第15話 しっかりと冷静になって
「おはよう」
「……ええ、おはよう」
色々とあった翌日。
夜に R2Oにログインしていつも通り師匠と修行をしてたんだけど、ホタルが来てくれなかった。
そのせいで、これまでの出来事は夢だったんじゃないかと悶々としていたが、挨拶を返してくれたので良かった。
「昨日は忙しかったの?」
「動画を作っていたのよ。アーカイブから動画にしたいところを抜き取ったり、色々と」
「すげぇな、お疲れさま」
「早速出来たから放課後確認してもらいましょう」
「……え、早くね?」
…………
………
……
「ハルちゃん、今日の朝蛍井さんと話してたよな?」
「え、うん」
「いつ仲良くなったの〜?」
そういえば俺がゲーム同好会に入った事、この二人には言ってなかったな。ヤッさんは陸上部で、マドちゃんは確か生徒会だったか。
「マドちゃん生徒会に入ったんだよね」
「うん、そうなの〜」
「おい露骨に話題を逸らすな! マドちゃんも流されるなよ」
その後俺がゲーム同好会に入り、そこに蛍井がいたと言うのを簡単に説明した事で納得してくれた。
ヤッさんの話では同好会の存在は先生に聞かないと教えてもらえないらしく、そこまでして同好会に入ろうとする生徒も少ないんだとか。
確かにゲーム同好会はアレとして、わざわざ聞きにいくのも面倒いし、自費で活動するってのも普通に嫌だよな。
「まあお互い頑張ろうぜ」
「ああ」
「ふぁいと〜」
マドちゃんはふわふわしてるな〜。
…………
………
……
「動画を作ってきたので確認お願いします」
「さすがホタルちゃん、仕事が早いな!」
「急かしたつもりはないんだがな……」
放課後、バーチャル部室に行くと、ホタルとキラ先輩、クマちゃん先生が俺を待っていた。どうやら完成した動画のお披露目会をするつもりらしい。
俺はそそくさとホタルの隣に座り、動画のサムネが映っている画面を覗き込む。サムネイルは小屋の屋根を見ている視点のようだった。
「では再生しますね」
ホタルが再生ボタンを押し、動画が流れ始める。最初はスタートした直後に死に、アイテムや装備を全部ロストした状態から。
三つの称号を手に入れ、SPを一気に30ポイントゲット。その後、外を確認してその不気味さにビビり、小屋の中に戻って探索。隠者装備をゲットし、スキルの確認。
グダグダとした部分はカットされており、見やすさ優先でテンポが良い。このテンポなら実際にプレイしていた俺でも飽きが来ない。
俺の独り言もテロップでウケを狙うような編集がされており、モンタージュでは必要ない技術を勉強してくれたのが伝わってくる。
その後ホタルが視聴者として加わり、やりとりの場面。最後にグリーンリザードを倒して終了。
動画時間25分と決して短くは無いが、テンポが良く、とても面白く見れた。
「どうでしょう……」
「めっちゃ面白い! これを一晩で作ってくれたんだろ? ありがとう」
「ふふ、いいのよ」
盛り上がっている俺をよそに、キラ先輩とクマちゃん先生の表情はパッとしない。
「どこかダメだったでしょうか?」
「いや、動画としてはとても面白かった。ただ……」
「ちょちょちょ、なななんだこれは!?」
「落ち着けキラ、気持ちはわかる。だがここはしっかりと冷静になってだな……!」
大慌ての二人が落ち着くまでに数分はかかった。
…………
………
……
「落ち着きました?」
「ああ、すまないな……!」
キラ先輩はゼエゼエと呼吸を荒くし、クマちゃん先生は動画を見直している。動画の面白さが大丈夫なら何をそんなに慌てていたのだろうか。
「なにかありました?」
「なにかありました? じゃないぞ!?」
「あ、ごめんなさい」
こっわぁ……。
「まず最初、スタート直後に普通は死なない!」
「やっぱそうっすよね」
「そして次、この三つの称号はR2O全体にアナウンスされてた!」
「アナウンス?」
「ワールドアナウンスって言って R2Oのプレイヤー全員に情報が共有されたのよ」
俺が聞くと、ホタルはしっかり説明してくれる。顔が良くて優しいとはこれいかに。
「へー」
「へーじゃない! あと単純にここどこ!?」
「それは俺たちが聞きたいっすよ。な?」
「ええ」
「なんでこの二人こんな軽いの!?」
キラ先輩は頭を抱えて大きくのけぞる。小さい体全体を使って感情を表現しているので、見ていて面白い。
「ドーン、隠者装備に【隠密】のプラス値がついてるな?」
「はい、そうですね」
「まだR2Oにはスキルのプラス値がついた装備や武器は見つかってないんだ」
クマちゃん先生の真剣な声音でようやく悟った。特異点とはどう意味なのかを。
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