第18話 アウトローにあこがれるけれど、結局何処まで孤独を愛し抜けるのかで孤高なのか、強がりなのかが分かる
「・・・・・・。」
善朗が大前の一振りで道場の屋根を吹っ飛ばしてから、組み手は中断となり、善朗は佐乃の道場と併設されている屋敷の縁側で待たされていた。
屋根の一部が吹き飛んだ道場ではあったが、そこは霊界という異世界。建物は霊力で出来ているので、佐乃クラスになると、霊界の建物の修復もお手の物だった。しかし、余りの闘いの衝撃で他の弟子達の中には怯えだす者もいたので、佐乃も善朗を一時的に遠ざけるしかなかった。
ちなみに大前は佐乃から今もお叱りを受けている。
「・・・善朗君、気にする必要はないよ・・・。」
「・・・あっ、
一人、縁側でポツンと座っていた善朗に十郎汰がお茶とお茶請け用意してくれた。
「・・・君がここに来た理由は、あの力を制御して使いこなすためだ・・・大前殿の行動で順序がおかしくなってしまったが、師匠についていれば間違いはない。」
穏やかな表情で縁側に正座して真っ直ぐ善朗を見る十郎汰。
その表情と目の力から如何に十郎汰が佐乃を師として敬っているのかが伺える。
「・・・それでも、あんな事になってしまって・・・・・・。」
善朗は塞ぎ込みながら少し言葉を濁す。
「・・・
柔らかな笑顔で十郎汰が善朗を包み込む。
「・・・いえっ・・・別に・・・そんな・・・。」
どこか十郎汰に心を見透かされたようになってしまい、益々気まずくなる善朗。
「・・・君の力が物語っている・・・君は本当に優しい子だ・・・。」
十郎汰がそう言いながら空に目線を向ける。
「・・・霊界とは面白いところでね・・・師匠から話を聞いていたのなら、すまないが・・・生前どれほど強かろうとここでは何の役にも立たない・・・。」
「・・・・・・。」
空を見ながら話す十郎汰の話を真剣に聞く善朗。
「・・・私も伝重郎も、生前、一匹狼で喧嘩は負け知らずだった・・・そんな力自慢の我々でも霊界では、この有様だ・・・。」
静かに目を閉じて、昔を思い出す十郎汰。
「・・・死に方は人それぞれあれど、私も伝重郎も身寄りがなかった・・・いわゆる、無縁仏というやつだ・・・。」
目をゆっくりと開けながら善朗を見る十郎汰。
善朗は十郎汰の言葉に目を丸くする。
「・・・・・・無縁仏・・・ですか?」
若い善朗には無縁仏という言葉がピンとこなかった。
「・・・無縁仏というのは、死んだ後も孤独だった者のことだよ・・・善朗君には、泣いてくれた家族や友がいただろう?・・・私や伝重郎にはそんなものはなかった・・・。」
少し曇った笑顔を善朗に向ける十郎汰。
「・・・ここ、霊界では生前の魂の研磨が評価される。如何に清く生き、道を真っ直ぐ歩いたかで、全く違う環境になるんだ・・・。」
十郎汰は善朗に出来るだけ分かりやすく霊界での魂の在り様を説明していく。
「・・・そして、縁というのも重要になってくる・・・ここで生活する上で大事なお金であるエンは残された家族や子孫の行いで上下して、我々の霊界での助けになるんだ・・・しかし、無縁仏の者にはそれがない・・・ここまでは分かるかい?」
十郎汰が善朗を導くように微笑む。
「・・・その無縁仏の人達はどうなるんですか?」
善朗は先生のように導いてくれる十郎汰に自然と質問をする。
「・・・現世に縁が全くない無縁仏は、霊界では長くはいられない・・・お金がなくなれば、強制に近い形で転生させられる・・・その転生についてもお金がなければ、何になるかは分からない・・・虫だったり、小動物だったり・・・よほど運がよければ、人間になれるかもしれないがね。」
十郎汰が包み隠さず、自分達の境遇を話す。
「・・・じゃぁっ・・・。」
そこまで聞いた善朗が何かを察して表情が曇る。
「・・・フフフッ・・・心配はいらない・・・地獄の
ニコリと笑って善朗のモヤモヤを払う十郎汰。
「・・・殿・・・が・・・。」
善朗は菊の助の名前を聞いて、誇らしくなり心が震える。
「・・・お金というのは縁というのも、死んでから痛いほど分かるものだね・・・様々な人から常に支えられている・・・霊界のこの仕組みは良く出来ている・・・。」
目を閉じながら微笑み、霊界の仕組みに感心する十郎汰。
「・・・話が長くなってしまったが・・・私や伝重郎の強さと善朗君の強さが・・・そのまま生前の生き様の差というわけだ・・・だけど、ここにいる者達が皆、強さを求めて師匠の下にいるわけではないんだよ・・・私達は助けてもらった師匠が誇れるような転生が出来るように、ここで魂を磨いているんだよ・・・。」
まっすぐな真剣な眼差しで善朗を見る十郎汰。
「善朗君・・・君はもっともっと強くなれる・・・君のやりたいと思っている事も必ず成し遂げられるだろう・・・ここで師匠の教えをしっかり学ぶと良い。」
最後にニコリと笑って十郎汰は席を立ち、お盆を持って屋敷の奥へと消えて行った。
「・・・・・・。」
善朗は空を見ている。
空は生きてた時と変わらない青空だ。
雲が流れて、現世での天気をそのまま反映しているようだった。死んでまだ日が浅く、霊界でのイロハが分からない善朗だったが、それでも様々な人達と出会い、この短期間の中でも縁の深さを実感できた。
十郎汰が本当に伝えたかったのは、お金というよりも人と人が支え合い繋ぐ縁の大切さだったのだろうか?と善朗はまだまだ漠然とながら若く死んだ身で考えていた。
「フフ~~~ンッ。」
屋敷の縁側が続いている隅でちょうど身体を隠せる角に隠れながら善朗の様子を伺っていた大前が隣にいる佐乃に鼻息荒くドヤ顔を向けていた。
「・・・・・・。」
腕組みをして、大前のドヤ顔を交わす佐乃は視線を善朗に移して、優しく静かに微笑んだ。
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