新たなる力の鱗片
私は田村丸に凍える大地の王城門前まで案内してもらった。
「あぁ、やっぱり来たのかい。こっちの方に歩いているのは見てたから来るのかなと思っていたがやっぱりか。」
なんとも気だるそうに話しかけてくるその男は目など見えるはずもなかった。兜には全く穴が空いておらず光すら通さないそんな兜である。
「見ていたとはどういう事ですか?」
「そのままの意味さ。見ていたんだよ、あんたのことを。」
「見えるわけないじゃないですか。その兜には穴も空いてないですし…。」
「おんやぁ、あんたはわしと同じだと思ったがちがうのかい?」
「私は覗きの趣味などありません。」
私の言葉を受けたそのプロビデンスの目があしらわれた兜を被った男は兜を取った。
「な…。大変申し訳ない発言をしていました。」
その兜を取った男の両目は抉られた様にぽっかりと口を開けていた…。
穴の空いていない兜には理由があったのだ、その目を隠すために…。
「気にしとらんよ。私には全て見えているからなぁ。あんたはまだ目に頼ってるのか。」
「目に頼っている?」
「そうか、あんた常世から来たんだっけな。そりゃ、わからんよな。」
なんの話をしているのかさっぱりわからず、田村丸の方を向いて通訳を求めた。
「ヘイムダル、わかりやすく説明してやってくれ。」
「んー、そう言われてもなぁ。天眼通ってわかるか?それだ。」
田村丸が間に入ってくれた事でやっとわかる言葉が出てきた。
天眼通、所謂、千里眼…全てを見通す目…、この男はその千里眼を持っているというのかと驚きを隠せなかった。
「はい。言葉自体の意味は。」
「あんた、他の人に見えない何かを見えた事はないか?」
「こちらの世界で縋り付く手の様な光を見た事があります。他の二人には見えなかった様で。」
「ならあんたも同じだな。やっぱり私と似ている。」
このヘイムダルという男と話していると、全てを見透かされているそんな気がして落ち着かない。
「まだ、はっきりとは見えてないのか…。」
「どうすれば見えますか?」
「うーん、目に頼ってるうちはダメだなぁ。アストラル体そのもので見ないと。」
「アストラル体でですか…?視覚ではなく…?」
「あぁ、そうさ。多分、何かが見えたといったがその時、目は?」
ヘイムダルの言う通りであった、こちらの世界に来る前のあの何もわからない光の輪が見えていたあの時だ。
私は態度を改めた…、このヘイムダルという男は本物だと感じたのだ。
「今までの無礼、申し訳ございません。覗きが趣味と聞いたもので…。」
「あぁ、覗きは趣味だぞ。だから何にも思っとらん。」
ヘイムダルはこちらを向いて和やかに微笑み、脱いだ兜を再び被った。
「この兜かぶってみるか…、もう一個かるからな。」
ヘイムダルはついてこいと私に手招きし、詰所の奥へ入っていった。
田村丸は何故か詰所には入りたく無さそうな感じでこちらを見ていたが、私が詰所に向かって歩き始めると、渋々ついてきてくれた。
このヘイムダルとの出会いは私のアストラル体の新たな歯車が回り出すそんな気がしてならなかった。
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