋り方でいくのね……何かのこだわりがあるんだろうか?
というか妹であるリリスの方は『ですわ!』としか言っていないぞ?それで良いのか?
そんな面白金髪縦ロール二人の次に立ち上がるのは強面の男。
「俺はバース・レトリア。属性は雷。目標は強くなることだ」
強面の男、バースは淡々と本当に僅かな情報だけを話した後に再び席へと座る。
周りのクラスメートたちはバースの名前を、その家名を聞いてざわめいて
レトリア家、ねぇ……脳筋の中の脳筋と呼ばれ、基本的に気性の荒いものが多いために他の貴族家は恐れられている人物だ。
歴史的に僕の家系の次に異端審問官を輩出している家系だろう。
「私はサーシャです。属性は炎と雷の二重魔力。目標はお金を稼ぐことです。よ、よろしくおねがいします」
バースの自己紹介によってクラスがざわめき立つ中で立ち上がり、次に自己紹介を行うのはサーシャ。
彼女は急いで挨拶を終わらせ、すぐに席に座る。
「僕はノーン。属性は黒。目標は彼女を作ること。よろしく」
最後の一人となった僕は席を立ちあがり、簡単な自己紹介を済ませて席へと座る。
「属性、黒?」
僕の隣に座っているサーシャが自己紹介を聞いて首をかしげる。
まぁ、聞いたことない属性だろう。
僕の黒属性は僕しか持っていない固有属性だからね。
「うし、これで自己紹介も終わりだな。ということでじゃあ、まずはこの学園についての説明といきたいところだが、その前にやってほしいことがある。俺はまずお前らの強さを知りたい。ということで模擬試合をしてもらおうと思う。別に誰としてもらっても構わない。ただし全員一回はするように。では、各々ペアを作って運動場に来ること」
レイン先生はそれだけを告げると足早に教室を後にし、後には僕たち生徒だけが残される。
「ノーン君」
隣に座っているサーシャへと僕は話しかけられるが、それを無視してある男の元へと向かう。
「ねぇ。戦ってよ。僕と」
僕が話しかけたのはバース。
唐突な宣戦布告に対してクラスメートたちがざわめき、サーシャは以前どこかで見た絵のような表情を浮かべている。
「あ?」
僕に宣戦布告されたバースは表情を不快そうに眉を顰めながら口を開く。
「君の価値観としては強ければいいわけだろう?」
「あ?まぁ、そうだな」
僕の言葉にバースが頷く。
「だから戦って。僕がバースよりも強いことを証明するから。そして、僕に負けたらサーシャに謝って。さっきのこと」
しっかりとけじめはつけさせておくべきだろう。
あのまま謝りもせずに話を流すなんて僕は認めるつもりはない。
「はっ!いいだろう!やってやろうじゃねぇか!」
僕の言葉に対してバースは凶暴な笑みを浮かべ、申し出を受け入れるのだった。
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