第32話 ヴォル成長中
「わおん?」
「あ、ヴォルおかえり」
口の痺れが取れ、ちゃんと喋られるようになったのだが、ホタルはいまだにツボに入ってるらしくミュートにしたままだ。
麻痺薬の有用性については高いと判断し、持ってきたパルズ草は全部調薬して麻痺薬を作成していた。
おかげさまで調薬のレベルが一つ上がった。
「ヴォルはどこ行ってたの、って何これうさぎ?」
「わう!」
ヴォルの足元を見てみると仕留めたのか、すでに息絶えたうさぎのような動物が二匹転がっている。
ヴォルはどこか誇らしげで、どうやら自分で狩りをして来たようだ。
『一人で獲ってきたのかしら』
「そうみたい。カッコいいぞ、ヴォル!」
「わう!」
ヴォルの頭を撫でて、転がってるうさぎを鑑定してみる。
【オーラッド】
長い耳による鋭い聴覚で、天敵の音を聴きとる小型のクリーチャー。
「……まあ食べると美味いだろうな。解体するから一緒に食べような」
「わう!」
師匠からもらった玄人のナイフで解体を進める。今となってはもう慣れたものだ。
オーラッドの皮は手触りが良く、上手く加工すれば色んな物を作れそうだ。今パッと思い浮かんだのはナイフのグリップとか。
「ん、焼く前のラッド肉どうぞ」
生のラッド肉を少し切り分け、ヴォルに食べさせた。俺は焼かないと抵抗感が否めないが、ヴォルは美味しそうに口を動かしている。
「はあ、海水を持って帰れてたら……」
『塩を確保出来たのに』
出来なかった事を悔やんでもしょうがない。今はこの素材の味を楽しむとしよう。
乾いた枝を、空気が通るように積んで、種火の魔法を使用する。MPが少なくなっていたのを忘れていたので、ちょっと怖かった。
フライパンなんて物は無いので、平たい石をその上に置き、鉄板代わりにする。余分な油なんかを取ってくれるので、それはそれでありがたい。
カエルの肉が鶏肉に似てるなんて話は聞いた事あるが、うさぎ肉なんて現実でも食べた事ないのでどう言った味や食感なのかいまいちイメージが湧かないが、新しい経験だと思おう。
熱々になった石に肉をそっと乗せる。焼ける音と一緒に香ばしい匂いがセーフゾーンに広がった。
塩こしょうだったり香草だったり、調味料があればもっと美味しくなるんだけどなぁ……
「……麻痺薬を少し入れてみる、とか?」
『はい?』
「いやほら、山椒みたいな」
『馬鹿言わないで。ヴォルちゃんも食べるのよ?』
「はい、すいません」
好奇心で俺もヴォルも痺れるところだったが、ホタルの冷静すぎる一言で我に帰った。
ラッド肉の片面に焼き色が付いたので、裏返す。とても良い焼き色が付いている。
「あ、木工で作ってたお皿のお披露目しちゃいますか」
『色々作ってたわよね』
木工のレベル上げも兼ねて、隙間時間にお皿やコップ、不恰好な椅子など、それなりに作っていたのだ。
「よし、もう良いだろ」
あつあつの石から焼きラッドを取り上げ、お皿に乗せる。
「わふっ!」
「はいはい、熱いから気を付けてな〜」
ヴォルに大きい方の焼きラッドを渡し、俺は木で出来たフォークを取り出し、それを使う。
「いただきます」
焼きラッドを食べようと、フォーク突き刺したが、簡単に折れてしまった。
結局は手づかみなんだよね。
程よい弾力のある肉は、噛みごたえがあり、味は淡白な感じが少し鶏肉に似ている。獣っぽさもあり、そこで好き嫌いが別れそうな気もするかな?
「美味しい?」
「わう!」
「良かった」
『私、仲間はずれね』
「ん、いや、ほら、あーん」
『……』
はい、恥ずかしくて死にそうです。
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