第18話 妖精さんがいっぱいだぁ




「ドーン、今日はおぬしをこの森の住人に紹介する」


「森の住人?」


 R2Oにログインし、師匠のもとに向かうとどうやら今日は修行じゃないらしい。

 森の住人というと、小屋から見た素早く動くあの大きな物影の主だろうか。そう考えると、ちょっと気が引けてきたな。


「準備ができたら言ってくれ、少し遠出だからな」


「はい!」


 師匠はそういうと広場にある小屋に入って行った。準備と言っても特に何もする事は無いので、装備の確認を簡単に済ませる。


 そうして小屋に向かおうとした時、ちょうどホタルが視聴者として加わった。


『あ、あー、聞こえてますか?』


「あれ、声が聞こえる。コメントじゃないんだね」


『ええ、設定で限定配信にしたでしょう? そこから視聴者のコメントを文字から音声に設定し直したのだけれど、これなら外部の通話ツールを使わなくても大丈夫そうね』


 なんか色々と考えて工夫してくれたらしい。俺はというと、ただR2Oをしているだけなのに。せめて編集を勉強して手伝えるようにしたいな。


『今はどういう状況なのかしら?』


「なんか今日は森の住人に俺を紹介してくれるらしいよ。ちょっと怖い」


『ドーンくんなら大丈夫よ。頑張って』


 画面越しだからか、普段より会話の距離が近く感じる。リアルの方でもこれくらい仲良くなれれば良いな。


「師匠、準備できました」


「しゃ行くか。ついて来い」


 師匠はそう言って森の中に入っていく。修行の中で、森の中での歩き方を自分なりに見つける事ができたため、置いてかれる事なくついていけてる。


 しばらく進むと、霧が濃くなって来た。二、三歩先の木々も視認が難しくなって来た頃。師匠は立ち止まり、近くの大木に手を当てる。


「オレの弟子を連れて来た。道を開けてくれ」


 師匠の一言で、突風が巻き起こり、それにによって一気に霧が晴れた。風が弱まり、視線を前に向けると、そこには神秘的な光景が広がっていた。


『綺麗……』


 ホタルもそう呟いてしまうほどの絶景。師匠の住む広場よりも更に広い草原は、実のなっている木が生え、真ん中に水の澄んだ泉があり、不規則に並んだ岩場の上にはキラキラと光る何かが飛んでいる。


『あれは、妖精さんでしょうか』


 ホタルの言う通り、キラキラした何かをよく見ると、背中に透明な羽の生えた身長20センチ程の妖精のようだ。


「師匠、彼女らは?」


「フェアリーだ。この森の住人であり、マナの管理者。オレはフェアリーのために森を管理している」


「マナ……」


 いまさら師匠にマナについて説明させるのは気が引けるので、それとなくホタルに聞いてみる。


『R2Oにおけるマナはスキルを使用するための力よ。ほら、MPってマナポイントって意味でしょ?』


 ホタルの説明に、小さく頷く。彼女の声は師匠には聞こえてないから、独り言だと思われて変な空気にしたくない。


「それで、これからどうするんですか?」


「そこに座れ。ブーツを脱いで足を湖に入れてじっとしとけ」


 師匠に言われた通り、隠者のブーツを脱いで泉に足を入れる。ひんやりと冷たい水が心地良い。


「この泉はマナが豊富でな、体力の回復も出来る」


「確かに、すごい気持ちええです」


「オレも初めて来た時同じ事を言ったわ」


『私も入ってみたいのだけど……』


 羨ましそうなホタルの一言に頬が緩む。湖でリラックスしていると、肩にフェアリーが座ってきた。


 重さはまったく感じず、一瞬で消えてしまいそうな儚い存在感が、確かに肩の上に乗っている。


「やはり、おぬしは見込みがあるな」


「え?」


『鑑定してみましょう』


 相変わらず鑑定の習慣が身につかないが、ホタルに言われてスキルを発動する。

 師匠との修行で、すでにレベルは3に上がっていた。


【フェアリークイーン】

 マナを管理するフェアリーの女王。好奇心旺盛な女王は配下を困らせてばかりいる。


「フェアリーの女王が、おぬしに加護を与えるようだな」


 フェアリークイーンは音も無く飛び立つと頬にキスをしてくれた。小さな感覚がしたかと思えば、目の前に文字が表示される。


妖精の女王フェアリークイーンの加護を獲得しました】


「これでおぬしもフェアリーに認められた。この先フェアリーから色々と頼まれるだろうが、しっかり役に立てよ」


「はい、頑張ります」


 フェアリークイーンはパタパタと俺の周りを忙しなく飛んでいる。


「呼びやすい名前をつけてやれ。そっちの方がお互いやりやすいだろ」


「なるほど、何が良いかな」


『スイとかどうですか?』


「翡翠色だから?」


『はい。安直ですかね?』


「いや、めちゃくちゃ良い名前だと思う」


 フェアリークイーン、もといスイに手を差し出し、その上に座ってもらう。


「これからはスイって呼ぶね」


「フィ!」


 スイは元気に返事をすると、羽を羽ばたかせ、他のフェアリーと共に泉を飛びまわっていく。


『この森は謎が多いですね』


 ホタルの言う通りこの森はまだまだわからない事だらけだ。先日、ここがどこなのか師匠に問いかけた事があるけど、「それはおぬしが見極めろ」とはぐらかされたし。


「明日は罠を見に行くぞ。増えすぎた魔獣を駆除し、森の生態系を保つんだ」


「わかりました!」













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る