第14話 まずは下準備から
「ただいま〜」
「お兄ちゃんおかえり〜。部活何にした?」
「ゲーム同好会」
「おお〜」
「夜ご飯の準備するから風呂入ってきな」
「はーい」
夏樹はいい返事をして風呂場に向かっていく。今日は学校帰りのスーパーにて、じゃがいもが安かったので白滝と冷蔵庫に入ってるにんじん、玉ねぎで肉じゃがを作ろう。
二人で暮らし始めてもうすぐ一ヶ月。兄貴が大学の寮にいく前はもう少し騒がしかったんだけどなぁ。
冷蔵庫からにんじんを取り出し、今日の部活、じゃなくて同好会の事を思い出す。
……
………
…………
「特異点ってどう言う事っすか?」
「ゲーム映像だけで視聴者を取れるって事だ。面白いトークだったり、魅せプレイとか難しい事は考えず、普通にプレイすれば良い」
「なるほど」
「確かに、私がドーンさんの配信を見た理由も他と違うからってだけでしたからね」
「だけって言うのを強調しないでよ。寂しいなぁ」
「だがすぐ配信するのではなく、まずは下準備から始めよう!」
「下準備ですか?」
下準備って言うと、野菜の皮を剥いたり冷凍した食材を戻したり……ってそれは料理やないかーい。
一人でノリツッコミをしつつ、キラ先輩の説明を聞く。
「配信するためのチャンネルを作ったり、多少なりのキャラ付けや抽象的な設定、とかだな。私の時はそこまで時間掛からなかったがな!」
「あとは配信の前に動画を投稿したりだな。動画でチャンネルの雰囲気だったりを視聴者に届ける事で、配信での流れが決まったりする」
さすがクマちゃん先生。頷きながら説明しているのは熊谷先生の癖なのだが、アバターがクマさんなだけでこうも可愛いのか。
「動画か……編集とかした事ないっすよ」
「なるべく動画制作や配信は二人で完結してほしいが、最初のうちはこちらも手伝うつもりだ」
クマちゃん先生は優しくそう言ってくれる。俺はまず編集を一から勉強しないと出来ないレベルだし、頼っても良いような気がするけど……。
「なら私がやります」
「え、ホタルさん編集できるの?」
「ええ、FPSをやってた時はモンタージュも作ってたから。少し勉強すれば作れるはず」
モンタージュって言うと、プレイの良いところを編集で繋げたプレイ集だったっけ。確かに編集経験があるならありがたい。
「凄いな、《ホタル》」
「……ありがとう、ドーン《くん》」
「イチャイチャは外でやってくれ!」
「「してないっす(です)」」
またしてもハモった。
「じゃあ時間も時間だし、また明日の放課後ここに集合しよう」
…………
………
……
これからすべき下準備はチャンネル作りとキャラの設定。熊谷先生曰く、そんなにガッチリ決めなくてもいいって言ってたけど、このままで大丈夫なのかな。
「––ちゃん?」
語尾をござるとかにしたらキャラ付け出来るかな。いや、後で絶対後悔するな、普段通りに行こう。
「お兄ちゃん!」
「おお、どうした?」
「お茶碗持ったままフリーズしてるのは怖いよ」
「ああ、ごめんごめん」
ホクホクのじゃがいもを掴み、口に入れる。ちゃんと味が染み込んでいて、ご飯がよくすすむ。我ながら上出来だ。
家事をこなせるのは兄貴の教え方が上手だったからだけど、元気にしてるかな。
「お兄ちゃん、僕もR2O始めようと思ってるんだけどアドバイスある?」
「いや特に無いな。お前ならすぐトップ組だろ。……てかVR機もってないよな?」
「新型じゃないけど、佐藤おじさんから中古を貰えるんだ〜。フレンドなろうね!」
この世渡り上手め!
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