数多の蹄が大地を蹴る音で、ジェイコブは飛び起きた。音のする方を見ると、草原の彼方から大勢の騎手がこちらに向かってやってくるのが見える。遠すぎて、どの陣営の者かは判らない。死に物狂いで走り、近くの森に身を潜めた。

 大木のうろで身体を丸め、騎手たちが通り過ぎるのを息を殺して待つ。風の噂でカーザ国が戦に敗けたと知った。聞けば、何処からか現れた若き放浪者に誑かされた家臣によってフィリポ王が暗殺され、戦どころでは無くなったらしい。敗戦により、カーザ国の兵士が纏う黄衣は、畏怖の対象から一転して狩り出されるべき者の目印となったのだ。ジェイコブは既に黄衣を捨て、素性を隠していたが、行進する兵や騎手を見かけるたび、生きた心地がしなかった。カーザ人だと知られれば、何をされるかわかったものではない。

 

 どうしてこうなってしまったのかと、歯軋りする。王が死に、もう裏切り者のパトリックを追う理由は無くなった。目的を失い、自分が何処にいるのかも分からないまま、ジェイコブは怯え、惑うことしかできないでいた。

 自らを奮い立たせようと、ジェイコブは歯を食いしばり、祖国の景色を思い浮かべようとする——石造りの高壁。炎の絶やされぬ見張り台。贔屓にしている酒場の——なんだったか。

 

 そこから先の景色は、まるで霧の中にあるかのように朧げで、陽炎のように曖昧だ。日増しに、故郷の景色が薄れていく。暗闇に裸で放り出されたような心細さに、ジェイコブは歯を食いしばったまま泣いた。

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