第12話 白いぬいぐるみが飛び出してきそうな展開だけど、ここは一つ考えてもらえないだろうか?
「・・・時間の問題では在りません。」
乃華が悠然と善朗を見て、縄破螺に対抗できないと断言した。
「・・・どっ・・・どういうこと?」
当然、善朗は困惑する。
「・・・確かに・・・そうかも・・・。」
「えっ?!」
違う方向から乃華の発言に賛同する冥。
しおらしいその態度に驚きを隠せない善朗。
「・・・・・・。」
のぶえさんもとこさんも何もしゃべらないが何やら気付いているようだった。
「ちょっと乃華さん、もったいぶらないで教えてくださいっ。」
今度は掴みかかるのを我慢して、善朗が乃華に詰め寄る。
「・・・冥さん、知り合いの霊能者とか居られないんです?」
善朗を飛び越えて、乃華が冥に尋ねる。
「・・・いる・・・ことは・・・いるけど・・・。」
冥は何かバツが悪そうに歯切れ悪く答える。
「あら、よかった・・・なら、善朗さんはその人に弟さんを任せて、転生しましょうッ。」
乃華が名案だとしわとしわを合わせてにっこりと笑顔を作る。
「・・・・・・できるわけないでしょっ。」
悪い冗談だと善朗は乃華を本気で睨む。
「・・・・・・。」
善朗から目線を外して、頬に汗を一筋流す乃華。
「・・・知り合い・・・っていうか・・・私の兄が・・・霊能者なんだけど・・・。」
睨めっこする二人を他所に冥が話し出す。
「・・・兄は・・・真面目って言うか・・・融通が利かない人だから・・・きっと善文君の事を話しても・・・手に負えないから諦めろって言われるわ・・・。」
うつむきながら悔しそうに冥が言葉をこぼす。
「・・・・・・そんな・・・。」
少し光が差したが、あっという間に曇天に遮られて、がっかりする善朗。
「・・・ろ組の悪霊ですから・・・言ったでしょ?大抵の霊能者は手に負えないんですよ。」
「あなた、ついさっき、その大抵の霊能者に任せろって言いましたよね?」
また視線を合わせないにらめっこを始める乃華と善朗。
「・・・もう・・・わかりました・・・話します話します・・・。」
乃華は善朗の眼圧に白旗を揚げて、善朗になぜ駄目なのかを話し出す。
乃華曰く、
魂はほぼ霊界に導かれて、そこから選別されて善人・一般人は極楽、悪人は地獄に分けられる。しかし、9割の魂が霊界に来るが、残りの1割が霊界に来れなかったり、来なかったりして、現世を彷徨う。これが様々な要因でけがれると自縛霊、浮遊霊・・・最悪の場合は、悪霊や怨霊となる。基本的に霊界に居ない霊は現世では除霊対象となり、悪霊や怨霊になる前に処分される。これを担うのが、霊能者と言われるそっちの世界の人間。だが、何も霊界にいる霊が現世にまったく行けない訳ではない。霊界のシステムとして、一ヶ月に1日ある程度のエンを支払うことでフリーパスが支給されて、そのパスを持っていると除霊対象から24時間除外されるという。
「・・・でも、善朗さん・・・もうその権利ないですよね・・・。」
「・・・あっ・・・。」
乃華の話を聞いて、時間の問題ではないと言われた事を、善朗は完全に理解した。
「・・・例外は、ちゃんとあるわよ・・・。」
「ッ?!」
現実を突きつけられて落ち込もうとしていた善朗の頬をひっぱたくような冥の言葉が発せられる。
「エッ?!・・・冥さん、まさかっ・・・。」
勘の良い乃華が冥の言葉に衝撃を受ける。
「・・・まさかって?」
乃華とは違い、メガネをかけた何処かのおじさんの機嫌を損ねない善朗。
「・・・・・・霊能者と契約すればいいのよ・・・・・・。」
生唾を飲み込んで、言葉を搾り出す冥が善朗を見つめる。
それがどういうものなのか、説明されなくても善朗には分かった。
「だめですだめですっ!あなた、半人前なんですよねっ!」
乃華が冥の張りつめた表情に触発されて、大きな声を上げながら止めに入る。
「・・・うぅん・・・お姉ちゃん?・・・」
「あっ?!・・・・・・うぅっ・・・。」
余りの大きな乃華の声に寝ていた美々子ちゃんが目を覚ます。
バツが悪そうに小さくなる乃華。
「・・・大丈夫だよ、美々子・・・もうちょっとで帰ろうね・・・。」
眠気眼を擦るかわいい妹の頭を撫でて、再び夢の中へと誘う冥。
「・・・うん・・・。」
優しい姉の声に導かれて再び重いマブタを閉じていく美々子。
「冥さん、それがどういうことか、貴方分かってていってますよねっ?」
必要以上にヒソヒソ声で冥に顔を近付けながら話す乃華。
「知ってますよ・・・もちろん・・・。」
妹の寝顔を見ながら微笑む冥。
「善朗君は・・・善文君の事、守りたいんだよね?」
優しい微笑を善朗にも向ける冥。
「・・・・・・。」
善朗はゆっくりと一回頭を縦に振って答える。
「・・・あたしも同じだよ・・・美々子が善文君と同じ立場なら迷わない・・・。」
まっすぐな目で善朗を射抜く冥。
「・・・・・・。」
乃華はもうそれ以上何も言えなかった。
「・・・善朗君・・・ちゃんと教えておくね・・・もしも契約に失敗したら、君も私も無事じゃない・・・それでも良い?」
「・・・・・・。」
不安をあおる様な言い方をする冥。しかし、その表情はキラキラと輝いている。
その表情に思わず息を呑む善朗。
冥曰く、
霊能者は修行をして、霊と契約を結ぶ者がいるが、それには大きなリスクがはらんでいる。失敗すれば、霊に身体を奪われたり、そのまま霊が消滅したり、霊能者の精神が崩壊したり。そして、何より、殆どの者が一生に一度しか契約が出来ない。能力の高い者は何体も使役することや何度も契約を結ぶ事が可能だが、そんな者はこれまでの歴史の中でも両手で数えるのが造作も無い程度だった。だからこそ、冥は未だに半人前として、霊と契約を結んでいなかった。だが、半分以上の霊能者は契約をしないまま終える者が普通だった。そう言った者達は、一般的な霊能者でお経や儀式などで低級の霊を払う程度に収まる。それが、賢い選択であり、最も正しい霊との付き合い方でもある。
「・・・こわい?」
冥が善朗に真剣な目を向けて、尋ねる。
「・・・・・・いいの?」
善朗は冥の決心が物凄い物だと分かり、契約のリスクよりも冥の事を心配した。
「・・・いいの?・・・っか・・・。」
冥はそういうと寝ている妹を起こさないように立ち上がり、善朗の傍に歩み寄る。
「・・・ほっ・・・保護の術式とか用意しないんですか?」
良く知っているらしい乃華が契約をしようとする冥に慌てて助言する。
「・・・善朗君は今日しか時間が無いんですよね?・・・そんなの作ってる時間ないですよ。」
善朗の事をジッと見て、両手の手の平を上に向けて、善朗の方に差し出す。
「・・・・・・。」
冥の手の平と顔を交互に見ながら戸惑う善朗。
「・・・大丈夫・・・手を乗せて・・・後は私がやるから・・・。」
冥が優しく善朗を導く。
「・・・・・・。」
冥の言われるがまま善朗は自分の両手を冥の両手に重ね合わせる。
そこまで来ると、冥の心にも、善朗の心にも迷いは無かった。
ただあるのは、互いが無事であるようにと願う思いだけ・・・。
「・・・・・・。」
善朗は冥が何か呟き始めるのを合図に自然と目を閉じる。
目を閉じた先に何があるのかは善朗には分からないが、再び目を開けた先に冥の微笑があることを心に強く念じた。
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