第8話 事態が転換

 研究所での一件を一応は終えて、思わぬ形でクレソンとカルミアはスズランと離れる事となった。

 そして騎士団の詰所、その一室にスズランは軟禁される事となった。

 その行為にカルミアもクレソンも納得していないが、自分らが隊長と呼んでいたヒトからの直々の命により、不満も意見も言えぬ状態だった。

 一方のスズランは、部屋に入れられてからも、そもそもここに来る前からもずっと黙って騎士団の団員に連れられるまま、何もせずに大人しくしていた。

 それはスズランと出会って一緒に行動していた二人から見ればいつも通りスズランの状態だった。表面上はそう見えた。しかし、スズランの心中には何か変化らしい物があったが、周りも、そして本人もその変化に気付けずにいた。


 そんなスズランを不本意ながら置いて行き、カルミアは一人別室で騎士団の団員と話をしていた。雑談や日常会話ではなく、お互いの仕事の話だった。


「さて…まずあなたに確認しておきたい事があります。カルミア団員。」

「…ハイ。」


 机を挟むようにして互いに座って向かい合わせとなり、団員から真剣な眼差しでカルミアは睨みつけらているかの様な表情を見せられていた。


「あなたは各地を訪れた際、自身を『騎士団』とは名乗らずにいたそうですが、本当ですか?」

「…ハイ。」


 カルミアは質問に正直に、それでも少しだけ躊躇ためらいがちに答えた。


「それは何故ですか?」


 団員は疑問を投げかけた。騎士団と言う組織は各地で広く活躍が知られる王城直属の戦闘組織だ。騎士団の名を出せばあらゆる権限により、融通が利き動きやすくなるもの。それをせず、むしろ任務に支障を来しかねない。だからこそ、騎士団側は疑問に思う直接聞いた。


「…だって。

 …騎士団って名前ってさぁ、カタっ苦しいしあんまユーコー的そうじゃないんだよねぇ!実際山小人の長さんには『堅物』って呼ばれてたし、もうちょっとオンビンかつ、ユーコー的な印象を出したいの!」

「…それで、何て名乗ったんでしたっけ?えーっと。」


 頭を痛めたかのようにして考え込む団員が見えていないかの様にカルミアは立ち上がり構えた。


「セカイの自然や人々のクらしを守る!絶対守護の『愛・緑の守護隊』だよ!」


 そう言い、何度もしてきた姿勢ポーズと、顎を強調するかの様にしゃくれた顔をして見せた。それを見た団員は更に頭の痛みが激しくなったかの様に頭を抱えうつむいた。


「あー…はいはい。相手の第一印象を考えて、あえて違う名前を名乗ったと、そういう理由と捉えて構いませんね?」


 下手な事を言い出したらめる、とでも言いそうな目をしてカルミアに言ったが、カルミアはそんな殺意に満ちた目線など全く気にせずに、顎をしゃくれさせたまま肯定の返事を返した。


「…本っ当に…あんたとクレソンって、毎度会話する度に疲労がどっと溜まるんだけど、もうちょっと真剣に話をしてほしいんだけど!?」

「あたしはシンケンだし、ワル気もない!」

「尚の事性質たちが悪い!」


 漫才でもしているかの様なカルミアと団員の会話が続いている一方、休養室では治療を終え、そのまま寝台で横になっているクレソンは未だ考え込んでいた。

 そんなクレソンの横で、治療を担当した団員である山小人が見張りをしていた。


「別に見張ってなくても逃げないのに。そもそも俺が逃げる必要性無いじゃん。」

「君は目を離すと寝台を抜け出し、何を仕出かすか分からないから見ておけ、と団長から言付けを受けていますので。」


 完全に暇を持て余す子ども同然の扱いを受けるクレソンは、ならばと山小人の団員に質問をした。しかし、その質問は正しい答えを求めてのものではなかった。


「実は船で移動中にさ、探知機が壊れたってなったんだよね。…そうそう、危険生物が接近したら反応する奴。

 本来ならさ、そんな大事な魔法具が壊れたなら船は欠航けっこうになるよね?つまり、最初は問題無かったから予定通り運航して、本当に移動途中で魔法具が異常をきたしたって事だよね。」


 以前から気になっていた事を口にして、まるで声に出しながら事を整理する様に、クレソンは話し続けた。


「そして、都合よく魔法具が動かない時に巨大生物が船を襲ってきた。本当に都合よい、いや悪かった。

 そもそも巨大生物って、魔素が濃い場所で産まれるって言うじゃん?むしろ魔素が栄養、みたいな話も聞いた気する。山奥だったりそれこそ、海の底は自然のど真ん中で魔素を出す精霊が存在出来る条件が揃った場所だ。

 思えば、雪山で巨大な熊…だか狼?みたいな生物がいるのだって、不思議じゃなかったんだ。『あれ』があるんだから、必然的に魔素だって濃い場所でもあるんだから。」


 あえてクレソンは『魔法晶』を『あれ』と表現した。話を聞いている山小人の団員を気にして咄嗟にそう口にした様だ。


「だが、船の魔法具の存在がその場所には『魔素は無い』と反応して見せた。考えると不自然且つ可笑しなことが度々起こった。

 雪山で熊犬に襲われたのは何故か?丁度自分らがいた場所が熊犬のナワバリだったから?それなら巨大蛸はどうだ?そもそも蛸は頭が良く警戒心が強い。巨大であってもそれは変わらない筈。なのにその巨大な蛸はわざわざ海の上へと出て姿を現した。

 何が目的で?その時自分らには何があった?いや、何が『一緒にいた』?初めて『精霊』に襲われた時、その時『誰と一緒にいた』?

 蛸も雪山でも、あいつらは自分らの力の源を求めて出て来た…だとしたら」


 声を出すのに夢中だったクレソンに何を言っているか分からず首を傾げているばかりだった山小人の団員がいる部屋に、扉を叩く音が響いた。


「おーいるな。居なきゃ何してんだお前ってなってたが。」


 休養室扉を開けたのクレソンとカルミアが隊長と呼び、そして他の騎士団員から団長と呼ばれるヒトだった。更にその団長の後ろから覗き観る様にしてカルミアが頭を出し、クレソン見た。


「おーカルミア!そっちは大丈夫かぁ?」

「クレソンこそー!あたしは大丈夫だよー。ちょっとムズカしい話しただけだから。」


 カルミアの言葉で団長の目線が泳いだが、直ぐに岸に引き返して話をした。


「カルミアもクレソンと一緒に休養室にいろ。俺はこれから『皆』と話をしてくるから、大人しくしていろよ。」


 子どもに言いつけるように団長は真剣な面持ちで二人に言った。だが、そんな団長の台詞に二人は文句を言った。


「あたし、別にケガしてないしツカれてませんー!」

「俺は怪我があるからなのは分かるが、何故カルミアまで休養室に入れるんですか?相方が動けなくなった場合は、他の二人組ペアと組むか、代理を連れて任務に就く筈だ。」


 クレソンが言った通り、騎士団は基本は二人一組で動く。そして片方が動けくなっても、もう片方が健在である場合の坑道は決まっていた。

 厳しくはあるが、動ける時に動き、休める時に休むと言う騎士団内の『ヒトを助ける』という規律の基づいた決まりであった。


「今回はどこも状況が特殊で動き辛い状況だ。特にお前らは『この中』でもかなり特殊だからな。今は二人で行動しておけ。

 今から始まる『話し合い』で今後の行動方針も決めるから。」


 そう言うと、団長は自身の人差指と中指を自分の首に軽く指す様にして触り続けて言った。


「今は少しの言動でどうなるか分からん。だから、下手に動くなよ?」


 それは他から見れば、下手に動けば首を飛ぶという手振りジェスチャーに見えるだろう。言う事を終えて団長は休養室を出て行ってしまった。

 見送ったカルミアもクレソンも、団長もとい隊長が出て行った扉をジッと見ていた。


「…行ったか?」

「…ウン、ダイブ離れた。今だね。」


 こうして、二人は隊長の『指示』の元『任務続行』を決した。


     2


 騎士団の詰所、その中の一室。他の部屋と広いそこは会議室として使われる部屋だ。その部屋の中央に大きな卓が置かれ、卓を囲むようにしてヒトが並び座っていた。

 そこに集められたのは、皆騎士団の中では隊長格の人物とされ、皆騎士団の証とも言える衣装を着てそれぞれが特徴的な着こなしをしていた。

 その中で服の留め具を上まで止めて着崩す事無く、着ているヒトの真面目さが垣間見える人物が、一番特徴が出ている頭部の大きな口を開いた。


「団長はまだか?あの方は立場があるのに相変わらず時間に頓着とんちゃくで仕方ない。」


 そのヒトは竜人で、口からは鋭い牙が不機嫌そうに噛んで音を立てており、気難しい表情を浮かべていた。その隣で眼鏡を掛けた長身の人間が無機質な表情で竜人の騎士に話し掛けた。


「あのヒトが時間に頓着するなんて今更ですよ。それにうちのば…頭の抜けた隊長と比べたら天と地程の差があります。」

「それ、言い直した意味あるか?それにやっぱり馬鹿にしてないか?お前んとこの隊長。」


 どうやら隊長が来る筈だった席に代理で副隊長が座っているらしい。真面目な面構えで漫才の様な会話をしつつも、話は今起きている異変に関する話へと軌道修正された。


「それよりも、今回の異変に関してに情報が入ったんだってねぇ?」


 そう言われ、皆が注目したのは黙ったまま席に座っていた一人の人物。その人物は他の隊長格とは一線を引く雰囲気を纏い、周囲を伺っていた。

 その人物は騎士団内での諜報活動を行う部隊の副隊長と呼ばれるヒトだ。その部隊の隊長も不在らしく、副隊長が代わって席についており、情報について皆に詰め寄られるが、焦る様子を全く見せなかった。


「確かに情報収集はこちらの仕事だが、今回は別件だ。今回の情報が団長の指示の元集められたと言っても良い。」


 淡々と現状を話し、他の隊長の反応を見ている。皆が皆いぶかしんだり達観したりと様々な反応を目で出していた。

 そして話題に出た団長の名により、やはり団長が来なくては話が進まないと判断された。

 しかし、騎士団で一番情報を早く入手する部隊である筈なのに、その部隊でさえ情報を入手していないらしい。その状況こそ騎士団内では異常とも言えた。

 本当に情報を持っていないのか?隠している訳ではないのか?隊長格が数名いない事もあり、他の隊長らの中で疑心が生まれていたが、そんな疑念を振り払う様にして部屋の扉が開く音が響いた。


「おーすまん、遅れたが皆揃ってるな?いや、今の状況じゃあいない奴も多いか。」


 食事の約束に遅れたの様な気安い言葉と共に、騎士団を束ねる団長は部屋の中の隊長たちに声を掛けた。とても団長格のヒトとは思えないだろう言動をするが、それが常である事は隊長達は知っている為、何人か呆れた表情をしつつも大人しく席に着いたままでいた。


「遅いぞ団長!団長がそんなでは、他の団員に示しがつかないではないか!」

「あーあー悪かったって。古参の騎士さまは手厳しいですねぇ。」


 隊長側も隊長側で、団長に対してあるまじき態度で接しているが誰も気にせず、日常風景として受け入れていた。そんな空気だったが、団長が表情を一変してから周囲の空気も入れ替わり、隊長達も変わった空気を察して表情を固めた。


「さて、お前らも今回の異変に関しては閉口しているだろう。実際、隊長格のほとんどが今は立つ事さえ出来ない状況だからな。」


 隊長格のヒトの中には妖精種がいた。故に今起きている異変と並行して蔓延している奇病にかかり倒れた隊長がいた。副隊長が代理で来ているのはそのいった理由だった。

 だが、諜報部隊の方は隊長は妖精種ではなく獣人の筈だ。だから他の隊長とは別の事情で居ない事になるが、今は割愛する。


「さて…異変解決は最も重視する情報だが、残念だが確たる解決方法は現状無いと言える。しかし、解決に繋がる情報を持つヒトが見つかったから、今から皆でその話を聞こうと思う。おい!」


 団長の台詞に若干浮足立つ者もいたが、そこは騎士である為表には出さず様子を伺った。

 そして当然の呼びかけに、団長らが入って来た扉から姿を見せたのは、カルミアとクレソンが救出したあの研究員だった。そのヒトが情報を提供したいと自身から名乗り出たとして、こうして騎士団の会議に呼ばれた形となっていた。

 団長に背を押され、隊長らの目線を独占した状態に研究員は焦りと緊張を見せたが、大きく息を吸って吐きだし、ほんの少しだけ気持ちを落ち着かせてから口を開いた。


「えっと…魔法協会東支部の研究所の者です!本日は皆様にお伝えしたい事がありまして、こうして馳せ参じさせて頂き」

「よし、前振り分かったから本題言っちゃって?」


 団長に急かされ、研究員は一瞬切羽詰ったが直ぐに持ち直し、本題である情報を提示した。


「今回の異変と同時に現れたとされる謎の生き物なのですが、それらの正体が『精霊』である事を突き止めました。しかも我々が認識している精霊とは少し異なり、外的要因から何かしらの干渉を受けて異常を起こしている。つまり何者かに操られているのだと推測していました。」


 提示された情報を聞き、隊長らは動揺を見せた。今まで存在を知りながらもその姿を直接見る事の無かったものが自分らの敵となってヒトを襲っていたなど、到底受け入れられるものではなかった。

 中には情報の真偽を疑う者もいたが、それは今では些細なものだと他の隊長から否定され、多少なり情報を受け入れる者もいたが、そういった者が次に口を開き疑問を口にした。


「しかし正体が分かっても原因が曖昧ではどうしようもない。もう情報はそれだけで終わりか?」


 言葉に出た疑問を聞き、他のヒトもその疑問に同意をした。まさかそれしか情報が無いのかと憤りを見せ始める者もいたが、団長をそれを制した。


「話はまだ終わってない。ちゃんと最後まで聞け!」


 その台詞の後、呟く様にして「子どもじゃねぇんだから」という言葉が口から漏れ出ていたが、気にする者はいなかった。そして団長にまた促され、研究員は話を続けた。


「現状、世界各地で魔法が使えなくなっています。そんな状況下で精霊を操るなんて、そもそもが無理な話です。つまり、今現在魔法を使える者こそ、今回の異変の元凶か、それに近い重要なヒトと言えます。」


 確かに、情報は少ないが精霊とは魔法の力に左右される存在だとは何人かは耳にした知識だ。それならば、魔法が使えない現状、魔法を使える者こそ異変に関係無いとは言えない、怪しい存在と言えた。


「そういうと言うことは、いたのですか?現状で魔法を使えるという者が?」

「…はい、私は見ました。魔法が使えない筈なのに、たった一人魔法を使っていた者を。」


 瞬間、部屋に中はザワついた。魔法が使えず、魔法を得意分野とする妖精種までも倒れ解決手段が見つからない現状で、魔法を使えると言うのは奇跡と言えた。それも異変に関係するとなれば直ぐにでも尋問する必要だあった。

 今の瞬間誰もが思った。一体誰が魔法を使ったのか。


「その人物は研究所に訪れた騎士の二人と同行し、二人からスズランと呼ばれていた桜色の髪をした子どもです。」


     3


 場所は変わって、ある一室に軟禁されたスズランは一人椅子に座っていた。顔をうつむかせかせ、何かを考え込んでいる様子が見られる。

 スズランがこうまで考え込むのは、初めての事だった。件の精霊が最初に襲ってきた時でさえ感情も声さえも出す事が無かった。だが、そんなスズランに変化が見られたのは、カルミアとクレソンと出会い、共に旅をしてきてからだった。

 二人の姿を見て、戦う姿を見て、共に話し、歩き、過ごしてスズランに確かな変化が訪れた。

 その事に徐々にスズランは自覚していき、そして考える様になった。スズランの中の変化に戸惑い、そしてこれからの事を考えた。

 だが、考えてもスズランにはそれ以上の事は何も思いつかなかった。その事に更にスズランは考え込んでしまった。

 そんなスズランの思考を止める為かの様に、部屋の扉が開く音がした。スズランが音の方へと振り返ると、扉を開けたであろう張本人が部屋へと入って来たところだった。


「あっいた。何してるの?こんな所で止まってる場合じゃないでしょ?」


 朱華はねず色の髪は肩まであり丸みを帯びた髪型をしていた。刈安かりやすの色をした目は丸くて大きいが、どこか目線が合っていない様な、常人とは思えない雰囲気を帯びていた。

 そんな人物の登場に、スズランはやはり感情を出さなかったが、何かを感じ取りその人物をジッと見ていた。


「…ふぅん、色々考えてたんだ。でもそんな悠長にしてられないでしょ?『向こう』も何かしているようだけど、いちいち『向こう』の都合に合わせる訳にもいかないし。

 時間が無いでしょ?」


 言われたスズランは、無言ではいたが肯定の意味で差し出された朱華はねずのヒトの手を取り、そのまま引かれて部屋を出た。


 更に騎士団詰所のとある廊下。そこをカルミアとクレソンは走っていた。もちろん二人は現状命令を無視して動いている訳なので、見つからぬ様にして、隠れながら動いている最中だった。

 本来であれば、見張りも兼ねていた治療係の山小人が止めている所だが、逆にその山小人が二人の脱走を手助けして今に至っていた。その山小人いわく―


「長からの命でね、あんたらの事は最優先で手助けしろって言われてた。…本当やったらこれも命令違反やけど、今回は『お墨付き』やさかい、こちらの命令を重視させてもらうで。

 だから、精々見つからないようにしてください。見つかったら連帯責任とらされるんで。」


 そういう訳で、二人は易々と部屋を踏め出す事が出来た。

 二人は今現在、誰にも出くわす事無く詰所内を進んでいた。向かう先はスズランのいる部屋だ。そこへ向かう様、『隊長に』言われたからだ。


「今は少しの言動でどうなるか分からん。だから、下手に動くなよ?」


 そう言いながらした隊長もとい団長の手振りジェスチャー、自身の人差指と中指を自分の首に軽く指す動きは、船へと乗り込む前に決めた、秘密の暗号『サイン』だった。意味は『任務続行』。

 だから二人は、任務を行う為にスズランを迎えに向かっていた。


「そういえばさ、すずちゃんの事先にミンナに言ったのってダレだろね?」


 何気なく言ったカルミアに台詞は、クレソンも気になっていたことだった。

 どうやら自分らが助けた研究員は、スズランが魔法を使うところを目撃した事で騎士団の方に何かを伝えていたらしい。それはカルミアが遠目だったが確認済みだった。

 スズランが部屋に軟禁される事になったのはそれが理由だろうが、それでは時間タイミングが合わない。

 騎士団が研究所に到達した時点で、既にスズランを確保する事は決まっていた様な動きだった。つまり、研究員が騎士団に伝える前に、スズランに関して誰かだ先に騎士団に伝え、そしてスズランを確保した。その後にスズランが魔法を使ったという研究員の目撃情報が伝わったとい経緯になる筈。

 一体誰がスズランに関して騎士団に通報したのか。それをカルミアは気になっていた。一方のクレソンは、それが誰か検討がついている様子を見せた。


「多分だが、いや確実にスズランを確保すると伝えた…いや、決めたのは

 隊長だ。」


「説明してくれますか?団長。」


 研究員の話を聞き、事情を知っているであろう団長に何人かの隊長が団長に向かい詰め寄っていた。

 騎士団内ではスズランという存在は認知されてはいなかった。しかし、スズランと同行していた『あの二人』は騎士団内では色んな意味で有名な二人だった。その二人と同行していたという事で隊長達の中で疑念生まれた。


「『あの二人』は団長、あなたの直属の部下だ。その二人が今回問題としている者を連れていた事についてどう説明してくれる?まさか、部下が勝手に連れていたとは言うまいな?」

「…二人が連れていたのは俺の命令だ。しかし、あくまで『案内役』として二人と同行させていたに過ぎない。そいつが重要人物をして確定したのはその後の事だ。」


 あくまで隊長としてカルミアとクレソンに指示を出し、その時点ではスズランが異変の関係者とは判断していなかったと発言する団長に未だ憤りを見せる隊長達だが、異変が起きている最中でもあり、あまり無理な追求はしない事にした様だ。

 それよりも、スズランの処遇をどうするかを決める事となった。異変解決の糸口になるかもしれないとしても、そもそもどうすれば解決出来るかを隊長らはまだ知らない状態だった。そこは一番情報を持っているであろう団長自らが説明すれば良いとして、もしもスズランという存在が騎士団に害を成すのであれば一大事だ。

 研究員もそこを懸念しているらしく、団長にスズランの今現在の状態を聞いた。


「今スズランは部屋に軟禁している。騎士を見張りにつけたから、抜け出す何てことはない筈だ。」

「…そうですか。ところで、騎士団の隊長達は今いるのが全員なのでしょうか?」

「あー…全員かまでは言えないが、少なくともここにいるのは皆強い奴らだぞ。」


 団長による隊長らの雑で大雑把な紹介に他の隊長から文句が殺到しているが、無視して団長は研究員に話し続けた。


「…不安か?まぁ実際襲われた直後だからな。大丈夫だ。念の為に護衛がつけておくし、この建物も丈夫だから、穴を開けられて侵入されるなんて事は無いだろう。」


 滅多な事を言うなと隊長の誰かの声が聞こえたが、それもまた無視して団長は廊下で見張りをしていた騎士の二人を中に招き入れた。


「今暫くはこの詰所内で過ごしてもらう。見張りや見回りの奴もいるから、何かあっても呼べばすぐに駆けつけて来るから安心してくれ。」


 誰に対しても軽い対応をし、隊長らは呆れ顔をしたが研究員はむしろどこか安心したかの様な表情を浮かべた。


「はい、何から何かでありがとうござ」


 瞬間、目も開けられぬほどの光と大きな衝撃音が部屋の中を満たした。


     4


 大きな音と揺れが起き、スズランは立ち止まり、音がしたであろう方に振り返った。揺れにより足元が覚束ず倒れそうになったが耐えて、片手を壁に付けて周囲を伺った。


「おーい!立ち止まってる場合じゃないでしょ?ヒトに見つかると厄介なんだし、早くこの建物から出ないと先に進めないよ?時間だって無いんだしさ。」


 朱華色のヒトに急かされ、スズランは前に向き直して先に進む朱華色のヒトの後に続いて廊下を進んだ。だが、何か思う事があるのかスズランは足を動かしながらも目線が下がり俯き気味になった。


「…今更余所を気に掛ける必要も無いでしょ?元々会う必要だって無かったんだし、後は当人らでどうにかしてもらうしかないっしょ。

 多分『あれ』もいるだろうし、尚更止まる訳にはいかないっしょ。」


 他人事を吐き、目的に為に意識を集中しようと声をスズランに向けた。先程の音も揺れもまるで無いものと扱い、浮世離れな言動でスズランを導き進んだ。

 言われてスズランは目線を上げて足を進めるが、やはり心中には何かしらのわだかまりが残っていた。それに気付いていないのか、それとも気付きつつも進む事を優先に気付いていないふりをしているのか、朱華色のヒトも先を急いだ。


 カルミアとクレソンも、音と衝撃の影響を受けて倒れそうになったが、受け身を取り直ぐに立ち上がった。


「うっわ!ナニ今のユれ!?」

「音は…会議室がある方向か。これは隊長が何かしたな。」

「あっこのユれ起こしたのって隊長なの?」

「そうそう。」


 いわれれのない罪を擦り付けられた隊長を思いつつも、二人はスズランが入れられたと言う部屋の前まで来ていた。しかし、部屋の前に到着して二人が見たのは、倒れる見張りの騎士達の姿だった。


「ちょっ…ダイジョーブ!?」


 駆け寄り倒れる騎士の状態を見たが、どのヒトも気絶している事が分かり安堵した。しかし直ぐに嫌な予感が過り開けられた状態となっていた扉から中を見ると、案の定部屋の中にヒトの影も形も無く、スズランはいなくなっていた。


「スズちゃん!?一体ドコに…ってツクエの上に手紙らしいの発見!」

「おーっと、手掛かり発見までの時間が短いぞ!何て書いてある?」


 慌てる様子も無く書き置かれた紙の内容を確認するクレソンは、スズランの姿を捜しつつも捜す場所が棚の中や置かれた装飾の壺の中など見当違いの場所を捜すカルミアを手で肩を押さえつつ紙の中身を見るよう催促した。


「あぁ!そうだった。えーっと?」


 何かが書かれた紙を改めて目にし、書かれている文字を読み上げた。文字は手書きにしては異常に整っており、見本の文字をそのまま写し取った様な形で書かれ、そもそも洋墨インクで書かれているのかすら判別出来ない不思議な質感だった。


 先に行く


 書かれていた文字は確かに、そしてそれしか書かれていなかった。


「クレソン。これ、スズちゃんが書いた…のかな?」

「判別は難しいが、状況からスズランが俺らに宛てたものと考えて良いと思う。何よりも、書かれている言葉。これが指す意味は、多分俺らじゃないと変わらない筈だ。」


 確かに自分らは任務として、東西南北の各地を巡り異変解決の糸口を模索していた。そしてスズランがその糸口であり、スズランを連れての任務はまだ完了していない事も、そもそもの任務内容も他の騎士団員には知られていない筈だ。

 ならば、スズランが自ら進んで残りの土地を目指し行くとなれば、その後に続くのはカルミアとクレソン以外にいない。書置きがスズランが居た部屋に残されているのが、何よりの証拠だ。


「しかし、出会った当初は意思表示の一切無かったスズランが、俺らに書置きを残すとは。」

「記憶がナイのに、あの子もココロを開いてくれるようになったんだねぇ。」


 どこか子どもの成長を喜ぶ大人の様に目じりに涙を浮かべて感情をさらけ出し、感情を噛みしめる様に頷く二人は少しして正気付き、決意を新たにして顔を上げた。


「ところで、次ってスズちゃん書いてたけど、グタイ的にどこ行ったんだろ?」


 カルミアの率直な意見に、クレソンも続けてカルミアも再び顔を下げて考え込んだ。


「やばい…スズランの指さし案内が無いと俺ら、どこ行けば良いか分かんないぞ!」

「あぁーそういえばそうだったー!どこ行けばイーのあたしたち!スズちゃん、せめてドコ行くのかも書いておいてほしかったよー!」


 今更言っても仕方ないスズランへの苦情を吐きつつも、突然の行き止まりに二人は狼狽えを見せた。だが、少ししてカルミアは何かを思い出したかの様に懐を探った。


「あっそうだった!隊長にこれワタされてたんだった!」


 そう言って懐から出したのは、指で摘まめる程の大きさの綺麗に磨かれた鉱石だった。カルミアにはそれが何か分からなかったが、クレソンは知っていたのか、一目見て驚く表情を見せてカルミアからその鉱石を受け取り凝視した。


「…よし、『反応』がある。」

「アレ?これってもしかして『アレ』だっけ?でもたしかソレって。」

「いや、大丈夫だ。ちゃんと動くのは確認済みだ。これを使えば、『あのヒト』に会える!」


 鉱石に覚えがあるクレソンは、鉱石を使い詰所を出る為に進み、カルミアは何が何んだか分からない状態だったが、クレソンならばと信頼し後に続いた。


 一方の会議室、強い光と衝撃の後は部屋の中は酷い有様となっていた。まるで爆発が起きたかの様に辺りには物が散乱し、卓も椅子も壊れ破片が散らかり、煙が充満し視界を覆った。

 そんな煙が霧のようにして辺りを覆う中、動く影があった。影に正体は研究員で、煙にむせつつ部屋を歩き回っていた。足はびっこを引き、破片に蹴躓けつまづきそうになりながら何かを探して部屋中を見渡していた。

 そんな中、何かが動く気配がし、研究員はその気配がする方へと歩いた。歩いた先には誰かがうずくまっており、その人物が先ほどまで自分と話していた相手と知り引きつった表情が変わった。


「あぁ団長さん!無事でしたか!怪我をしているんですか!?無理もないですよね!まさかこんな事になるなんて!一体何がこんな」

「あー…もう良い。」


 まくし立てる研究員の声を遮り、団長は疲れ切った様な呆れた様な声色で研究員に話し掛けた。団長のそんな様子に研究員は困った様な表情をし、首をかしげた。


「…一体何があったんですか?もう良い、とは?」


 微かに、研究員の声から困惑しているヒトの声色が薄れた。


「もう良いって言ったんだ。

 ここまで来て、そんな真似事を続けても意味無いぞ。」


 団長を声を低くし、目つきを細め研究員だったヒト、モノを睨み詰めた。


「…あははっはははは。…はぁ、そうですよね。その様子じゃあ、もうする意味無いですよね。」


 研究員だったモノは、言われて困った様な表情から一変し、痛みも苦しみも一切感じない、楽しげで明るい表情へと変え笑い声を上げた。


 『ソレ』が変わり始めた中、流れも変わり、周囲も徐々に変化していった。

 そしてヒトではない存在が、徐々に形を止めてさらけ出した―



 詰所の外


 詰所を出た二人は、クレソンの持つ鉱石を見ていた。


「クレソン。コレってナニに使うの?」

「これは共鳴石っつってな。元は一つだった魔法石を二つに割って加工したものなんだ。これを同じ石が近くにあると反応して発光するんだよ。」

「へぇ…つまり、これともう一つ石があって、二つが近付くと光るのか。…ってことは今石光ってるから、もう一つが近くにあるの?」

「あぁ。隊長の話が確かなら、もう一つは『あのヒト』が持っている筈だ。そのヒトに会えば、スズランがどこに行ったか分かるって事だ。」

「おぉー!ダレの事か知らないけど、早くそのヒトに会おうよ!ダレかまったく知らないけど!…アレ?」


 希望が湧いたと思ったカルミアは、途端に思い出して動きと止めてクレソンの方へと振り返った。


「たしか今、魔法は使えないし魔法具も動かないんじゃなかったっけ?なんで魔法石はヘーキなの?」


 疑問に思ったカルミアはクレソンに聞き、聞かれたクレソンは即座に答えた。


「それは俺が研究所で見たからさ。火が点いても燃え移らなかった部屋を見てな。つまり」


 話の途中だったが、クレソンの持つ鉱石が強く光を放ち、話を中断せざる負えなくなった。クレソンもカルミアも周囲を見渡し、同じ鉱石を持つとされるその『人物』を捜した。

 そして見つけた。


「見つけ…って、えぇぇえぇ!?」


 その『人物』、正確には『人物』とは言えない存在にカルミアは驚愕した。

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