第4話

特に忙しくならないまま時間が過ぎ、シフトが終わった。だが俺はまだやることがある。美人な先輩とデートだ。…………うん、言い過ぎた。デートではない。それにパチンコがデートであってたまるか。

「行こうぜタク。勝ったら焼き肉奢ってやるよ」

「マジですか⁉」

 と、一瞬嬉しくなったが、まあ勝てないだろうし期待しないでおこう。

「まあ任せとけ。今日は行ける気がするんだよ」

 全然信じられない。そう言ってる人は大体勝てないって相場が決まってるし。けど楽しそうな稲葉さんの笑顔だけは凄く良いと思うので、勝って欲しくはある。

「あ。そういえばお前原付か」 

「そうですけど」

 答えて気づいたが、どうやってパチンコ屋まで行くんだろう。俺は原付があるからいいが、稲葉さんはそういった移動手段を持ってるんだろうか。

「あたしも原付なんだよ。どっちか片方しか持ってなかったら色々めんどかったが、よかったわ」

「それならいいですね」

 稲葉さんも原付持ってるみたいだし、問題なさそうだ。

 俺も稲葉さんも私服に着替え終わって、あとは行くだけだ。今は午後五時くらいで、晩飯の時間も考えると七時半くらいには撤収するらしい。二時間もあれば十分楽しめるだろうが、稲葉さんに言わせれば全然短時間なんだとか。

「じゃあ原付取ってくるわ」

 そう言って稲葉さんは走って行ってしまった。俺は灯油を給油する場所の隣の邪魔にならなそうスペースにおいてるが、他にも置ける所があるって事だな。もしそこが屋根のある場所なら、俺もそこ使いたい。

 すぐに稲葉さんが、原付を押しながら戻ってきた。どこでも見るようなスクーターだが、凄く年期が入っている様だ。中々にボロい。

「うっし。じゃあ行こうか。国道沿いのあっこな、最初に会ったとこ」

「了解です」

 俺が原付のエンジンを掛ける前に、稲葉さんは颯爽と行ってしまった。そんなに待ちきれなかったのか。待ってくれないのはなんだか寂しいが、まあいいか。俺も早く行こうっと。


 稲葉さんは先に行ってしまったのに、駐輪場では待ってくれていた。ちょっと良く分からないが、多分置いて行かれたら店内で迷いそうだし、ありがたい。

「おまたせしました」

「おお。じゃ、早速行こうぜ。何打とっかなー」

 稲葉さんはとても楽しそうだ。でもこの人多分初めて会った時めちゃくちゃ負けてたと思うんだけど。懲りたりとかトラウマになったりとかしないものなのかな。

 稲葉さんが先頭で、俺はその後ろをついていって入店した。店内は相変わらずうるさい。けど二回目だから慣れてきた気がする。

「タクは何打ちたい?」

 そわそわと店内を見渡しながら、稲葉さんが聞いてきた。うーん、そう言われてもなあ。

「何があるか分からないんで、何でも良いですよ」

「そうか? そんならー」

 俺が答えたら、稲葉さんはすぐに切り替えて台を物色しだした。この人、多分端から聞く気なかったんじゃないか? 「一応聞いとくか」見たいなノリで聞いてきただろ絶対。まあいいんだけど。

「ほら、来いよ。ここにしようぜ」

 お、今日打つ台が決まったみたいだ。俺は稲葉さんについて行った。

「これにしようぜ」

 稲葉さんは全体的に白い台を選んで座った。

「あ。これって前流行ってたアニメの奴ですよね」

 この台は少し前に流行った異世界転生モノのアニメのやつだ。『死に戻り』で有名なやつ。俺、これ結構見てたんだよなー。

「お。よく知ってんな。これ当たった時の出玉も多くそのあとの消化も早いからこういう時間無い時に良いんだよ。なんせ上手くいけば三千発からのラッシュだからな!」

「はあ」

 何を言ってるのかさっぱりだが、まあ上手いこといけばオッケーってのは分かった。あ、全部そうか。

 俺は稲葉さんの隣に座って、ポケットから財布を取り出した。前稲葉さんがやってるのを見てたから何処にお金を入れるのかくらいは分かる。左上にあるんだよな。

「金入れたか?」

「はい」

「なら貸玉ってとこ押したら球が出るから、あとはハンドル捻ってヘソ目掛けて打ち続けろ」

「わ、分かりました」

 この真ん中の奴を狙えばいいんだな。うわ、どうしよ。緊張してきた。とりあえず貸玉押すか。

 貸玉ボタンを押してみると、横に表示されていた「100」のカウントが五減り、球が出てきた。あとは右下のハンドルを捻る、と。

「左打ちに戻してください」

「うわっ⁉」

 なんだこれ。急にめちゃくちゃ大きい音で怒られたんだけど。

「ははは。おまえ右打ちは気が早いで。ハンドル捻りすぎな。こう、左上位を狙って少しずつ捻ってみ」

 ……そういうのは早く言って欲しいなぁ。ま、打ち方は分かったし。あとは実践あるのみ!

「あ、待って」

 球を打ち始めたタイミングで、稲葉さんは俺の台のボタンを押して、なにやら弄り始めた。モード選択をしてるみたいだ。

「なにしてるんですか?」

「先バレにしとくと、アツい時赤色のランプと音で教えてくれんのよ」

「おおー」

 教えてくれるのはありがたいな、確かに。

「ま、弱いけどな」

 いや弱いんかい。

 とか話していたら、早速ヘソに一球入った。すると画面の三つの数字が回りだし、少しして止まった。全部ばらばらだ。これが三つともそろえば良いってことだよな。

「お。分かってきたみたいじゃん。じゃあ当たるか閉店までぶん回すぞ!」

「お、おー」

 いや七時撤収はどうした。

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