第14話 帰結が間近
事の発端は、精霊の異変が始まりだった。
ヒトでも生き物でもない、そんな存在である精霊は本来であれば持つ事の無い『感情』。それを持ってしまったが事により、今回の異変は起きた。
『感情』とは生き物が経験を重ねる事で徐々に形成されていくものだ。それを自我を持たない精霊の中に突如発生してしまった為に、精霊はそれが何かを理解する事が出来ず、混乱して今に至る。要はヒトの赤ん坊の
では、何故異変は起きたのか。それは、この異変の以前にも別の異変が起きたからだ。
既にその異変自体は解決したのだが、異変が起きた事による世界全体に『
精霊達が行う儀式で、『精霊回路』と呼ばれる精霊から発生する魔法の力がヒトへと流れる見えない通路を繋ぎ直す事で、歪を修復しヒトは再び魔法を問題無く使えるようになる、筈だった。
だが、『歪』による影響は思っていたよりも拡大しており、それは精霊そのものにまで影響を及ぼしていた。
「そちらがスズランと呼んでいる存在は、仲間と言える精霊から攻撃を受けて儀式が中断されてしまった。攻撃を受けて力を消耗し、スズランは正常に儀式を行えなくなった為にヒトの手を借りて儀式を再会しようとした。
それが、そちらがした旅の正体だ。」
「本来であれば、動かずとも集中すれば四方にある魔法晶から力が集まって儀式が出来たんだけどね。力が弱まって魔法晶に近寄らないと力を集約出来なくなって、どうなるかと思ったよ。」
精霊であるシエーテが代わりに異変の詳細を説明し、カルミアとクレソンは大人しくして話を聞いていた。
「そのコーゲキしてきた精霊も、異変でオカしくなってたの?」
「そっ!あっ、因みに攻撃してきた精霊がメーデンとアルロイだよ。」
その精霊が誰かは二人には予想出来たらしく、驚きもせずに納得した様子を見せた。
「この異変の前に起きた異変ってのは、具体的にはどんなのだ?」
「…この世界そのものに影響する程のもの、とだけ言っておくよ。その異変だって、放って置けば本当にこの世界が正常でいられたか分からないから、こっちとしても解決して助かったけどね。」
どんなものだったかは精霊からは話したくないのか、話せない事情があるのか、二人は知る事は無かった。
「そう言えば、スズちゃんが儀式で精霊のミンナを直す予定だったんだよね?スズちゃんってそんな大事な儀式をするくらいスゴい立場なの?」
レザールとシエーテの二体は、カルミアの質問を聞いて一瞬呆けた表情をした。カルミアはその一瞬の様子を少し驚きつつ答えを持った。
「凄い立場、ねぇ。こちらからすれば立場とか上下とか気にしないんだけど、確かにヒトからすれば凄い…のかな?」
「まぁ、『大精霊』って称されるこちらからすれば確かにそう見えるのかな。」
『大精霊』という言葉を聞いて、カルミアは聞いた事がある様で腕を組み思い出そうと考え込んだ。一方クレソンは知識があるらしく、とんでもないものと対面していると自覚した。
『大精霊』は、知られている詳細こそ少ないが、多くの微少な精霊を纏め上げる主導者の立ち位置にある強い精霊とだけは知られている。
確かに、今まで襲撃してきた精霊と比べれば力は強く、特に自分らに襲い掛かったメーデンやアルロイは他の精霊とは違う事が実際に戦って判る。
そしてその二体と同様に、今目の前に立つ二体の精霊も同様に強い事が肌で感じた。カルミアも知識は無くとも本能で感じ取っている所だろう。
そんな精霊達が、スズランに対して他の精霊とも、自分らとも違うものだととれる態度を見せた事から、スズランもまた他の精霊とも更に違う存在だと言う事が察する事が出来た。
「そうだなぁ。こっちが『大精霊』なら、スズランはヒトで言う主…王、いや親に近いものかな?」
「『大』とは違う、『主』と表現するのが良いかな?ヒトの中でも、呼び名は決まっていないらしいからね。」
精霊達が口にしたのは、カルミアとクレソンにとってまさかの答えだった。
親、という事は全ての精霊の根源だと言え、王や主と大精霊自らが称するという事は大精霊さえも従える立場にあると言える。
まさかの
しかも、二人はそんな
「って、隊長!そんなスゴい子の事黙ってたの!?」
「なーんで言ってくれなかったんだ!?ってか、そんな大事な任務の詳細も全然言わなかったし!」
やっと話題がきたと隊長は頭を掻きつつ、二人の方へと向き直った。
「黙ってたのは悪いと思ってはいたが仕方ない。そうしなければ駄目だったんだよ。」
最初に『ソレ』を目にした時、『ソレ』は光体であったと隊長は言う。故に正体不明で警戒をした隊長ではあったが、語り掛けてくる言葉に気になる箇所があり、一応は無だけを聞くと言う姿勢になった、と言う事らしかった。
実は当時、既に魔法不発の事故は何件かあったらしく、まだ規模の小さい被害であった為に調査をする段階にまでは至っていなかったらしい。
そんな中、話し掛けて来る光体は言った。
このままでは、ヒトは魔法を使えなくなる。どうか助けてほしい。
正確にはそこまで正確には声を出せてはおらず、片言で弱々しい印象だったと隊長は語った。だからこそ余計にこれから何かが起きる予感がしたとも言っており、光体の言う事を信じたのだと言う。
「光体?ソレがスズちゃんだったの?でもスズちゃん、今はちゃんとヒトの姿してんじゃん。」
光体の正体を早くに察した二人は首を傾げた。確かに二人と会った時には既にヒトの姿に成ってはいたが、隊長の方はヒトの姿になった
「あー…クレソンの方は知ってるか?『自立人形可動実験』の話。今のスズランはそれだ。」
隊長に言われてクレソンは思い出した表情となり、カルミアに分かるように説明を始めた。
「俺ら機工人の技術は、言っちゃあなんだが山小人の機械精製技術よりも上だと自負している。っと言っても、そもそも作る機械の分野が違うんだがな。
山小人が頑丈で大きく重量のあるもの。跳ね橋とか船とか建物なんかだな。んで機工人は細かい部品だったり精密な機械の中身だったりを作ってる。
だから、山小人による外装に機工人による細かな表情筋や関節、心臓部分を担当しての新たな自立機械の製作が計画されたんだ。
俺は話だけは噂程度に聞いてはいたが、もう出来てたんだな。」
言って思い出したのは
「えーっと…つまりスズちゃんは最初は光の玉で、次にそのジリ…カドー人形になった…て事?」
「違う。正確には人形の『中』にいたんだよ。」
補足する様にしてレザールが話した。
「言ったろ?スズランが弱っていたって。そこのタイチョーとやらと会う時だって、そもそも生き物に声を掛ける事だって相当に力を消耗する程だっただろうし。」
かくいうシエーテやレザールも異変による変化によって起きた他の精霊の暴走に巻き込まれて、スズランと同様に損傷を受けてスズランを助ける事が叶わなかったという。
異変を解決するにはあまりにも力を消耗してしまった。そんな状態の中、乗船した船に接近する精霊の気配していた。危機的状況に陥った精霊である
「可動実験の為に運ばれている途中の人形でな。その実験は魔法研究会と騎士団との合同で行われる予定だったから、どんな外見の人形かは一応知っていたからな。いきなりお前らと一緒になって、それも動いて来た時は本気でどうしようかと思ったよ。」
他に身を隠せる物が無かった為、精霊の状態であった
だからこそ、隊長は二人に人形の中の
二人は自分らと共にいた存在がヒトでない事は察してはいた。だが生き物ですらなかった事に更に驚きはしたが、それだけだった。
「えーっと?んじゃあ、今ん所スズちゃんは人形の中にいれば、暴走してる精霊に見つからなくてダイジョーブって事?」
「んな訳無ぇ。」
カルミアの言葉に隊長ははっきりと否定した。
「言ったろ?時間が無いって。…言ったよな?」
「君ねぇ。自分の口で散々言っていただろうに。」
ど忘れをした隊長はタイムに確認を取り、そのタイムに呆れられつつも話を戻して二人に説明した。
「スズランは主精霊と呼べるほど強い力を持つ精霊なのは言ったな?そんな強い精霊が力を弱くなった状態とは言え、お前らと旅して儀式もして、徐々に力を取り戻しつつある。
いくら結構な技術力で作られた人形でも、そんな強い力を持つ精霊を宿したままでいれば、負担は大きい。それに見たろ?スズランの顔のヒビ。」
隊長に言われ、カルミアとクレソンは今までの旅でのスズランの姿を思い出す。
唯一魔法を使え、強力な魔法を使う事が出来ていた。しかし、使う度に魔法酔いの様な状態になり、酷く病弱な状態だった。つまり、その時からスズランは負担を抱えていたのだと思い知った。
「スズちゃん、ガマンしてたんだ。」
「それだけ異変解決に勤しんでたって事だよ。それに気付こうが気付くまいが、関係無くスズランは先に進んでいたさ。」
カルミアの言葉に続きを吐かせない様にして隊長は言い聞かせた。二人は少し落ち込んだ表情をしたが、隊長の言葉を噛みしめ、顔を上げた。
2
少し時間が経ち、滝の洞窟の方から歩く音が聞こえるのを耳にし、一同は洞窟の方を見た。その洞窟から
「ゴメンね。スズちゃん、ずっと大変なジョータイだったのに、ゼンゼン気づかないであちこち連れ回しちゃって。」
「あぁ。先を急いでいたのは分かっていたのに、俺らはちゃんと理解しないでお前に頼りもした。本当なら一緒に行くって時点で俺らが負担を無くせれば良かったのに。」
二人は
「…私、が…いっしょにいたかった。
私、こそ。関係ない…のに、まきこんだ。」
私は、精一杯言葉を選び、それを声に出して二人に聞かせた。
「…あっそれこそ関係ナイよ?」
「うん、そうだな。好きでついて行っただけだから、気にしなくて良いよ。」
さっきまでの鬱屈とした表情から一変して、二人は私にあっけらかんと言いのけた。
「お前ら、偶に情緒どこに捨てたって事言うよな、本当。」
二人の後ろで聞いていた隊長が割って入る様にして出て来た。タイムはそこが二人の良い所でもあると二人を肯定した。タイムと反対に愚痴を溢す隊長に二人はあっ隊長!と更にさっきまでの暗い雰囲気はどこに行ったのかと思える程呑気な口調で言った。
「うん…お前らの心情は良く分かった。ところで俺からスズランに一つ聞きたい。何故俺に最初に声を掛けた。」
隊長の言葉に私は気を引き締め直し、隊長と向き合った。
「もし俺が最悪な性格をしていたら、お前は俺に声掛けた時点で利用されて、儀式が失敗していた可能性があっただろ。」
隊長はこの異変が起きた事よりも自分が最初に自分が私に選ばれた事にずっと疑問を持っていたらしい。今までは聞いている場合ではなかったから私の事は二人に任せたままで行かせていたが、今こうして話し合える場面となり、やっと疑問が解消されると思ったのだろう。
「…今までずっと見てきた。色んなヒトがいて、どんなヒトなのか、知っている。
あなたを選んだのは、あなたなら必ず成し遂げてくれる。二人を信じて私を託すことも、信じていたから。」
「…あぁそうね、あんたらにとって距離も何も関係無くヒトがどこで何をしてるか判るんだよね。…そうだな。」
私に言われた
「…隊長なら決して悪い事をしない、隊長は仕事に真面目で良いヒト。」
「隊長はケッしてウラギらない、シンネンを持ったツヨいヒト。」
「止めろっ!?耳元で
「いやぁ、愛されているね、団長?」
「止めろ!誰か本当に止めろ!」
隊長が私の発言で羞恥になっていたらしく、それに察した二人が隊長をからかい始めた。それに続く様にしてタイムも隊長に話し掛け、隊長は居た堪れない状態となった。そんな三人のやり取りを眺めているとレザールとシエーテが話し掛けてきた。
「いやー最初見た時から思ってたが、結構良いヒトだよね、このヒト達は。」
「ねぇ。こっちもヒトに対しては
でもああいうヒトを見ると、別に良いかと思えるよ。」
しみじみとヒトに関して語る二体の姿を見て、私の内側で重いものが下ろされるような、不思議な感覚を占めて来ている事に気付いた。
これも感情が付与されたものなのだと分かる。でも、何故か、その感情を噛みしめていると、徐々に感情が変化していき、軽かったものが重くなっていくのを感じた。
なんでだろう。そう思っていると、精霊の誰かが呟いた。
「残念だね。この気持ちってヤツも、もう直ぐ『元』に戻るんだね。」
あぁ…そうか。
カルミアとクレソンが隊長へのからかいを一通りし終えると、振り返り私の方を見ると、驚きの表情に変わった。
二人の目線を辿ると、シエーテとレザールの体が足から光の粒子となって消えているのが見えた。
「あっやっと始まったのか。」
「もう少し早く始まると思ってたのに、全然変化無いからどうしようかと思った。」
消えていく自身の体を見て、二体は落ち着いた様子で状況を理解している様な事を口にした。
「いやすっごい落ち着いてるぅ!?」
状況が全く分からない騎士団の二人は慌てた様子で叫んだ。体が少しずつ消えていく精霊を囲って二人は特に意味を持たない動きを繰り返し狼狽えた。
そんな中、隊長は精霊二体の体の変化が何故起こったか知っているらしく、二人を落ち着かせようと二人の頭に手を置いて押しつけた。
「落ち着け。これは儀式が完了したっていう証だ。こちらは精霊として働きに行く準備が出来たんだよ。」
隊長の説明に、二人は首を傾げ説明の続きを求めた。その説明の続きは精霊自身がした。
「そもそもこの儀式はスズランが四方で力を集約したら、最後の儀式を行う為にこちらは儀式の場へ移動しなきゃならないんだよ。」
「そっやっとこっちはヒトの姿から元に戻れるから、ここでそちらとお別れって事。」
聞いて二人はやっと落ち着いたか、へーと声を出して納得した様な態度をした。
「本当なら儀式が完了した時点で消えてたはずだったんだけど、そっちと話して見たくてガマンしたんだよね。」
「おかげでヒトに対して色々知る事が出来た。このまま『元』に戻るのはもったいないと思うけど、まっこのままいけばヒトも世界も大丈夫みたいだし、安心して行けるよ。」
それじゃあね、と本当にヒトの様に挨拶をし、レザールは消えた。最後にシエーテも半分以上消えた状態のまま話し続けた。
「そっちがスズランを大切にしてる様を見てて、そこからヒトを信じて良かったって思わせてくれて感謝するよ。
もうここでお別れだけど、ヒトがそちらみたいなヒトで満ち溢れる日が来るのを待ってるよ。」
そう言い、手を振ったまま体が完全に消える様を眺めた。
そうして精霊二体が消えるのを見終え、漸く最後の儀式の為の場へと移動する時がきた。
隊長もその事を知っている為、移動の為に足を動かすと、呼び止められた、呼んだのはカルミアだった。
「…ねぇ、気になってたんだけど。『元』にモドるって言ってたの、それって魔法フハツもしなくなって、精霊もヒトをヒトオソわなくなるって事なんだよね?」
確認をする様に、カルミアは聞いておきながら聞くのを嫌がっている様な表情で質問をした。クレソンも黙っていたが、カルミアと似た表情をしていた。
…私は訂正する様に言った。
「…『元』に、もどる。精霊も、『元』にもどって、感情も、姿も、記憶も、なくしてもどる。」
元から精霊は感情を持たないし、記憶も持たない。記録が共有されるだけで固有の意思を持たない、集合体の様な存在だから。だから、今回の異変が治まれば、同時に今までの記憶も消え去る。それが当然だから。
精霊にのみ解消出来る異変が起きれば、元の何も無かった状態に戻す。そうする
二人は私の答えを聞いて、また表情を変えた。それは、最初に会ってから今まで見た事の無い表情だった。
誰もが黙った状態となった空気の中、最初に声を上げたのは、ここまで道案内をした土地守のカナイだった。
「異変解決を急いでいる所だが、後一日くらいまだ猶予はあるだろう?」
そう言ったカナイは、森の近くにあるむらの宿屋を皆に勧めた。隊長がそれに賛同すると、黙ったままになっていた二人と私に話し掛けた。
「とりあえず!ここまで休み無しだったから、好い加減お前ら休め。俺が言って無理させといて言うのはあれだが、明日に備えてって事でな。」
隊長はとても言い辛そうにして二人に宿屋で休む様に命令し、タイムに二人を見ている様に言うと二人に背を向けて先に森の出口へと向かって歩いた。
隊長に言われた後も足どころか指先一本すら動かない二人に、タイムは溜息を吐いて声を掛けようとしたその前に、私が動いた。
「ぐえっ!」
「んぐっ!?」
私は二人の脇腹に両手で一斉に手刀を刺した。その衝撃に二人は短く低い悲鳴を上げて
二人を見つめ、少し時間が経つと二人は諦めたように頭を掻いたり溜息を吐くと、二人も改めて私の目を見た。
「うん、分かってる。…行くか。」
「…ウン。」
二人は宿屋に向かい歩き始めたが、その表情はまだ何も納得したしたようには見えなかった。そう私は感じた。タイムも何も言わず、私達三人を見守りつつ着いて行った。
3
カナイの森を出て、近隣のむらにある宿屋で部屋をとった。
「おや?一緒にいた赤髪のヒトと長髪のヒトが見当たらないけど、どうかしたのかい?」
宿屋の主人からそんな事を聞かれ、皆どう言えば良いか一瞬だけ迷い、別行動をしていると説明してその場を離れた。
「ビックリしたぁ!むらのヒト、めっちゃこっちの事見てるなぁ!」
「小さいむらだからなぁ。旅人何か珍しいらしいし、情報網も広がり早いんだろうなぁ。」
そうしてちょっとした難所を越しつつ、隊長が部屋で待機している中、私とカルミアとクレソンは外に出ていた。
ヒトは日が沈めば直ぐに眠りにつくものだが、二人は眠りにつく事はなく、私と一緒になって夜空を眺めていた。
「…スズちゃんが四つ目の儀式をやってから、空気が変わった気がする。」
「儀式を終えると準備の為に精霊は儀式の場とやらに集まるって言ってたしな。他の微少な精霊も同様なんじゃないか?」
そうかーと小さく返事をしつつ、二人はまだ黙り込んで空を眺めた。
そんな二人に私も、二人に目を配りつつ黙ったままでいた。
それから風の音や遠くで動物が動いたであろう草の音が聞こえる、静かな空間が続いた。しかし、何故私は外に出たのだろう。何故か部屋の中にいる事に体が拒絶し、足が外に出る扉に向かっていた。
そして何故かカルミアとクレソンも外に出たのだろう。二人は私が外に出ようとした時、声を掛けてきた。
「ついて行って良い?」
その言葉に私は少し悩み、そして良いと返事を返した。
何故悩んだのだろう。何もかも分からない。
そうして何も喋らないままでいると、誰かが息を吐きだす音が聞こえた。
「あーそういや、カルミアの菓子まだ残ってるか?」
どこかワザとらしく感じる口調でクレソンはカルミアに問いかけた。
「あるよ!タクサン作ったし、保存のきくの作ったから!」
そう言い、ここまで来る道中で私が食べたのと同じ物が入った袋を取り出した。カルミアはその中から一つ摘まみ出し、クレソンへと手渡した。すると、また一つ袋から摘まみ出すと今度はそれを私に差し出してきた。
「ハイっ!スズちゃんも!」
有無を言わせないと言う雰囲気を感じて、私は差し出された菓子を受け取った。
だが本来精霊であり人形でもある私は、物を食べる必要が無い。馬車で受け取った時も、食べはしたが本当に味という物が分からず、ただ思い浮かんだ言葉を言っただけ。その言葉が食べた時に本当に感じた者か私には分からない。
だから、また受け取る必要も、口にして食べる意味も無い。だが、何故だろう。部屋でジッとしていられなかった時と同じく、受け取った菓子を口にせずにはいられない。
「おいしい?」
場所の中に居た時と同じように、カルミアは私の顔を見て、そして感想を聞いてきた。分からない私はただ頷く事しかしなかったが、それでもカルミアはにとっては満足だったらしく、周囲が照らされていると錯覚するような笑みを浮かべた。
「うん、おいしい。相変わらずカルミアは菓子作りが上手いな。」
クレソンも感想を言い、カルミアはまた嬉しそうに、そして少し顔を赤らめ笑った。
それから、私を挟んで二人は話をした。今まで立ち寄ったまちの事、道中でのちょっとした出来事や
でも、ただ聞いていただけなのに不思議と私も一緒に会話をしているような錯覚を覚えた。
「…そういやさ、ケッキョク『精霊』ってナンなの?」
カルミアが何の脈絡も無く出した言葉に、クレソンだけでなく私まで息を飲んだ。
「精霊…精霊なぁ。俺は種族柄魔法は使えないから、完全に知識だけの話だが、自然が豊かである証であり、魔法を最初に授かった存在と聞いたな。」
「『授かった』って、ダレから?」
「分からん。詳しい文献がほとんど大昔の戦争で焼けて、今現在焼け残った
結局の所、ヒトの視点からは精霊は詳細が不明な事としか知られていないという事らしい。そして二人の目線は私へと向けられた。当然だろう。今の私は、今二人が知りたい情報の出所だから、精霊の話題が出た時点で、私が話に応えるのは決まった事だ。
「…精霊が魔法を最初に授かった存在なのは、本当。授けたのは…私。」
「へーそうなんだ…ってナニィ!?」
「まさかの正解が直ぐそこに!?」
私の答えに二人は驚きつつも、話の続きを聞く為に、二人は互いの手を互いの手で押さえて静かにした。
「…主精霊は、精霊の親。だから新しく生まれた精霊に魔法を授ける事は、ヒトが血を繋げるのと一緒。
でも、精霊は魔法を使わない。」
「使わない?なんで?それじゃ授かるイミなくない?」
「…あぁ、魔法の個人での行使の禁止か。」
カルミアは話を理解出来ずにいたが、クレソンには思い当たる事があるらしく、口に出してそれらしい言葉を言った。
「ナニそれ?」
「妖精種の中には、魔法を神聖なものとして扱い、無暗に行使する事を禁止している事があるらしいんだ。魔法は自然の力そのものだから、魔法を使う事は自然を奴隷化、または破壊するものだと考えて大事な祭事の時にしか使わないんだと。」
私が伝えようとした事をクレソンがそのまま伝えた。
結局の所、私も含めて精霊も魔法も元は自然から生まれるもの。だから意図して使う事は決してない。もし使うとすれば、あくまで自然から『力を借りる』ものとして使う。
「自然が豊かであれば、魔法は自由だ。どこにでも精霊はいて、純であるから、願いを聞き入れて形にする。
でもヒトや生き物が持つ自我から生まれる強い欲は、魔法にとっても、精霊にとっても不純物であり毒でしかない。だから容易く精霊は消え失せて、魔法は本来の力を発揮しない。」
言い切ってから、私は正気付き二人の方を見た。二人は腕を組み、考え込む様子で
「んーそっかぁ。だから精霊のミンナ、感情をもってあんな混乱してたのかぁ。」
「ヒトにとっても、精霊にとっても魔法って大事だけど、やっぱ比較するとヒトの方は色々不純だよなぁ。魔法があったから戦争は起きたって言うし、難しい話だな。」
納得した様に二人一緒に頷き、話を聞いていた。
「…二人は、精霊を、どう思う?」
恐る恐ると、何かに警戒する様に私は二人に質問をした。二人はまた少し考えてから、宙へと向けていた目線を私へと戻した。
「よくワかんない!でも、大事な存在って事がワかったから、これからがもう少し色んな事を考えて魔法を使う!
まぁ元からアタシ達、魔法は使わないし、クレソンは使えないんだけどね。」
「そうだな。俺は種族柄魔法は使えない、関係無い元と考えていたが、今回の事で考えを改めた。この世界って、案外色んなものと俺らって関係あるんだな。」
そうだね、と二人は同意し合い、結論として精霊は大事で当たり前のものとなった。そして、二人から精霊を拒絶するものが感じられなかった。
「ワからないものがあっても、アタシ達にはカンケー無い!」
「そう!分からないものだからこそ恐れずに立ち向かう姿勢を示す!それが俺ら、世界の自然や!」
「人々の暮らしを守る!」
「絶対守護の『愛・緑の守護隊』だ!」
二人が声を揃えていつか見たあの謎の
二人は痛みで背を丸め、呻き声を上げつつも顔は笑って見せて、私はちょっと引いた。
そんな二人に背を向けて、私は口を開いた。
「…精霊は、ヒトの目には見えない。精霊がいる事を感じ取れる妖精でも、肉眼では視認出来ない。でも、ちゃんといる。二人が精霊を大事にする事も、きっと見る事になる。
意識も、記憶も無くても、きっと分かる。はず。」
私の言った言葉に二人の表情が一瞬だけ強張り、笑いながらも目線は下がり頑張って納得しようとするのが分かった。
「…うん、そうだね。精霊ってずっといるんだよね。当たり前なんだよね。…うん。」
カルミアの声が小さく、微かに震えて聞こえた。クレソンは何も話さなくなった。
そしてそのまま部屋へと戻り眠りについた。
私は宿へと入る二人の後ろ姿を見ながら着いて行き、そして決して眠る事無く夜を過ごした。
夜が明ければ、遂に旅は終わる。そして儀式の場へと向かい、世界に平和が戻る。
だけど、何故だろう。何かが消える事を、『ソレ』は―
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