第7話 幽体離脱でまさか自分の葬式を見ることになるとはその時は思いもよりませんでした
〔サァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ〕
あの時とは違う静かな雨が降っていた。
「・・・・・・。」
善朗は深い夜の葬儀の参列を少し遠くから眺めている。
葬儀の看板には丁寧な文字で『善湖家』と書かれている。
紛れも無く、今行われている葬儀は善朗のものだった。
若い女性のすすり泣く声が聞こえる。
同級生の女の子が泣いてくれているのだろうか?
「・・・あっ・・・。」
善朗は泣きながら署名する男の担任の姿を見つけた。
生前は目立たない生徒だったにも関わらず、担任としては大事な生徒が一人・・・卒業もせずにいなくなったのが悔しかったのだろうか。担任は署名した後に、トボトボと肩を落としながら会場の中へと姿を消した。
「・・・・・・浸っている所、大変申し訳ないのですけれど・・・。」
本当に少し申し訳なさそうに、自分の葬儀を見守る善朗に小さな声で乃華が声をかける。
「うううううううううっ・・・。」
乃華の隣でのぶえがハンカチで必死に涙を拭きながら泣いている。
「・・・・・・あまりのんびりとはしていられないので・・・それだけは注意して下さいね・・・。」
泣いているのぶえに呆れながらも介抱しながら乃華が善朗に注意を促す。
「・・・・・・。」
善朗は乃華の注意に黙って頷いて、いよいよ歩き出した。
雨が降っている。
しかし、霊体である善朗たちにはもちろん関係ない。
行き交う多くの人波が善朗達の存在を無視してすり抜けていく。
善朗は黙って、暗い夜道から明るい会場の中へと進んでいく。
「・・・ん?・・・」
会場に向かう時に道すがらで立ち止まっている女の子が善朗の視界に入って流れていく。
気のせいだろうか?
女の子は善朗達の動きを目で追っていたようだった。だが、次見た時は周りの人達とおなじように善朗達が存在しないかのように歩いていた。
(・・・あの子は・・・たしか・・・善文の・・・彼女・・・?)
その女の子をしっかりと見ると、確かにあの時。
大雨の中、善文と仲良く帰っていた女の子だった。今日は流石に葬式ということもあり、おめかししていたので、善朗も一瞬分からなかった。
(・・・あの子にも辛い想いをさせたみたいだけど・・・余り気にしてないようでよかった・・・。)
スタスタと歩いていく女の子の背中を見ながら善朗は少し安心した。
気がかりな善文を見る前に女の子に会えたのは幸いだったのかもしれない。
善朗は気を少し良くして、いよいよ会場に足を踏み入れた。
〔なんまいだ~、なんまいだ~、たぶんじゅうまいだ~、でも、きゅうまいしかないんだ~〕
会場の中には、お坊さんのお経を唱える声が響いていた。
(・・・幽霊にお経って効果ないのか?)
善朗は幽霊となった中、お坊さんのお経の中をスタスタと歩いている自分に少し驚く。
「・・・これは霊が迷わないように導くためのお経なんですよ・・・あなたは私と一緒に居るのに迷うわけ無いでしょ・・・。」
「ううううううううううっ・・・。」
乃華が不思議そうにお坊さんを見る善朗の心を見透かすように疑問に答える。
隣では、乃華に介抱されながらのぶえもついてきているが、相変わらず泣いていた。
気のせいだろうか?のぶえの身体が少し薄くなって光ってるように見えた。
「ちょっ、のぶえさんっ!あんた、何でついてきたんですかっ!消えかかってるじゃないですかっ!」
「ううううううううっ・・・ごめんさない・・・。」
どうやら、のぶえさんにはお坊さんのお経は効果があるようで成仏しかかってるようだった。
そんなコントをしている二人から視線を流して、善朗は家族の方に視線を移した。
「・・・・・・。」
善朗は家族の姿を見て、切なくなって、黙り込む。
それは生きていては見れない光景。
生きていても見たくない光景だった。
そこには参列者一人一人に頭を下げる家族の姿があった。
父は静かに頭を下げ、母はハンカチでとめどなく流れる涙を拭きつつ父に続く。
そして、父と母に挟まれて、弟善文が虚ろな目でぼ~っと立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます