いま、宇宙の土地争奪戦がアツい!

ちびまるフォイ

勝手に人の宇宙に入んな!!

「こちらが、ご希望の不動産情報です」


「うーーん……いまいち、ですね……」


「でもその条件じゃこんなもんですよ」


「はあ……」


引っ越しをうっすら考え始めて不動産屋へ来たが、

現実は厳しくなかなかいい物件がない。


ファイルの最後のページを見ると、間取りのない不動産情報があった。


「あの、これは?」


「ああ宇宙ですよ。宇宙の土地を売っているんです」


「はあ!?」


「社長が面白がって販売をはじめたのはいいんですが、

 いまだに買い手がつかないので値下がりするばかりです」


「でしょうね。なんで宇宙の土地を買いたがるんですか」


せっかく何駅も経てこの不動産屋へきたので手ぶらでは帰りたくない。

そんな思いから、自分の指はこの宇宙3番地の土地を指さしていた。


「この宇宙土地って……買えます?」


「えっ買うんですか? なんの意味が?」


「売る側のあなたが言うんですか。

 まあ、動画制作のネタにでもしますよ」


「変な人だなぁ……」


不動産屋も書いてのつかないゴミ処分とばかりに、

さらに値切って宇宙の土地を売ってくれた。


こうして宇宙住所3番地を手に入れた。

使い道はまだない。


「宇宙に自分の土地を手に入れたけど……。

 なにに使えるんだろ。家なんかも建てられないし」


そんな調子ですっかり宇宙の土地をきまぐれに買ったことも忘れていた。

しばらくして1本の国際電話がかかってくる。


「もしもし、〇〇さんのお電話ですか?」


「ああ。はい。どなたですか?」


「こちらは宇宙開発センターです」


「はい!?」


「実はあなたに宇宙土地を売っていただきたい」


「へ!?」


そこでやっと自分が宇宙で土地を買ったことを思い出した。


「我々はこれから人工衛星や探査機を打ち上げるのですが、

 宇宙3番地は非常に適した場所なんです。

 

 しかし、聞けばすでに所要権のある土地と聞いたので

 こうしてお電話さしあげたしだいです」


「!?!?!?」


未だに状況が読み込めない。


「どうでしょう。我々に宇宙3番地を売っていただけませんか?」


「え……、その……」


面食らった状態が無効には「売り渋ってる」と捉えられたらしい。


「100億円でいかがでしょう!?」


「100億!?」


「足りませんか? 無理もない。

 しかし、我々としてもあの最高の立地を手に入れれば

 今後の宇宙進出で非常に価値のあるものになるのです

 

 1兆お支払いしましょう!」


「1兆!?」


もはや個人が持っていい金額ではない。


「少ないですか。わかりました……。1那由多なゆたで手を売ってくれませんか!?」


「あばばばばば……」


もはや単位なのか人名なのかすらわからない。


「わかりました! 売ります!」


「ありがとうございます!!!」


電話口の向こうで大量の歓声があがったのがわかった。

自分はこの電話で世界の長者番付の殿堂入りすることとなった。


電話が終わってもしばらくは放心状態だった。


「す、すごいな……宇宙の土地にこんな価値があるなんて……」


賢者モードで悟ったとき、ここで二の足を踏んではいけないと気づいた。


「これからもっと宇宙の土地は需要が増すはずだ!

 どんどん買い込んでおこう!!」


その行動の早さは転売ヤーにも引けを取らないほどで、

潤沢な資金でもって宇宙のあらゆる場所を買い取り自分の宇宙土地とした。


ほぼ無限とも入れる宇宙ではあるが、

とくに地球周辺の宇宙空間は需要がめっちゃある。


ナイトプールに浸かり、トロピカルなジュースを飲みながら空を見上げた。


「ほら見てご覧よ。あの星が輝いている宇宙……あの土地は俺のものなんだよ」


「「 キャーすごーい! 」」


「ふっふっふ。あの人工衛星がある宇宙も俺の場所さ。

 あっちの宇宙も、こっちの宇宙も俺の場所なんだよ」


「「 キャーすてきーー! 」」


「はっはっは。欲しい宇宙の土地があったら言ってみなさい。

 なんでも俺が買い取ってあげちゃうよ。ぬはははは」


「「 キャーうれしーー 」」


「さあ、望遠鏡を持ってきておいで。

 好きな宇宙空間を選ぶといい」


「ええ~~どうしようかな~~♪ ん? あれは?」


「なんだい子猫ちゃん」


「〇〇さんの宇宙になにかいるけど……」


「なんだって? 俺の宇宙土地に?」


天体望遠鏡をのぞくと、漆黒の宇宙空間になにやら円盤状の船が見えた。

あきらかに人工物ではない形状にピンときた。


「宇宙人!?」


なんと宇宙人が自分の買い取った"宇宙区惑星3丁目12-09"に

我が物顔で踏み込んだ挙げく、近くの小惑星で採掘などしているではないか。


「あンの野郎……人の土地でなにやってるんだ……!!」


「なに? どういうこと?」


「自分ン家の庭で他人がうんちしているような状態だ」


「ええ!?」


「おのれ宇宙人め……誰の土地かも確かめず勝手なことを!!」


こうなっては我慢ならない。

ありあまる資金力を総動員し宇宙人をやっつけることにした。


「急いで衛星兵器を作るんだ!! 俺の土地を守るんだ!!」


金さえあれば何でもできるんだなと実感できるほど、

宇宙人を駆逐する衛星兵器の開発は急ピッチで進んだ。


そして、夏休みの自由研究よりも早くに衛星兵器は完成した。


「ついに完成しました!! これがコントローラーです」


「おお、待っていたぞ。それでどう使うんだ?」


「L2ボタンを押し込むと照準が決まるんで、

 狙いがさだまったらR1ボタンを押してください」


「OKだ。ようし、見てろよくそ宇宙人め。

 無断で人の宇宙土地に入ったことをあの世で後悔させてやる!!」


衛星兵器を起動する。


衛星のビーム発射カバーが外れ、発射口の先が宇宙人のいる土地へ向けられる。


「くらえ!! ゴミムシ!! 衛星ビーム発射ァーー!!」


R1ボタンを押そうとしたとき。


なにやら外から光があふれてきた。


「な、なんだ? これも衛星兵器の影響か?」


「いえ、そんなことはないんですが……」


外に出たときだった。


最後に見たのは、バカでかい衛星が地球の空に浮かんでいた。

その発射口からあらゆる生物を焼き払う衛星ビームが放たれた瞬間だった。


自分の体は影だけ残し、一瞬で蒸発してしまった。







その様子を、地球に向けて衛星ビームを打った宇宙人は満足げに眺めていた。


「やっとワレワレの所有する土地へ勝手に入ったゴキブリを駆除しタゾ」



そうして、宇宙人たちは地球に所有権のモノリスをぶっ刺した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いま、宇宙の土地争奪戦がアツい! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ