観測外領域(9):ロールプレイ・Ⅲ


     ◆


 ぼやけた印象の景色の中で、私はそこが夢であることを自覚する。

 そこは結晶樹の森に開けられた林道だった。各里を繋げるために、土を踏み固めただけの道。どこかの誰かの先祖かもわからない、墓標代わりの結晶樹を無闇に引き抜くわけにもいかず、その隙間を縫うように曲がりくねったその道は、しかし私を負ぶさっている男を惑わすには十分だった。

 ツンとした、薬品のような匂いが鼻について、私は夢の中で目を覚ます。これは私の記憶の中で、それを覗き見る今の私の視点は、人間たちが神と呼び称えているものと同じものなのかと疑問に思う。

 あの時の私は生まれたばかりの姿で、自分が裸を晒していることに気付いてはいなかった。男が羽織っていたローブを、背中から掛けてくれていたおかげだろう。傍から見れば、私は彼のローブと背中から頭を飛び出している間抜けなものだが、それを咎めるウォルフも、晶狼もいなかった。シャツ越しで感じる体温と肌が、滲むように溶け合っている感覚は、今でも思い出す。そのせいできっと、彼の体温を感じると羞恥心に苛まれることが今でもあった。

 あ、気付いたかい。男は、自分の肩に乗った私の頭に話しかける。それに私は、誰、と問いかける。


「ローラン。ローラン・エル・ネクロマンテ」


 それだけ言うと、ローランと名乗った男は遠くの結晶樹の光を見て、しばらく黙り込んでしまう。覚醒したてで茫然としていた私は、ただ土を踏みしめる音に耳を傾けながら、彼の次の言葉を待っていた。

 しばらくするとローランは、えっと……とかうーん……とか散々口ごもった後、最低な言葉を叩きつけてきた。

 君のお父さんを殺した、仲間だよ。

 そうか。あの時から、ローランは嘘つきだった。

 私のために、優しい嘘を吐くことを、覚えてしまったんだ。


     ◆


 背中から感じる湿った土の感触で、私の意識は目覚めた。目を開けるとすぐに結晶樹の柔らかい光が目一杯広がり、そのまぶしさで再び目を閉じそうになる。結晶樹の森の、夜の景色だった。

 上体だけを起こして体をペタペタと触る。手には布の感触があるし、懐に入った藍の円環の固い感触もよくわかる。アリアから受けた福音のダメージもさほど残っておらず、寝起きだが思考もはっきりしている。

 結晶樹の森にいるせいで、まだ私は夢の中にいるのかと思った。でも、今の私は裸でもないし、しっかり自分の体を自分の意思で触っている……少なくとも現実にいることは確かだった。

 本当に?

 真っ白な結晶の奥で影を落としたように、そんな疑念が唐突に浮かび上がる。

 アリアは言っていた。観測されたこの世界のどんな挙動も、全ては舞台の上に組み込まれた脚本に過ぎない。その事実に怒ることも悲しむことも、抵抗しようとする意思ですら、あらかじめ予見されたことの再生に過ぎない。人間は自分に課せられた運命……その役割から逃れることはできない。だからこそ、人間一人一人に生まれた意味があるのだと。

 夢の中で、過去の自分を俯瞰していたように、ここが誰かが俯瞰する夢の中でないと証明することはできるんだろうか。

 ローランの背中でまどろんでいた私と、今の私。夢なのは、いったいどっちなんだろう。あるいはこの思考も、誰かの観測で――、

 馬鹿馬鹿しい考えを振り切るように頭を振って……、そういえばローランはどこにいるんだろうとようやく思い至った。

 ローランは、私が寝そべっていた場所から少し離れた場所で、目を見開いて空を仰いでいた。空、といっても、クリスタロボの空は結晶樹に覆われ、夜間の今は結晶樹が根元の草木に与える青白の光しかない。しかしそこは、偶然にも木々たちが生えていない空間のようで、夜闇が森の大地に暗いシミを作っていた。

 まるで彼を強調するように、そこは結晶樹のない開けた場所だった。

 ふと、頭の片隅に何かが引っかかる。くしゃみを出かけたようなもどかしい感覚がある。立ち上がった私は、それをなんとか晴らそうとローランの周りを見渡しても、モヤモヤした感情が増幅するばかりで何もわからなかった。

 何もわからない。でも、ここはどこか見覚えがある。こんな所、来たこともないはずなのに。


「……あ、気付いたかい」


 海に沈んだような低い声音で、ローランは私に言った。その顔には、いつものように眉をハの字に曲げた愛想笑いがあった。


「ここは、どこですか? クリスタロボなのは、間違いないはずですけど……」

「えっと、うーん……。なんて、言ったらいいかな……?」


 私の質問に、躊躇うように逡巡したローランは、頬を掻きながら視線を逸らした。それだけで、私に言いづらい何かがあることを、なんとか察する。彼が気まずそうにするのは、いつだって自分に非がある嘘を吐く証拠だから。

 そんな態度がどうしても気に入らない私は、鈍感な死霊術士にわかるようにあからさまな溜息を吐いて、鼻で笑った。


「何を気にしているかは知りませんけど、もう大抵のことなら驚きませんし、怒りませんよ」

「アル……なら、もう一度だけ俺の言うことを信じてくれるかい?」

「信じますよ。ええ、信じてあげますとも。ここまで来たら、もう何でも来いですよ」


 半ばやけくそ気味にきっぱりと言うと、小さくローランは苦笑した。消沈していた雰囲気がいくらか回復したようで、どこか誇らしげな気分になった。だいたい、これまで転移の魔術というとんでもない理論を聞かされた後で、そこまで念を押す必要があるというのか。

 そういえば、ローランはあの状況からどうやってここまで来たんだろう。

 俺を殺せ、今すぐに。いつもみたいにだ。

 彼はそう言った。その通りに殺された後、彼はどうやってクリスタロボへと転移したんだろう。


「ここはどこか? って聞いたね」ローランは周りの光を見渡して、言った。

「ここはクリスタロボ大森林の中だよ。……二十年以上、前のね。転移魔術の応用で、ここに来てしまったんだ」


 さっきまでの疑問の全てが吹き飛び、頭が真っ白になった。

 ここはどこか、どうやってここに来たのか。彼の答えは、私の質問と疑惑にちゃんと対応しているはずなのに、言葉が耳から耳へと吹き抜けていくようだった。

 クリスタロボ。これはわかる。結晶樹があるのだから、一番に考えられる場所だ。

 二十年前。わからない。たしかに前、そんなことができるかもしれないと口走っていたかもしれないが、本当にできるなんて考えられない。

 なんとか思考をまとめた結果、私は辛うじて、


「何言ってるんですか」


 とだけ、ローランに言うことができた。きっと彼は嘘を吐いているわけじゃない、頭がおかしくなってしまっただけなんだ。


「信じてくれるって、言ったよね?」

「それは、あなたがまともなことを言うという前提を元にした約束です」

「俺は至極まともだよ、アル。まぁ、いきなりそんなこと言われても信じられないのはわかるけど、事実なんだ。ここは過去のクリスタロボなんだよ」


 ローランは確かに素面の顔で、真っ直ぐと私を見つめてくる。それを受け止められず、今度は私が彼から視線を逸らした。


「何か、証拠はあるんですか?」

「見覚えないかい? ここに」


 質問に質問で返され、再三私は森を見渡す。木々の並びを見比べてみても、ほんのわずかに既視感があるばかりでどうにもピンとこない。同じような樹木の集まりの森林の中で、見覚えなんて曖昧なものが錯覚以上のものになるとは到底思えないというのも事実ではないか。


「恐らくだけど、ロードレクは先祖の宿る結晶樹を無闇に変質させることを嫌ったんじゃないかな。……だから、比較的結晶樹の群生していない穴場にロードレク城を築いた」


 言われてみればここは、哨戒巡礼の見た結晶樹のような……気がする。気がするだけで、確証なんて持てるわけがない。


「そんな事言われても、ロードレク城の周りに生えた結晶樹の形なんて覚えてませんよ」

「本当に疑っているなら、前にやったみたいにウォルフの魔力器官で現在地を探ってみればいいんじゃないかな」


 なるほど。私は頷いて、耳元に手をあてがってウォルフの耳をイメージする。程なくして氷結音が耳を覆って、ウォルフの魔力器官を生成された。本当に疑ってたんだね、と落胆した声が聞こえた気がしたが、無視することにした。

 耳から頭へ、風のように情報が駆け込んでくる。私は目を閉じて流れ込む情報を紐解くのに集中する。ウォルフの耳から入ってくる情報は、思っていたよりも感覚的で、なんとなくで理解するところが多い。それでも地面に根を張った結晶樹から放たれる信号を受信して、逆に信号を送信する感覚だけ覚えれば、現在地を把握することは簡単だった。

 それによれば、私の記憶にあったロードレク城の場所と今いること場所は、同じだということがすぐにわかった。


「嘘……」もう一度、辺りを見渡す。そこには結晶樹の絡みついてできた城壁もなければ監視塔もない。当然門を抜けた先の屋敷も、そこに張り付く巨大な神木もない。あの構造物が、たった一ヶ月もしないうちに跡形もなくなるなんて考えられない。それならばまだ、ローランの語る狂った事実を受け入れるほうがまだ現実的だった。一度そう思うと、すんなり納得できる部分もある。たしかに超長距離間を一瞬で飛んでしまうあの魔術に、時間が関わっていないなんてあり得ないし、観測者の視点が過去に向いていないと考えるのも狭量だったとすら思えてくる。

 ローランの考えた転移魔術は、時間すら超越する。

 それでもアリアの言うとおりなら、これもまた観測者の視点からすれば一方向的な時間軸に過ぎない。私たちが神と呼んでいたものは、なんて遠い世界にいるんだろう。その全てを理解すると、脱力してその場にへたり込んでしまった。


「納得してくれたかい?」

「……認めたくはありませんが、なんとか」

「悪いけど、ここからはもっと受け入れがたいかもしれない」

「これ以上、何があるっていうんですか?」


 パキパキと音を立てて、結晶が肩へと落ちていくのを感じながら、おとなしくローランの話を聞き入れようとした。


「観測者の視点を知覚することで、俺たちはあらゆる時間・場所に転移することはできる。それは裏を返せば、俺たちが空間を跳躍するのに使っている『観測者の視点』というものは、あらゆる場所や時間を並列的に観測しているということに他ならないんだ。

 今まで舞台を例にしてきたけど、観測者からすると劇の終わりから始まりまでがずっと横並びの絵画のように見えているって考えでいいかな。……ここまでは?」


 確認を取るように、ローランは尋ねてくる。久しぶりの感覚だった。

 目を閉じて、さっき言ったことをイメージしてみる。私の目の前に、1つの劇の場面たちを写した絵画が一面に並んでいる。そしてそれらは私の目に映ることによって初めて劇の本筋として認められるようになる。それは数にして膨大で、途方もないような量だが、それら全てを認識しなければ、少なくともこの頭の中の劇は完成しないし、ローランの考えに基づけば、それ以外の世界はないものと扱われてしまう。

 目を開いてコクリと頷くと、ローランは続きを話し出した。


「俺は最初、過去へと跳躍して何か行動を起こせば、俺が現在と認識している時間軸で影響があるのかもしれないと考えた。本来、この時代に俺は存在しないはずなんだから、ここで何か残せば……ロードレクが起こした戦争も、それによって起こる犠牲も、回避できるんじゃないかと思っていた」

「それは……」

「でも、できなかった。観測者からしたら、その時その場所に出くわした全てが物語の登場人物で、俺が起こす行動も脚本通りのことだったんだ。むしろ、俺が過去で起こした行動が、未来である現在を正しく進める一助になっていることだって気付いた」

「つまり……、過去へ飛んでも、未来を変えることはできない?」


 神妙な表情で、ローランは頷いた。


「まず不思議なことに、俺がローラン・エル・ネクロマンテだと認識されていないんだ。過去の人間やそれを観測している人間たちからしたら、勇者と同行して魔王を討伐しようとしていたあの時の俺だけを『ローラン』だって認識しているみたいで……いくら干渉しても、俺が意識を離した途端に消えていくし、人間たちの記憶からも消えていくようになっている。俺が世界に与えた影響が、他と観測者の認識で上書きされていって……最悪、俺自身も過去にやったことを覚えてられない。こんな体験、初めてだよ」


 ローランの持っていた、コーラルの原書を思い出す。本来、イル・サイラムの本部に保管されているはずのそれを、ローランは持ち出したのにも関わらず、原書はまだ保管されているという話は恐らく、さっきの話の応用なんだろう。実際に目で見ていなくても、懐に忍ばせてその重さや感触を認識しているだけで、ひとまずはその存在を維持できる。だけど、人間一人の認識には限界がある。それを魔王を生かすために応用することはできなかったんだろう。

 天を仰ぎ見た彼の横顔には、珍しく悔しさが浮かんでいた。

 少し悩んでから、私はおもむろに腕を振って傍にあった結晶樹の幹に傷を入れてみる。空気を圧縮させて刃のように振った一撃で、幹に横一直線が深く入ったのを確認した後、ローランに意識を向ける。これで彼が嘘つきなら、私はウォルフからひどく恨まれるだろうと懸念しながら尋ねた。


「過去の経験を、現在に持っていくことは難しいということですか?」

「うん。本来、世界は認識の一瞬一瞬で変わり続けていくもので、その合間に異物が入ったとしても、観測者の視点がその一瞬を差し替えることで修正してしまうんだと思う。……アリアは言うこと、少しはわかったかもしれない」


 そう言いつつも、口の端を曲げてローランは土の上に腰を下ろした。

 彼女は、人間のステータス……体の状態や経歴などを透視することができると、フレイは言っていた。なら人が辿る未来もわかっていたんだろう。それを改変しようとしても、気付いたときには改変しようとしていた内容すら覚えていないのかしれない。

 ここで、ハッとなって木の幹を見やる。そこには、傷一つなく発光する結晶樹があった。

 今の私の行動は、これを見ている人間は認識していなかったというか。だから、なかったことにされた。しばらくすればきっと、私は結晶樹の幹に傷を付けたという記憶すらも消えてしまうんだろう。

 言いようのない無力感が、ふいに訪れた。


「それなら、私たちが今ここにいるのも何か意味があるというんですか? というより、どうしてあなたはここに来たんですか?」

「ここに来たのは、本当に偶然なんだ。いや……」途端にローランは口元を押さえて訂正し出す。

「そうか、ならこれも必然、なのか……?」

「説明するならはっきりしてください」

「あぁ、ごめん。……俺たちがここにいるのは多分、藍の円環に引っ張られたからだと思う」

「円環に?」


 聞きながら、自然と左手が胸のポケットに伸びる。

 藍の円環。私と父……過去の私を繋ぐ、パズルの一ピース。


「君のその円環は、ロードレクのがこれまで経験した全ての記録が詰まっている。……その能力や記憶も。それを俺の魔力光が透析して、一部を取り込んだおかげで、なんとか聖騎士団の包囲を突破することができたんだ」


 赤く染まった視界の中で聞いた、あの不可解な音を思い出す。あれは魔力光の透析した音だったんだろうか。透かしているはずなのに音が鳴るというのはおかしなようで、それでいてこの円環の特異性を知らしめているようだった。

 と、ここまで理解して、首が傾く。彼が円環に記録されている魔王の能力を取り込んだということは、彼もある程度ならイメージで魔術を行使することができるんだろう。でもそれと、自分たちがここにいる現状が結びつかない。


「結局、どうして私たちはここにいるんですか?」

「それは……」溜息がちに、ローランは一度言い淀んでから、答えた。

「ここが多分、『魔王ロードレク』の一番最初の記憶だからじゃないかな」

「記憶……」


 そう呟いて、私は顎を引いて考え込む。

 ロードレク、魔王。ローランの口ぶりだと、ロードレクは生まれつき魔王の権能を発揮できたわけではなく、突然その力に目覚めたんだろうか。

 今の私はどうしてこんなことも覚えていないんだろうか。どうしようもない焦燥感が苛立ちに変わったのを感じると、それを吐き出すように息を大きく吐いた。


「わからないことはひとまず置いておきましょう」それはどちらかというと自分に言い聞かせた言葉だった。

「それより、教団の隠蔽によって王の葉が暴走しているなら、それを曝くべきでだと私は思います。ここに来たのが偶然なら、早く現代に戻らないと」

「うん、そうだね。……それは、君に任せてもいいかい? 俺は、もう無理そうだ」

「無理? 何を弱音を吐いているんですか。あなたは王の葉のアジトを探す役目が――」

「それはもう終わらせてあるよ。アジトの痕跡からウィプスを走らせて、水路全体をマッピング・出力した地図をもうカリグラに渡してある。それがプルトに渡れば、聖誕祭と並行してアジトの制圧を行えるかもしれない」


 いつの間にそんなことを……、と考えたが、今や過去に飛ぶことのできるローランにとって情報収集と時間制限は無関係なのかもしれない。あるいは観測する事象が、ローランに事件の解決を早めていたのかもしれない。

 どうあがいても、私たちは舞台の上で役割を演じ続けるしかない。そう考えると、お腹の底に、良くないものが溜まっていくようだった。

 ローランは、遠くの結晶樹の光を眺めて……何か決心がついたように、私に告げた。


「俺は、ここに残る。いや、残らなきゃいけないんだ」


 迷いのない声音だった。また私の中で、彼の行方がわからなくなっていった。

 また。またまた、彼は何を言っているんだ。


「さっきから、何を言っているんですか!? アリアの話を聞いて怖じ気づきましたか!? だからってこんな所で引き籠もったってなんにも――」

「違うんだ! いいか、アル。落ち着いて聞いて欲しい。ここは過去の……魔王が生まれる前の世界なんだ」

「それがなんだっていうんですか!」

「前までの世界は! 俺と同じ存在がいたおかげで、未来から来た俺は観測から弾き出されていたでも今は違う! 魔王の生まれる前の世界で、俺たちがここに来てしまった。魔王ロードレクの情報を取り込み、継承した俺たちが。

 それがどういうことか、わからないかい?」

「なにを――!」


 感情的に言い返そうとして、天啓のように、脳裏に一つの考えが過ぎった。

 この世界を遠くから見つめる者の認識によって、世界は作られる。それは個人の行動一つ一つを役割として強制させるほどで、無意識のうちに人はそれを全うする……運命と、端的に言い換えるものが、そこにはある。そしてロードレクは……後に、『魔王』という運命を背負う者は、この世界のイレギュラーとして突如現れた。

 なら、『魔王』はいったいどこから、現れたんだろう。

 それは、ともすればローランを笑えないほどに、荒唐無稽な考えだ。笑い飛ばされても文句は言えない。それでもどこか確信がある。

 そうか、私は、もしくは彼は……最初からこのために、藍の円環によって、この地に呼ばれたんだと。


「今の俺たちは、『魔王ロードレク』として認識されているんだ。だから俺たちのどちらかが残らないといけない。残って、ロードレクと同じように戦わなければいけない」


 そして――、その後紡がれる続きに、私は思わずフードを被り、耳を塞いでうずくまった。

 ローランの声は聞こえない。聞きたくなかった、これを考え、認識している人間がいるなら、今すぐにこの物語を閉じて欲しかった。そうするまで、何もかもを遮断しようとした。

 それでも、内心では、ローランの次の言葉が反響しているようだった。


 そしてどちらかが……『魔王』として、『勇者』に殺されなきゃいけないんだ。

 私たちは、そんな馬鹿げた物語の登場人物なんだから。

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