第11話 悪霊が悪霊たる所以を聞かされても、この思いが変わることは決してない
「・・・ごめん、もう大丈夫だから・・・。」
泣き止んだ善朗は気を取り直して、乃華達に笑顔を向ける。
「・・・こっちの方こそ・・・なんか、勘違いしてたみたいで・・・ごめん・・・。」
冥が善朗を悪霊だと勘違いした事を素直に謝る。
善朗達は冥達とゆっくり話す為に葬儀の会場から少し離れた公園のベンチに来ていた。幽霊の善朗達には関係ないが、普通の人間には見えない善朗達と平然と会話しているJKやJCが周囲から異様な目で見られているのを避けたかったからだ。何より、ベンチに屋根が付いていたので、冥と美々子を雨ざらしにしておくわけにはいかなかった善朗達にとっては、この場所は好都合だった。
美々子は元々善文のクラスメイトで仲が良く、冥達の両親はどうやら善朗の両親とも仲がよかったらしい。冥達の両親は葬儀の手伝いをしていて、今も会場で裏方の仕事をしているという。
「・・・私達の血筋は、霊感が強い体質みたいで・・・父親の血筋なんだけどね・・・父親がまったくない分・・・私・・・特に美々子には強く出てるみたいで・・・。」
冥は自分の太ももの上で寝る美々子の頭を優しく撫でながら自分達の事を善朗達に話す。
「・・・冥・・・ちゃんは・・・霊能者なの?」
善朗が相手との距離感を図りながら言葉を選ぶ。
「・・・ちゃんはやめてよ・・・私は確かに年下だけど・・・なんだか、くすぐったいから・・・。」
目線を外して冥が善朗に注文をつける。
「・・・あぁ、ごめん・・・気をつけるよ・・・。」
少し恥ずかしくなって頭を掻きながら苦笑いをする善朗。
「・・・冥さんはまだ半人前ですよね?」
「ッ?!」
冥と善朗の顔を交互に見ながら、ヌルリと会話に入り込む乃華。
その行動に目が点になる二人。
「・・・そっ・・・そうですね・・・。」
冥がぎこちなく乃華に答える。
「・・・若いからね。」
「若さは関係ありませんよ。」
善朗が分かったように話すと、乃華が遮るように言葉を被せる。
「・・・霊能者には色々なパターンがありますが、冥さんは見るからに滅消系ですよね?」
腕組みをして、右手の人差し指をピンッと立たせながら、鼻高々に乃華が説明する。
「・・・・・・。」
冥は黙ったまま、首を一度、縦に振る。
「滅消系の霊能者は法具を使いますが、これはあくまで護身用で、大体は霊力の高い霊を使役しています・・・冥さんの近くにはそのような霊は見られませんので、まだ契約が出来ていないか・・・出来ない状態と言う感じでしょうか。」
何やら胸を張り出す乃華。
「・・・案内人の言う通りよ・・・私はまだ、霊を使役するまでには到ってない・・・私にはその力はあると思ってるけど・・・。」
冥は何やら含みを持たせる言い方をして虚空を睨む。
「・・・・・・。」
「・・・どうしたの、のぶえさん?」
乃華と冥が話す中、のぶえさんが何やらキョロキョロしているのに気付く善朗。
「・・・いえ、とこちゃんがどこにもいないのよ・・・。」
のぶえがキョロキョロしている原因を話す。
「・・・とこちゃん?」
なにやら聞き覚えのある名前に善朗は復唱する。
「・・・ほら、とこおばさん・・・善文君の守護霊だったんだけど・・・見当たらなくて・・・。」
のぶえは善朗にとこさんの事を話す。
「あぁっ?!・・・とこおばさんっ。」
善朗は名前を頼りに記憶の引き出しを開いていくと、自分達の親戚で遠方の方でなかなか会えないのだが、母親の里帰りの時にいつもお小遣いや料理を振舞ってくれたやさしいおばさんの事を思い出す。残念ながら、善朗が中学に入るぐらいの時に病気で亡くなった人だった。
「・・・のぶえさん~・・・。」
「ひっ?!」
とこさんの話をしていると乃華のすぐ後ろの闇からひょっこりと一人の女性が顔を出した。その存在に気付いて、思わず短い悲鳴を上げたのは乃華だった。
「とこちゃんっ!」
乃華を脅かした?女性を見て、満面の笑みで迎えるのぶえさん。
「のぶえさんっ!」
とこさんは大粒の涙を流しながらのぶえさんの胸に飛び込む。
とこさんが泣き止むのを待って、話を聞く。
どうやら、あの悪霊の男の力(邪念)で善文の傍に居られなくなり、近くに居たのだが途方にくれていたようだった。そんな中、美々子のカシワデで近づけるようになり、とこさんなりに理由を探っていたら、善朗達に辿り着いたようだった。
「・・・本当に不甲斐無くて、ごめんね・・・私も頑張ったんだけど・・・。」
本当に申し訳なさそうに善朗に謝るとこさん。
「・・・気にしないで、とこおばさん・・・それより、今まで弟を守ってくれててありがとう。」
優しい笑顔を作り、今まで弟を見守っていてくれた事に素直に感謝をする善朗。
「・・・オッホンッ・・・とこさんは気に病むことはありませんよっ。」
とこさんに驚いた事を誤魔化そうとしている乃華が話し出す。
「・・・あの男は霊界でも有名な悪霊なんです。名を『縄破螺(なわはら)』・・・子供達を自殺に追い込み、その魂を自分に縛り付けて、楽しんでいる異常者です。」
乃華がご自慢の便利アイテム『黒革の手帳』を取り出して、先ほどの悪霊の詳細を善朗達に教える。
「・・・縄破螺・・・。」
善朗は縄破螺の顔と名前を怒りと共に魂に刻む。
「・・・あんな人形にして、縛り付けていたなんて初めて見ましたが・・・資料に書かれている以上に凶悪な悪霊のようですね・・・。」
乃華が黒革の手帳のページをめくりながら話す。
「・・・そんなやつが、善文君を・・・。」
深刻な表情になる冥。
「・・・言いにくいのですが・・・我々では手に負えないと・・・思います・・・。」
右手の拳にあごを乗せて、神妙な表情で目線を外す乃華。
「・・・ちょっと待ってよ、乃華さんっ。善文があいつのコレクションになっても良いってことっ!」
「あわわっ、あわわっ。」
善朗は納得が行かずに乃華の両腕を両手で掴み、前後に激しく揺らす。
「ちょっ・・・ちょっと・・・ゆら・・・ゆらさないで・・・揺らすなっ。」
力一杯揺らす善朗を力一杯振りほどく乃華。
「・・・ごっ・・・ごめん・・・。」
善朗は振りほどかれた状態で固まりながら謝る。
「・・・縄破螺は『悪霊いろは番付』の特に危険な『ろ組』の悪霊なんですよっ・・・普通の霊能者ですら諦めるレベルなんです・・・とてもここにいる面子では歯が立ちませんっ。」
乱れた服装を整えながら冷静に話す乃華。
「・・・そっ・・・そんな・・・。」
とこさんががっくりと肩を落として塞ぎ込む。
「・・・あきらめられない・・・美々子になんていえばいいの・・・。」
冥が美々子の寝顔を見ながら呟く。
「・・・大丈夫です・・・俺一人でも何とかしますっ。」
「ッ?!」
善朗の力強い宣言に一同は口を開けて驚く。
「善朗っ、あんたどうする気なのっ?!」
のぶえが心配そうに善朗に近付き、尋ねる。
「・・・あいつはゆっくりって言ってた・・・今の俺に何が出来るか分からないけど、どんな方法を使ったとしても善文は俺が守るっ。」
右手を握り込み、拳を作ってその手を凝視する善朗。
「無理ですよ。」
そんな善朗の、決意をした男の出鼻を鮮やかにくじく乃華が悠然と、そこに立っていた。
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