第17話 ハサミも使い方次第で、紙も切れるし、人も刺せる・・・○カの使い方も使い方によってはある意味刺さる時がある
「・・・善朗・・・これが霊魂の強さだよ。」
佐乃が真っ直ぐな目で善朗を見て、霊魂の強さと言うのが何なのかを伝える。
「・・・・・・。」
佐乃の言葉で視線を天井から佐乃に移した善朗だったが、その余りの衝撃に言葉が出ない。
「・・・次っ、十郎汰ッ!」
佐乃が善朗の次の相手を指名した。
「エイッ!」
声を出して、返事をしたのは他でもない。
空中で伝重郎を受け止めたボサボサの長髪をしたあの男だった。
十郎汰はゆっくりと天井近くから伝重郎を抱えて降りてきて、伝重郎を床に降ろすと空中を浮きながら中央の善朗の元へと近付いてきた。
「次の組み手は、善朗・・・何をしてもいいから十郎汰に一撃入れてみなっ・・・十郎汰は交わすのみっ。」
佐乃が次の組み手の内容を指示した。
「・・・よろしく頼むよ・・・。」
十郎汰は空中に少し浮いたままファイティングポーズを取る。
「・・・・・・。」
口を真一文字に閉じて、十郎汰を見る善朗。
「うおおおおおおおおおおっ。」
〔ビュンッ、ビュンッ、スカッ、ビシュンッ〕
あれからどれくらい時間が経過しただろうか。
佐乃の「はじめっ!」の掛け声から10分以上経過しているが、善朗のぎこちない攻撃は十郎汰を捉える事は一度もない。一度もないどころかカスリもしなかった。
(すごいっ・・・全然かすりもしないっ・・・しかも、ずっと飛んでるんですけどっ。)
善朗は空中を舞う十郎汰を追いかけながら、ぎこちないパンチやキックを放つも全くかすらない。
十郎汰も善朗の手が届くように距離を調節しているが、的を絞らせないように巧みに身体を揺らしている。
「・・・善朗君・・・君の持つ力は自信を持って良い・・・この道場の中にいる誰よりも強い・・・だけど、当たらなければどうということはない・・・ね。」
平然としたポーカーフェイスで十郎汰が善朗を評価する。
「ぐうううううっ。」
最早意地となっていた善朗がそれでも果敢に十郎汰を追い続ける。
(・・・これまで・・・かね・・・。)
善朗達の組み手の様子を見て、佐乃が見切りをつけようとする。
「主ッ!」
佐乃が組み手を止めるように声を掛けようと思ったその時、大声を上げて、善朗の方に突然駆け出す大前がいた。
「・・・えっ?!」
善朗は十郎汰から駆けながら自分に近付いてくる大前に目線を移す。
「ワシを振るってみせよっ!主の力を出し惜しみするなッ!」
大前はそう言うと抜き身の刀となって、善朗の手に収まる。
「・・・あっ・・・。」
するりと今まで持っていたかのように手の中に納まった日本刀に目を奪われる善朗。
そこから善朗の行動は大前に導かれるように無意識に進行して行く。
(これはっ!?)
善朗が大前から十郎汰に目線を移した瞬間、佐乃の全身に電気が走る。
(まずいっ!?)
大前を握って、自分を切りに掛かる善朗を見て、十郎汰の背中が極寒に冷える。
十郎汰は後ろに視線を一度流すと、すぐさま高度を上げて飛ぶ。
〔ズバンッ!・・・ボッ!〕
十郎汰に向けて、善朗が大前を振り切ると、物凄い風圧が道場内に嵐を起こした。
「キャアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」
善朗が生み出した嵐が道場中を駆け巡り、一同は自分が飛ばされまいとする事で精一杯になる。
「・・・・・・。」
善朗の心の中が熱い高揚でざわめく。
善朗の目線の先には風で飛ばされた道場の天井の先に広がっている空がある。
十郎汰はギリギリ交わして無事ではあったが、全身に滝のように汗をかいていた。
「大前ッ!」
大前の突然の割り込みに怒りを隠せなかったのは佐乃。
大声で大前を怒鳴りつける。
「オヌシはなんでもしていいと主に言ったではないか・・・ワシは主の刀だ・・・あのままではワシとしてもシャクだったのでな・・・。」
刀の姿から人型に戻し、仁王立ちして、腕組みをし、胸を強調しながら誇らしげに話す大前。
「・・・あっ・・・えっ・・・あぁっ・・・。」
空になった自分の両手と大前を交互に見る善朗。
「一歩間違えば、弟子達が消し飛んだかもしれんのだぞッ!」
怒りが収まらない佐乃が勢い良く立ち上がり、ドスドスと床を鳴らしながら大前に近付いていく。
「お前の目は存外節穴なようだなっ!主がそこまで気が効かん訳があるまいッ。」
佐乃の怒りに真っ向から信仰心で立ち向かう大前。
「何言ってんだいっ!十郎汰が気を利かせて、上に逃げたからよかったんだろうがッ!」
佐乃が天井付近に留まっている十郎汰を指差して大前を怒鳴る。
「・・・・・・。」
佐乃の言葉に十郎汰は少し心が躍った。
「すっ・・・すいませんでしたっ!」
大前が胸を張る中、主である善朗が深々と佐乃に頭を下げる。
「むっ・・・。」
主の姿に少し戸惑う大前。
「・・・チッ・・・あんたが気に病むことじゃないよ・・・。」
どこか怒りのより所を失った佐乃。
「・・・ふっ・・・。」
善朗の姿を見て、死ぬ思いで大量の汗をかいたにも関わらず、何故か鼻から笑みが漏れてしまう十郎汰だった。
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