常世の幽世の正体

 問いに対し王様は苦虫を噛みつぶしたような顔でこちらを見つめていた。


 「特異点と古き友は呼んでいた。すまない、私にもわからないのだ…、自然発生した物ではない…とだけしか答えられない…。」

 「あの様な幽世の様な環境は自然発生し得るのですか…。」

 「あぁ…。そうだ、パワースポットや霊道と呼ばれる場所はそれに近しい…、全てが幽世ではないが…。すまないな…、的確な回答ができなくて。」

 「ありがとうございます、王様。作り出せると分かっただけで十分です。」


 王様は申し訳なさそうにしていたが、日出にはその回答だけで火がついた様で、私の横で思慮に耽っている。


 「王様、私からもよろしいでしょうか?」

 「申してみよ。」

 「そのパワースポットなどはこちらに来た時のようにある幽世の場所につながっているということですかね。」

 「あぁ、智の者よ、その通りだ。例えば、海底神殿につながるそのような場所もある。」

 「やはり、そうですか!」

 日出はまた思慮を始めた…。


 「この世界にも、各々の国や統治している王がいるんですね。」

 「あぁ、常世の人間には詳細は話せないが、ここ以外にも国や色々な物があるぞ。知りたいのであれば、死者となって貰えれば全て話せるぞ。」

 「え、遠慮させていただきます。」


 王様はいてつくようなアストラル体の粒子を放ちながら、冗談をいうがその顔は笑ってはいなかった。


 「聞きたいことはもうないか?なければこちらからの頼みを聞いてもらいたい。」

 「あと、もう一つだけ。なぜ、王様は常世にいらしたのですか?」

 「ちょうど良い…、私のお願いもそれに由来する話だ。」


 王様は従者たち数人以外はこの場から出る様に指示した。


 特に人払いはする必要は無かったとのことであったが、私たちが従者に囲まれて萎縮している様にも見えたので警護に必要人数だけ残してくれたとのことであった。その警護も王様のためではなく私たちのためとのことである。


 ここに来てからというもの、千暁はかなり萎縮している様に思えた。


 「こやつらを紹介しておこうか。説明はそのあとじゃ。田村丸は知っているだろうが。後はホルスとマードック。まぁ、見ての通りの者たちだ。」


 ホルス…顔が鳥の人間だ…、常に獲物を見続ける鋭い目つき、隆起した胸…もとい鳩胸を覆い隠すくらいの鎧の背の部分には翼の紋様が入っている…しかし本体からは翼が生えていない。


 マードック…ドーベルマンの様な引き締まった体に人の顔が付いている…。人面犬はもしかするとこの従者が常世で目にされた時に生まれた伝説なのではないかと思える。


 「ホルスと申します。以外お見知り置きを。」

 

 そのホルスと呼ばれる鳥面人は私たちに深々と頭を下げて、あいさつした。


 「マードックです。よろしく!」

 「こちらこそよろしくお願いします。」


 マードックはベースは犬なのだろうか、そう思うくらいに人懐っこい。しかし、アストラル体比率が小さい犬が人間と結合すると比重としては人間に傾くはずなのだが、そうはなっていない。かなり、興味がそそられた様子で日出はマードックを観察している。


 「従者の説明も終わったので…。おぬしの問いに答えるとしよう。少し話はずれるのだが、私はもともと常世出身だ…、いまではない昔の話だがな…。」

 「どういう事ですか?常世でもアストラル体から…、無から有を構築できるんですか?」

 「まぁ、まて…最後まで聞いてくれ。私は常世の住人の神として生み出されたのだ…思いの力から生まれたといっても過言ではない。」

 「信仰…数億の願望から生まれたアストラル体の結合…。理論上は可能ですね…。しかし、アストラル体では…。」

 「あぁ、その通りだ。しかし、できる場所があるだろう…、先程申したパワースポット…そこで、私は生み出された。」

 「そういう事か…。常世であり常世でない…、そこなら可能なのか…。」


 私の頭はしっかりとその話についていこうと熱を帯びる…。理解が追いつかなければ、今後起こりうることの対策も立てられないからである。


 「問題があった…。私は肉体を持たないため、その場所でしか存在できなかった…。」

 「常世にある幽世から出られなかったのですね…。」

 「いや違うのだ…。自然に形成された常世にある幽世は完璧ではなく、崩壊と再生を繰り返すのだ…。そこが崩壊する時にアストラル体は本当の幽世に引きずり込まれるのだ。」

 

 パワースポットである常世の幽世の崩壊…、ではその引きずりこむ幽世の存在とは何なのだという疑問がわく。


「その崩壊の際に肉体を持つものは肉体とアストラル体が結びついておる分引きずり込まれても、常世に戻れる…。この事例が神隠しと呼ばれる事だな…。」

 「つまり、アストラル体しか持たない王様は、幽世に引きずり込まれ…本当の幽世に閉じ込められたと…。」

 「そうだ…。私はなんとか常世に帰ろうとしたが、それはできなかった。肉体の紐付きがない私はその時には帰る扉がなかったのだ…。」

 「私たちは肉体とアストラル体はゾンビパウダーにより繋がりを保っていますが…、王様はアストラル体しか持たない…そうなると常世には帰れない…そういう事ですか…。」


 王様は少し悲しそうな顔を見せながら私達に自分の生い立ちを語ってくれた。


 ゾンビパウダーはこの崩壊をどこでも誰でも行えるという危険性に私たちは気付いていなかった…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る