第19話 役に立たない黒猫のラック

ラックを連れて森に向かったカイン。昨日と同じように森の中に入り、ゴブリンを探すが・・・


「カイン。あそこに豚の化け物がいるにゃ。」


「カイン。あそこあそこ。あれは蟻にゃ。すごく大きいにゃ。」


「カイン、カイン。あれがゴブリンかにゃ?肌が緑色って気持ちわるいにゃ。」


森の中小様々な木が立っている。ラックは猫なので、木登りのお手のモノだ。森に入ると、カインの傍を離れ好きに動いてはカインに話掛けていた。


「ラック。あんまり動き回るな。魔物に見つかったらどうするんだ?」


「カインがいるから平気にゃ。いざとなったら守ってくれるはずにゃ。」


(そりゃ何かあれば守るけど、守るけどさ。オークにアントとかって俺まだ戦ってもいないんだけど・・・。さすがにいきなり戦闘は勘弁してほしい。心の準備が必要だろ?は~。昨日教会に寄付したのはミスったかも。こんな事なら森の魔物を一通り倒してから寄付するんだったな。これだったらラックがいない方が狩りが捗った気がする。)


ラックの言葉に適当に返事しながらも、カインはゴブリンを探した。見つけたゴブリンはウインドボールで仕留めた。


死んだゴブリンに近づいていくラックを見て、耳の回収を手伝ってくれるのかと思いきや、


「すごいにゃカイン。魔法でゴブリンを一撃にゃ。これならアタシも安心にゃ。カイン。今度はさっきの豚の化け物を倒すにゃ。あの化け物の方が大きかったから魔法も簡単に当たるにゃ。」


「ラック。その豚の化け物はオークだ。オークはたしかに大きくて魔法も当たりやすいとは思うけど、俺はまだオークを倒した事がない。魔法で一撃かどうかはわからん。もし倒せなかったらどうする?あんな巨体が近づいて来て殴られでもしたら死ぬかもしれないだろ。だからしばらくは魔法一撃で倒せるゴブリンを倒してレベル上げだ。」


「カインは慎重派だにゃ。だけどリスクを取らないとハイリターンは得られないにゃ。」


(俺もゲームとかなら、見つけるモンスターを片っ端から倒してたさ。その方が経験値もより多く得られるし、レベルも上がる。だけどここは現実なんだ。もし死んだとしてもセーブした所からロードできる訳じゃない。ゲームのキャラクターならどれだけモンスターから攻撃を受けても俺は痛くもかゆくもないが、ここは俺自信が行動するから殴られれば痛いし、下手すれば死ぬ可能性もある。慎重にいくのは当然だろ。というか冒険者ならきっと全員が慎重派なはずだ。むやみやたらと魔物に突撃する冒険者はきっと早死にしてるはずだろう。)


「慎重なのがベストなんだよ。石橋を叩いて渡るぐらいでないとこの世界では生きていけない。」


「そんなもんかにゃ。」


「ああ。そんなもんだ。ラックはゴブリンが死んだら討伐証明の耳を切り落としたりはできないか?それをしてくれるだけで、だいぶ効率が上がるんだが。」


「無理にゃ。アタシはかよわいただの猫にゃ。しゃべるだけが取り柄の猫にゃ。アタシの役目はカインの相棒として、カインを癒す事にゃ。所為癒し担当にゃ。」


「癒し担当・・・」


(まあたしかに癒されると言えば癒されるけど・・・でも異世界の癒しと言えばモフモフだろ?ラックは全然モフモフじゃないじゃん。)


「そうにゃ。だから戦闘は全てカインにまかせるにゃ。」


(いやラックさん。例えば俺の代わりに気に登ってゴブリンを見つけるとか。何かしらできる事があるじゃん。少しを俺を手伝おうよ。仮にも女神様からもらったチートの神の奇跡なんだから・・・)


カインはラックをじっと見つけた。


「そんなに見つめられると照れるにゃ。アタシも女だから恥ずかしいにゃ。」


しかし、カインの思いはラックには届かなかった。


「は~。わかったよ。だけど、俺から離れすぎるなよ。遠くに行かれると守る事も出来ないんだからな。」


「わかったにゃ。」


ラックが全く役に立たないと今更ながら思ったカインは、ラックを無視してゴブリン討伐に精を出した。


ラックが話しかけてきても適当に相槌を打って、ウインドボールを放ってゴブリンを倒し、ラックが豚の化け物、豚の化け物とオークを見つけると騒がしくするのを無視してウインドボールを放ってゴブリンを倒し、ラックがお腹空いたからミルクが欲しいにゃと言われたらアイテムボックスからミルクを出しながら、ウインドボールを放ってゴブリンを倒して行った。


魔力枯渇になると、気絶してしまうので、安全圏の魔法10発。ゴブリンを10体倒したところで、今日の狩りを終えたのだった。


「今日は楽しかったにゃ。明日はどこに行くのにゃ?」


「何言ってるんだ?しばらくは今日と同じ事の繰り返しだ。そうだな・・・1週間は今日みたいにゴブリンを倒すぞ。」


「1週間も同じ事するのかにゃ?それはつまらないにゃ。」


「いやなら家で待っていてくれてもいいぞ。それか街の中なら安全だろうから、別行動でもいいぞ?」


「カインはいじわるにゃ。アタシはカインの相棒にゃ。ちゃんと傍にいるにゃ。」


「そうか。」


(なんだかんだいって可愛い所があるじゃないか。まあ役には立たないけど・・・。話相手、癒し担当か・・・俺ががんばれば済む話だし相棒として気長に付き合ってやるか。)


昨日と同じように、ゴブリン10体の死体を草原で燃やしたカインは、相棒のラックと共に街に戻るのだった。

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