動き出す陰謀

 新薬発表当日の日を迎えた。もうやれることはやった、私は日の目を見ることはないであろうが、最後の大仕事が残っている。このお披露目会を成功させるためにも、テスターたちの安全確保だ。


テスターたちは不格好で珍妙なヘルメットをかぶり、ベッドに寝ころび新薬【ゾンビパウダー】を飲み、幽世へアストラル体を送った。


 「みなさん、ご覧ください。これが死後の世界です!」


 社長の大きな声とともに、画面に映し出されたのは、各々が死後の世界で見ている光景であった。


 昔、夢を可視化するヘルメットというツールが一世を風靡し、そのヘルメットを改良し、テスターたちが見ている光景を映し出す機械を秘密裏に逢魔社長は作らせていたようだ。


 「日出…ありがとう。お前のような部下がいてよかった。今日以降は任せたぞ…。」


 テスター達が死後の世界の扉の前で立っている姿を無事確認し終えたところで私も舞台袖に特設してもらったベッド上で部下に見守られながら錠剤を服用した。


 「さて、テスター達は無事に逢いたい人に会えるのでしょうか?」


 社長は観客たちを煽るように言葉を話し続ける。


 画面に映し出される幽世に発表会にきた人たちは目を奪われている。皆半信半疑ではあるが、目線を奪う、広報という観点においてはこの時点で大成功といっても過言ではない。


 「おい、見てみろよ、足がバネになっているぞ。」

 「あんなのだ…あの街は…、斬新というのか、新しいのか、古いのかよくわからんな…。」

 「よくできたCGだなぁ。死後の世界なんてあるわけないだろ。」


 そんなどよめきが会場に溢れかえった。しかし、観客たちは画面から目を離すことはできていない。


 「さあ、ご覧下さい!」


 会場に死者の街でのテスターたちが見ている光景が映し出された。


 各テスターの一人称視点の映像となっているのだが、それがまた新しい、まるで頭にカメラをつけているかのような映像で死者の街が映し出される。

 

 「あのテスターが感動して泣いているぞ。やらせか?」

 「あの人…どっかで見たことがあるな…最近亡くなったあの有名人の様に見えるな…。」


 会場はより一層の盛り上がりを見せた。肯定的な意見、否定的な意見が入り混じり会場は混沌とした雰囲気に包まれた。


 私はテスターたちの邪魔をしないように陰から見守り、引率をした。


 今回の主役は私ではなくテスターたちなのだ、縁の下の力持ちに徹することに力を入れた。そして、テスターたちが常世に帰ってくるフィナーレを迎える前に私は一足先に常世に戻った。


 戻ってきた後のその会場の雰囲気に驚きを隠せなかった、ここまで良い意味でも悪い意味でも反響があるとは思ってもいなかったのだ。


 「さぁ、テスター達が帰ってきます。皆さん拍手でお迎え下さい。」


 会場は拍手で覆い尽くされた。それが嘘であれ本当であれ、良い物を見せてもらったという事なのであろう。


 「新薬はこの発表後、販売を開始する予定ですので、逢魔製薬をよろしくお願いします。」


 逢魔社長が舞台袖にフェードアウトし、会場が暗くなりこの新薬発表会は幕を閉じた。


 「いゃ、嘘かほんとかはわからないが、気にはなるな…。」

 「テスターの人、幸せそうに犬を抱いていたな。」

 「一度試してみないことには何とも言えなさそうだが、良さそうだな。」


 クロージングした後の会場も盛り上がり、その声が止む事はなかった。


 私の退職日が来た…、これから私はまた職探しのフリーターとなる。そして、ぬぐい切れない不安感を持ったままこの会社を去ることに対する何とも言えない感情に包まれそうになる。


 「東雲主任研究員、これまでありがとう。このプロジェクトは今日を持って終了だ、お疲れ様。」

 「今までありがとうございました…。最後に一点だけ、あの新薬の危険性はしっかりと周知お願いします。」

 「ぁあ、任せておいてくれ。それより、帰りにでも口座を確認してみると良い…、腰を抜かすぞ。」


 私は部下と社長に見送られ会社を後にした。

これからはフリーターだ…、職を探しながらまた、風来坊をすることになるであろう。そんなことを考えながら、社長が言っていた口座を確認した。


 そこには見たこともないような金額が振り込まれていた。


 独身であれば人生を3回は遊べる金額だ…、本当に腰を抜かしそうになった。


 「(もう働かなくても良さそうだな…。)」


 私はその金額を見て、自堕落な生活を送ることを決意した。一抹の不安もその金額を見てしまい吹き飛んでしまった。


 それから、3ヶ月の月日が経った


 私が開発した新薬は見る日が無いくらいニュースになっていた。

 死者に会える新薬、死後の世界は娯楽の世界の様なポジティブなニュースばかりで溢れかえっていた。そんなニュースに私は目をつぶり続けた。


 「(私自身は日の目を見る事はないが、やってやったぞという気持ちが湧いてくるな)」


 ニュースを見ながら昼間からお酒を飲み、ソファでくつろぐ。

 そんな自堕落生活を送っていた時、私の元にある女性が尋ねてきた。


 その訪問が私の生活を一変するとは思いもよらなかった。


------------幽世のどこか


 石でできた大きな玉座に座る一人の男とその王座の男に跪くもう一人の男がいる。


 「我が主人よ…、準備は整いました。」

 「お主には面倒をかけたな…。こんな老耄にまだ尽くしてくれる物好きはお主くらいであろう。」


 玉座に座るその男は苦しそうながらもどこか嬉しそうにその跪く男に声をかけている。


 「これからはお主が、この石板に示されし四人の事を見守り…仕えてくれ…、私にはもうその力も時間も残されておらん…。」


 その発言に跪いている男は悲しげな表情を浮かべた。


 「仰せのままに…。主人よ…、ゆっくりとおやすみ下さい。」

 「あぁ…、そうさせてもらおう…。お主にはこの石板を渡しておく…常世と幽世のことは任せたぞ…。この時のために…一族さえ裏切った私に使えてくれてありがと…。」


 玉座に座る男はそう言うと深い眠りに落ちた…。

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