雷神の加護…
王様の苦しく申し訳なさそうなその表情に私は声をかけられずにはいられなかった。
「私たちはどの様に役に立てば良いのですか?」
そんな言葉しか出なかったが、私の質問は的を得ていたようで王様は暗い顔を上げた。
「…、メンタル体の特性を利用する…。そのためにも常世のお主達の力が必要なのだ。」
「囮ということですね…。」
「あぁ、すまないと思っている…。しかし、常世に戻りたい、そういった執着をうまく利用し、まずはおびき寄せるしかないのだ…。放っておくと、穢れたメンタル体溜まりはどんどん強大になり幽世を突き破り、常世に出てしまう。それだけは避けなければならないのだ。」
輪廻から外れながらも輪廻に戻ろうとするメンタル体の力、すなわち常世に戻ろうとするその力は先ほどまでは表立っては言葉にはしなかったが百鬼夜行を起こしてしまうのであろう…。
それは、先程はまではあれほど常世に戻る術を頑なに話さなかったが、話したという事であり…切羽詰まった状況の裏返しであることがわかる。
状況は芳しくない様で、王様も焦りの色が見え隠れしいている。
かくいう私たちも状況が芳しくないという事はひしひしと伝わってきており、不安を隠せなくなってきた。
「禁忌の者達の狙いはそれなんですね…?」
日出は王様に確信めいたことを質問した。
王様は何も言わなかったが、沈黙は肯定として受け取った。
「王様は手伝ってくれるんですか?」
私は不安な気持ちが先行してしまい、藁にも縋る気持ちで言ってしまった。
「私自身は手伝えぬ…。禁忌の者達が絡んでいる以上、この城を空けるわけには行かない。すまない、この従者三人はおぬしらに付けるつもりだ。」
王様はそのために丸、ホルス、マードックにこの話を聞かせていたのであろう。従者達もそれは察していた様で、私達に向けて任せろと言わんばかりの視線を向けてくれた。
「お心使い感謝します。」
「気をつけてくれ…、100以上のメンタル体を入れる器である罪人は…私のおと…いや危険な存在だ。メンタル体を吸収した際には何が起こるかわからない。」
王様の目は悲しみをたたえている。そして、確実に何かが起こるであろうという表情もうかがえた。王様も何か考えるところがあるのであろう…、自分の近衛である三人を貸し出してくれるのだから…。
王様は突然天を指差し、その指に雷を落とした。そして静かにその指を鳴らした。
「ここに宣言する。雷神トールはそなたらに加護を与えることを!」
その加護という話を聞いた従者達は溢れんばかりの拍手を私達に送った。
「素晴らしい!これであなた達はこの城の住人と認められました。」
全く状況が読めない私たち三人に対して、田村丸が説明を入れてくれた。加護を受けるという事は、その土地の住民と認められるという事の様だ。
「おぬしたちよ。準備には少々時間がかかる。こちらにいても良いし、常世に帰っても良い。好きにするのだ、もうお主達はここの住人である。」
「ありがとうございます。」
王様はにこやかに微笑みかけながら私たちを労い、そしてそのまま、嵐の様に姿を消した。
「日出、千暁さん、一回戻ろうか。」
「東雲さん、私はもう少しこちらを見てまわりたいですがいいですか。屋台とか買い物とか買い物とかしたいです。」
「東雲さん、私も少し気になるところがありまして…、いろいろと引っかかりましてね。」
二人はまだここに残りたい様だ。そして、変身などアストラル体が消費されるようなこと道もしていないので特に問題はないであろうと結論付け、こちらで各々気になることを探る事とした。
一方で私はというと、特にしたいことも無かったので、門番にでも文句を言いにいこうと言うことで、田村丸を捕まえて門へ戻る事とした。
日出は調べたい事が山ほどあるということもあり、ホルスにこの城の書物が読める場所に案内してほしいと懇願したところ、住人であるので自由に使えるという回答をもらったようだ。
そして、日出は皆に聞こえるように加護最高と叫んだ後、小躍りしながらホルスと共に図書館へ言った。
千暁はもう今まで黙っていたのが堪えたのか早々にマードックを引き連れて、買い物三昧に向かうと言って出ていってしまった。
お金の心配をしたのだが、今回囮になってもらうのが心痛いというマードックの優しさから、マードックの奢りという事になった様だが、マードックが心配でならなかった。
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