メンタル体という名の自我
王様との話は続いた…。
「どうやって常世に帰ってきたのですか?」
「それは、師との出会いだ…。師は私にこの幽世の理を教えてくれた。そして、アストラル体だけでも帰るすべも…。」
「その話を詳しく教えて貰えませんか?」
私は食いついた、アストラル体だけで常世に帰る方法…。これが簡単にできてしまうと常世は崩壊するであろう。
「すまない、これだけは教えることはできない…、その師は禁忌の探究者であったのだ…。しかし、その事象に関しては聞いた事があるかもしれないな…ワルプルギスの夜、百鬼夜行…。」
「確かに…聞き覚えはありますが。」
私にはアストラル体だけで帰ってくる事とそのワルプルギスの夜と百鬼夜行が点と点で繋がらなかった。
「なんらかの原因で幽世から死者が常世に溢れ出す…。」
「その者にはもう理解できているのかも知れないが、すべてを話すことはできないがそうであるとだけ言っておこう。その現象を使って私は外に出たのだ…。しかし、問題は幽世から抜け出す時には常世のどの座標点に行けるかがわからないのだ…、北欧、はたまた日本…。」
「だから、王様は様々な名前があったんですね。肉体を持たない故の扉の問題ですか…。」
日出は王様の話を聞き何かを掴んだ様に頷いている。
王様も皆までは言えないと言った雰囲気ではあったが、理解される事自体は悪とは思ってはいない様だ。
「ここからが私がおぬしらに頼みたいことの話になるのだが。」
王様は一度、咳払いで今までの雰囲気を一掃したのちに話を始めた。
玉座の間は先ほどとは打って変わり静まり返り、槌がまとっているのであろう、雷の音だけが部屋に響いている。
「おぬしらの世界の住民が行き場をなくしており、それにより悪いことが起こりそうなんじゃ。先ほど言った、百流夜行…、ワルプルギスの夜そのようなことだ。」
「行き場とは?肉体を持つ私たちは帰れるんじゃないんですか?」
「うむ…。こちらでアストラル体が正常であればな…。こちらの世界には禁忌を犯し、強くなろうという輩が多くいる…そして、常世に恨みを持つものも…。」
「禁忌…、アストラル体の違法摂取…。」
丸が言っていたことであるが、アストラル体を食すことで自身の強化が可能になる。しかし、それは禁忌であると。
王様は神妙な面持ちで、その話を語った。
「禁忌については知っているな?」
「すべてとは言いませんが。」
「そうか、ではなぜ禁忌なのか、その根源だけを伝えておく。アストラル体のみの結合である場合、自我の拒否反応はでないのだ。しかし、禁忌を犯した場合はその限りではない…。双方の自我がぶつかり合い、強力なエネルギーが生まれるのだ…。そして、自我というエネルギーは一つの体には一つと定められており、行き場をなくした一方の自我が排出される。」
「排出ですか…?」
排出という言葉が引っ掛かった、自我が他の自我を食いつぶすのであれば理解できるのだが、今回王様は排出という言葉を使った。
「リーインカーネーション、輪廻転生という言葉はしっているな。」
「はい、まわりまわって新たな生として生まれるという考えですよね。」
「そうだ、通常、自我は輪廻の輪に戻るのだ。しかし、禁忌が行われたとき、自我は穢され輪廻の輪から外れる…。そして、行き場を失った自我はヘドロの様にこの世界に蓄積していくのだ…。」
私たちは言葉を失った、輪廻転生の原理のその一端に触れたのだ、常世と幽世その二つがどのような関係性であるのかがいま、王様により話された。
「頼みたい話はというのはその輪廻の輪から外れた自我を救うということですかね。」
「話が早くて助かるが、救うことはもうできん…。唯一できることとすれば、禁忌を犯したものを罰することくらいである。」
「ではどうすれば…。」
「酷な話ではあるが、消し去ってくれ…。その穢された自我…、メンタル体はもう帰るところはないのだ…。」
王様の表情はいつにもなく悲しげである。どうしようもないという感情とどうにかしてやりたいという感情が垣間見えている。
「メンタル体…その様な概念なのですね。」
「あぁ、アストラル体が優位なので、表にはわからないが、そのメンタル体が輪廻には重要な役割を持っているのだ。」
「しかし、メンタル体はどうやって消し去れば良いんでしょうか?」
王様の表情は険しくなった…。従者達もあまり良い顔はしていない…。
「ある罪人を使う…。禁忌には禁忌で対応する…。」
王様は苦渋の決断であったのであろう、表情がそれを言わずもがな語っていた。
「罪人とメンタル体どの様に関係が?」
「罪人にメンタル体を吸収させる…。そして、排出されないうちにその罪人を消滅させる事で一つの自我として輪廻の輪に返す…。」
元ある人格に他の人格を入れ込む…、そういう事であろう。それがいかに非人道的な事かは私たちでもわかった。
「問題は…耐えられるか…、過去50の人格を同時取得した禁忌の者は狂い、変貌し、この世界に牙を向いた…。しかし、今回はその比ではない…長年蓄積されてきた…100は超えるであろう…。」
「そんなに…。」
「あぁ、ここのところ、禁忌の者達の動きが慌ただしい。ことが起こる前に何とか対応したのだ…。」
「メンタル体を複数の罪人で平滑化する事はできないのですか?」
「できないのだ…。穢されたメンタル体の特性として…人としての性であったのであろうか、個ではなく群れたがるのだ…。ヘドロの様に蓄積し、混沌としたメンタル体となっている。」
人は寂しい生き物だ、それを埋めるために群れを作り自分を守る…メンタル体もそれに準じているのであろう。
そして、過去にあった出来事はかなり被害をもたらしたのであろう…、王様もあまり思い出したくない様子である…。
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