ヘイムダル
ヘイムダルの後をついていく私と田村丸…、しかし田村丸は3歩進んでは何かを考え2歩下がる…。
よほどヘイムダルのいる詰所にはいきたくないのであろう。その理由はわからないが、ヘイムダルがこの城の門番を一人で任されていることに起因するのであろう。
「丸さん…、どうしたんですか、先ほどから少し様子がおかしいですが。」
「あぁ、ヘイムダルの詰所はかなり特殊で…。」
私はこの世界自体が特殊の塊であるため特にその言葉に私は気を留めなかった。
丸はどこかおびえているような、そんな態度がにじみ出ている。
ヘイムダルの詰所は山小屋の様に簡素なつくりであった、特段外見は変なところはなく、いたって普通である。
一点変わった部分としては、”危険:ヘイムダルの詰所”と看板が立っているところくらいだ。ヘイムダル自身が立てたというより誰かが設置した突貫的な様な印象を受ける。
「本当に入るのだな?兜をもって出てきてもらうのもありだぞ?」
「さすがに招いてもらっていて入らないのは、失礼でしょう。」
丸はため息をつきしぶしぶ私と詰所に入ることを承諾した。
しかし…、なぜ頑なに中に入りたくなかったのかはすぐにわかることとなった。
ヘイムダルは五感に頼らない…それは部屋がゴミだらけであろうが、何も感じない、部屋の美しさなどはどうでもよいのだ…。
詰所の中は、様々な塵芥であふれかえり、不浄な気が漂っているそんな気配すら感じる。
丸は潔癖症であった、青虫を素足で踏みつぶしたような表情とアストラル体が逆立っているように見える。
足の踏み場もない…その言葉が本当にお似合いである、しかし、ヘイムダルは何事もないかのように部屋を縦横無尽に移動している。
「はやく…物を受け取って出るぞ…。ここはいつ来てもひどい…。これだからヘイムダルには部下がいないのだ…。」
汚部屋という概念は丸が生きていた平安時代にはなかったのかもしれない…。今では当たり前のように耳にする汚部屋も物があふれかえる時代だからこそ生み出されたのかもしれないなと感慨深くなった。
「目の者よ、これを渡しておく。少し説明したいので、少しくつろいでいてくれ。」
くつろぐスペースなどどこにも見当たらない…。そして丸はもう気絶しているのかと思うくらい棒立ちし動いていない。
しかし、くつろいでくれと言われて棒立ちするわけにはいかないと思い足元のごみを一か所に集めて座れるスペースを作った。
ヘイムダルはお茶のような物を出してくれた…。私も丸も一切手を付けようとはしなかった。
「ヘイムダルさん、申し訳ないです、常世の伝承で、幽世の食べ物を食べると元の世界に戻れなくなるという話が伝わっておりまして…。」
「そうかそうか、いまのアストラル体の状況だと全然問題ないとおもうがのぅ。」
「どういうことでしょうか?」
「そのままの意味だ。幽世の食べ物を食べてはいけない、それは禁忌の話だ、それがねじ曲がって伝わったのであろう。」
常世に伝わる幽世の話の詳細ははっきり言ってわかっていない…、ヘイムダルの言うことは正しいのであろうと信じ、私は出された飲み物を飲んだ。
飲み物は消耗したアストラル体に染み渡るように体を流れていく感じがし、気力充実した気持ちになった。
丸は頑なにその飲み物を飲もうとしない…、そして重い口を開いた。
「ヘイムダル…、今日は客人に何を飲ませたのだ?」
「んん、体にいいものだよ。少しアストラル体の滞留がおこっていたので、それを助けるための食材をふんだんに入れ込んだよ。」
「素晴らしいですね、そんなこともできるのですか!?」
私の誉め言葉にヘイムダルもまんざらでもなさそうであった。しかし、丸は私にひきつった笑みを向けていた。
「ヘイムダル、その食材とは何なのだ…?いや…聞くべきではないか…。」
「ハマオ、ニワウルシ、アスフォデルス…、凍馬の油…、ほかには…。」
「ヘイムダル…もうよい…。それ以上はもう言うな…。」
私は何を飲まされたのだ、そんな不安が急に襲い掛かる。丸が飲まなかった理由もよくわかる、とんでもない材料が含まれているのであろう。そしてなぜそれを手に入れるかも謎だ…。
しかしハマオ…伝説の酒など飲む機会などない、そのほかの食材は聞いたこともないがそれ相応の食材なのであろうと思うことにした…。
「また宝物庫から…、それは良いが、凍馬はちゃんと霜男にかえしたんだな?」
「しっかりと休ませた後に霜男に返しておいたぞ。ちょっと油はいただいたがな…。」
丸は顔に手を当てやれやれといった感じで、ヘイムダルを見ていた。
「丸はいつもこまかいの。この東雲君との話に移れんじゃないか。」
「ヘイムダルいつもそうやって達観しているようだが、すべてお主が原因なんだからな。」
丸はいつもヘイムダルにやり込められているのであろうか、そんなことがこの会話からうかがい知れる。しかし、犬猿の仲というわけではなく尊敬しあい互いのことをよく知っているそんな雰囲気がある。
「東雲君、待たせてしもうたな。その兜について説明するぞ。」
ヘイムダルはそういうと、自身の兜を脱ぎその兜を使って説明してくれた。
内容は常世の科学とさほど変わりがなかった、兜は一種の感覚遮断装置の役割を果たし、視覚、聴覚を奪うという。しかし、一方で聴覚も奪われているので、話し声が聞こえるのかどうかというところが疑問であったが、アストラル体自体を見ることができれば、その波に似た揺らぎを観測できるため、問題ないということであった。
これを全方位に広げられるようになると天眼通となるようだ…が、一日二日でなし得られるものでもなさそうだ。
「一度被ってみるとよい。」
私は言われるがまま兜をかぶろうとしたが、中に詰まっていた塵芥にそれを阻害された…。慌てて中の塵芥を搔き出したがどうしても被ろうという気分にはなれなかった。
その光景に田村丸は大笑いしており、ヘイムダルも悪いことをしたなという顔をしていた。
兜をかぶっていないヘイムダルは新鮮なようで、田村丸もその感情を出したヘイムダルに対してそんなこともあるさ、とねぎらいの言葉をかけていた。
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