第5話
名誉ある国立国教騎士学園。
世界でも有数の繁栄を誇る王都総出でお祝いムードとなり、最大限に盛り上がる華やかな国立国教騎士学園が入学式。
「ん、おはよう」
僕はなぜか実に華やかで名誉ある入学式当日だというのに俯き、少しばかり元気がないように見えるサーシャに声をかける。
「え!?ノーンくん!?」
僕に声をかけられたサーシャは僕へとまるで幽霊でも見るかのような視線を向けてくる。
「うん?どうした?」
「え、だ、だって、ノーン君落ちたはずじゃ……」
驚愕の声に対して疑問の声を上げるサーシャ。
僕はそんな彼女の言葉へと言葉を投げかける。
「あぁ……そうだね。うん。確かにその通りだったはずなんだけど、なんか手違いだったらしい。見て、これ。僕の知らない間に用意されていたしっかりとサイズがあってきれいに伸ばされた制服。これってばついさっき渡されたんだよ?」
僕は自分が現在進行形で着ている国立国教騎士学園の制服の方へと目を落とす。
支給された制服は驚くほどに正確なサイズで、僕にぴったりであった……僕の服のサイズを知っている人間など爺ちゃんやその他の教会におけるお偉いさん方だけ。
おそらくだが、この制服は僕のサイズに合うよう教皇直々に縫って用意しているのだろう……あの人も暇なのだろうか?
「うわぁーん!良かったよ!」
僕がそんなことを考えていると、何故かサーシャが涙すら浮かべて急に抱き着いてくる。
「ん?」
ふむ?
どこに涙する要素があったのだろうか。
「良かったぁ。ノーン君がいなかったら私一人になっていたよぉ」
一人?別に人なら僕以外にもたくさんいるはずだが。
よくわからなくはあるが、ここで跳ねのけるのはあまりにも女の子に対する配慮が欠けているだろう。
別に仕事の邪魔をしているわけでもないのだし、ここはされるがままにされておこう。
「……え、あっ。うん。ごほん!」
サーシャによってされるがままとなっていた僕が解放されたのはそれからしばらく後。
ようやく落ち着き、僕から離れたサーシャが頬を赤らめながら咳払いし、この場の雰囲気を変えようと画策する。
「そ、それじゃあ行きましょうか!」
「うん。そうだね」
今回の件を掘り返したところで良いことはないだろう。
足早に歩き出したサーシャを追うため、僕も歩き始めるのだった。
■■■■■
学園長や……果てにはブレノア教の教祖である爺ちゃんまで。
数多くの豪華な面々が生徒たちの前に立ったが、やることはただ彼らが話してそれを僕たちが聞くだけ。
正直に言って普通に暇でしかなかった入学式の後。
僕たちは各クラスごとに分かれて自分たちのクラスの担当の先生に連れられる形でそれぞれの寮に向かう。
クラス編成としては下からイプシロンクラス、デルタクラス、ガンマクラス、ベータクラス、アルファクラスとなっている。
僕たちはイプシロンクラスであり、このクラスは他のクラスと比べて圧倒的に
「……んー。案外普通だな」
それぞれが各々の荷物を持って寮の方へと移動する中、サーシャと共に荷物がほとんど何もなく、身軽であった僕は
「すっごいですね!」
学園の敷地内に立ち並ぶ建物を見て普通と評した僕に対して、サーシャは感嘆の声を上げる。
「ん?」
「さすがは国立国教騎士学園なだけあって立派な建物が並んでいますね!」
「ん?」
別にここらの建物よりも全然すごいものなんてざらにあるが……それでも彼女からしてみればここの建物でも十分立派なのだろう。
農村の建物は割と強風吹けばぶっ飛びそうな見た目しているからね。
「あぁ、うん。そうだね」
「きっと寮もすごいんですよね!」
サーシャが目を輝かせながら話す彼女に僕も相槌を打つ。
ちなみに建物としては別に王都に立ち並ぶ建物より少し立派かな?って感じるくらいである。
「はっ。こんくらいで驚くんじゃねぇよ」
そんなやり取りを行っている僕たちのすぐ近くを歩いていた強面の男、同じクラスメートである男が乱暴な言葉を吐き捨てる。
「ひっ!」
急にガン飛ばされ、強面の男から怒鳴りつけられたサーシャが悲鳴を上げ、そのまま僕の影へと隠れる。
「ねぇ」
それに対して僕はサーシャを背後へと置いたまま一歩前へと足を踏み出し、強面の男との距離を詰める。
「あ!?」
「君はサーシャを怖がらせた……謝って」
そして、僕は躊躇なく強面の男の胸倉を掴み上げて宙へと浮かす。
「あ!?なんだ!?てめぇ!」
捕まれた僕の手から逃れようと体を激しく動かし出した強面の男を僕は容赦なく地面へと叩きつけ、そのまま動けないようがっちりと関節を決める。
「君に何の関係もない雑談に割り込むような形で入ってきてあのような態度はないだろう?謝ってくれないかな?申し訳ないけどこちらもスラム出身で舐められたら殺される世界に生きていてね……君のように喧嘩を吹っ掛けてくる奴を見逃すことは出来ないんだ」
「あ!?てめぇ何言ってやが……ッ!」
僕の言葉に対して怒鳴り声をあげ、地面へと叩きつける僕を跳ねのけようと強面の男は体を動かそうとするが、その体はピクリとも動かない。
「ノ、ノーン君」
「おい!そこ!うるさいぞ!黙っていろ!」
もめ事を起こした僕たちに対し、全員の前を先導して進んでいたクラスの担任、レイン先生が
「ちっ、雑魚が」
レイン先生の言葉を受け、無言で手を離す僕に対して強面の男は捨て台詞を吐き捨てながら僕から逃げるように少しだけ離れていく。
「……えぇ」
普通に胸倉を掴まれて何も抵抗できずに地面へと叩きつけられ、そのまま拘束され続けていた癖にそのいっちょ前な言葉。
どうやら随分と神経が図太い様子。
「ここ、ですか?」
ちょっとしたハプニングはあったが、それでも無事に僕たちが辿り着いた先にあったのは他の立派な建物と比べると明らかに目劣りするかなり年季の入ったように見える少々ボロい建物であった。
「んだよ、ここはよぉ」
「……本当に、ここで?」
明らかにボロボロであり、おおよそ貴族が過ごすような場ではないような
「なん」
「ですの!」
「ここのオンボロの建物は。貴族である私が寝泊まりするとことだとは思えません」
「わ!」
だがしかし、僕とサーシャとしてはそれよりも気になることがあった。
「「……」」
僕とサーシャは建物なんかよりも個性的に随分と個性的に会話するクラスメート二人のほうが気になっていた。
見た目が実に瓜二つである金髪縦ロールの少女が二人……何故か二人で一つの文を話すという実に謎な喋り方をする二人へと僕とサーシャは共に意識を取られるのだった。
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