第10話 同じクラスです
「あれ、二人とも知り合いなのか?」
「あ、同じクラスです」
「えっと、深呼吸の人……」
あ、え、もしかして俺深呼吸の人で覚えられてる? 確かに自己紹介の時言ったけど。
「柊木春馬です。蛍井さんだよね?」
「はい、蛍井秋葉です。よろしくお願いします」
丁寧な所作だなぁ。見るだけで育ちの良さが伺えるよ。
「自己紹介も済んだしほら、春馬くんも座りたまえ!」
「はい」
あかね先輩に促され、蛍井さんの隣に座る。二人掛けのソファに並んで座ったような形だ。
部室は教室の半分程の広さで、部屋の中にはゲーミングチェアが四台とVR機の最新機種がこれまた四台。
ソファと机が置かれ、机の上にはクッキーの入ったお皿が乗っている。
「顧問が来る前に、何か質問があったりするかい?」
「えっと、このVR機はどうやって?」
俺も気になっていた事を蛍井さんが聞いてくれた。Sunnyという会社が中心となって開発し、VR機が普及したとは言ってもそれなりのお値段がするもののはず……。
それこそフルカスタムの物は軽く10万を超えてくる。感覚はひと昔前のPCに近い。
「ああ、自費で買ったものだな。他には?」
「「はい?」」
今この人自費って言ったか?
約40万を自費で買ったのか?
いや、それにプラスしてゲーミングチェアも自費だろうから……。
「どうやって?」
「簡単に説明すると、同好会はバイトオッケーなんだ」
「あ、そういう事か……」
蛍井さんは何か分かったのか、納得したような表情を浮かべているが、俺には何が何だかまったくわからん。
バイトだけでこんなに買えるものなのか?
「この学校、バイト禁止という書き方じゃなくて部活動参加者はバイト禁止って書き方なんだ」
「あー、そうなんすか?」
「ああ。やむを得ない事情で部活に入れない人を配慮してだな。そして同好会は部活じゃない」
「……屁理屈では?」
「それに関しては去年生徒会長と校長を二人まとめて論破した。同好会は部活ではないと言質もとったさ」
あ、この人実はすごい人なのかも。
「部活は学校から支給される部費と部活動で手に入ったお金で活動するのはわかるな?」
部活動で手に入ったお金というのは、OBからの寄付などが具体的な例だ。
「同好会には部費が存在しない。つまり活動内で手に入ったお金、後は有志による寄付金が活動費になる」
「……つまり?」
「私はゲームでお金を稼いでいる」
そう言ってあかね先輩は立ち上がる。身長は俺の胸あたりのはずなのに、その堂々とした立ち振る舞いは大きく見えた。
「秋葉ちゃんにはもうバレてしまっているが春馬くん、君にも伝えておこう! 私はキラという名前で配信をしているのだよ!」
両手を広げてLEDの光を全身に浴びながら、あかね先輩は大きな声でそう告げた。
「……キラ?」
「え、知っているだろう?」
「いやっ、えっと……」
「名前も聞いた事ない?」
「すいません」
あかね先輩はゲーミングチェアに座り、俯いてしまう。
「まあ、そうか。確かにチャンネルの登録者が増えたのも最近だしな。知っていなくても不思議ではないな」
ああ、すごい小さくなっちゃった。多分恥ずかしさで顔真っ赤だぞあれ。
「わ、私は知ってましたよ、キラちゃん!」
あかね先輩の耳がぴくりと動く。もう一押しな気がする。
「もともとFPSゲームをしてたので、大好きで見てました!」
「そうであろう!」
あ簡単に完全復活した。
「春馬くんもこれからキラを知って言ってくれたまえ!」
「あ、はい」
蛍井さんの顔を見ると、あかね先輩を見て複雑な表情をしていた。キラに会えた喜びとキラの正体があかね先輩だった事への何とも言えない感情ってところかな。
「すまない遅れた。この二人が入部してくれる二人……って、お前たちか」
部室の扉を開けたのはこれまたうちのクラスの担任だった。
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