第31話 すり潰せ!
「とりあえず帰って来ましたと」
海水を前にして持ち帰れずセーフゾーンに戻って来た。
パルズ草の獲得と、マヌルと言ったクリーチャーが森に生息している事を確認出来たからプラスではあるけど、どこか悔しさが残る。
『皮で水筒を作れるか試してみますか?』
「うん。試行錯誤してるうちにスキルレベルが上がって品質の良い水筒が出来るようになるかもしれないから、毎日少しずつやってこうかな」
モンスターから獲れた皮は十二分に余っているので、水筒だけじゃなく他にも色々と革製品を作ってみよう。
「一旦はパルズ草を調薬して、どうなるか試そうぜ〜」
『テキスト的に麻痺毒が出来そうね。ポピンの時と違って毒だから、気を付けて』
「おっけ」
インベントリから採ってきたパルズ草を取り出し、ポピンの葉を調薬した時と同様にすり潰していく。
その間、ヴォルは森の中へ駆け出して行ってしまった。
「ヴォル!?」
「わおん!」
呼びかけに元気よく応じたかと思えば、そのまま森の中へと姿を消してしまった。
『え、追いかけた方が良いのかしら』
「うーん、テイムはされたままだし、元々はヴォルもこの森で暮らしてたんだ、大丈夫だろ。一人で森の奥まで行くほど馬鹿でもないしね」
『確かに、飼い主よりも賢いなんて噂があるくらいだものね』
「え、その噂聞いた事ないんだけど?」
ヴォルもすぐ戻ってくると信じて、パルズ草をしっかりすり潰していく。
ポピンの時はもっとドロっとした粘り気があったが、パルズ草は水気が少なく、サラサラした見た目だ。
「食べ物に混ぜて使うとか?」
『対人特化に考えすぎじゃないかしら』
「そしたら、ちょっとモンスターから獲れた脂を混ぜてナイフに塗るとか?」
『使い捨ての投げ物としてなら使えそうね』
調薬が終了し、出来上がりを鑑定してみる。
【麻痺薬】
対象に神経からなる痺れを引き起こす。痺れの強さと時間は、対象の体積、摂取量によって変化する。
「麻痺薬なんだ。毒になるかは容量と用法って感じか」
『少し実験をしないと効果がどれほどかわからないわね』
「ちょっと舐めてみるか」
『……チャレンジャーね』
確かにちょびっと不安だが、そんな大量に摂取するわけじゃないので、迷わず人差し指に乗った分を口に入れてみる。
『どう?』
「……ん?」
ビリビリとした電気みたいな刺激があるのかと思ったが、特に何も感じないので、高校生男子の体の大きさでは、さっきの量じゃ足りなかったらしい。
「ふぁっひのひょおじゃぁ、ちゃらななぁ」
『な、なんて言ったの?』
「ふぁはらぁ、ふぁっひのひょおじゃぁちゃらななぁ」
『やめて、それ、面白いから……』
ぜんっぜん思ったように口が動いてくれない。今意識したからわかったが、これはどっちかと言うと麻酔に近いような気がする。
「ふぁふいだぁ!」
『お願い、喋らないで……』
ホタルはツボに入ったのか、笑うのを堪えているのが、音声として聞こえてくる。
「ふぁっへぇ!? ふぉれひゃんおなおうおねぇ!?」
「もうやめてぇ……」
ヴォルが戻ってくるまでの数分、俺の口は痺れたままだったし、ホタルはずっと笑ってた。
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