第33話 束の間の休息


 ついに俺は組織を立ち上げた。


 名前は──闇夜の探究者グルームシーカー。ちょっと厨二病ぽいけど、やはりハッタリは重要だ。何事も形からは入ることも重要だからな。


 構成員は俺、アイシア、ルイス、サリナ、フレッドの五人。現状はまだ五人だが、今後は数も増やしていくことは視野に入れている。


 裏で暗躍するのは俺、アイシア、フレッドの三人。表舞台ではルイスとサリナの二人に動いてもらおうと思っている。まさか、主人公陣営を加えての活動になるとは、流石の俺も予想はしていなかった。


 しかし、俺の未来のことを考えるとその方が都合がいい。いずれはルイスと相対する未来が来るかもしれないが、その時までに彼女の動きは把握しておいた方がいいだろう。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはようございます。ウィル様」


 いつもの朝とは異なる光景。


 それは執事服に身を包んだ男性──フレッドがいるからだ。彼は没落貴族であり、もうあの屋敷も売りに出すつもりだったらしい。そして、願わくば俺の元で働きたいと。


 アイシアの非常に厳しい面接も乗り越え、フレッドは無事に採用になった。


「本日はフレッドに調理を担当させました」

「ウィル様のお口に合えばいいのですが」

「早速、いただくとしよう」


 朝食はシンプルにスクランブルエッグ、チーズ、パンとスープの組み合わせだ。素材はいいものを使っているので、まずいなんてことはあり得ないと思うが。


「……! 美味いな」

「それは良かったです」


 にこりと微笑むフレッド。先ほどまで少し緊張している様子だったが、今はホッとした顔をしている。


 それにしても、美味いな。アイシアに匹敵するレベル。いや、もはや遜色はないレベルだな。素材の味を活かしつつも、最低限の調味料で味を整えている。俺が少し甘めの卵が好きなことも考慮してある。


「普通に有能で助かりました」

「ははは。私としては、ウィル様にお仕えするのですから、これは最低限だと思っていますが。それに、まだ私の信用は勝ち取れていません」

「よく分かっているな」

「はい。重々承知しております」


 俺は実際、まだ手放しでフレッドのことを信用していない。どこかしらの組織から派遣された構成員の可能性だってある。だが、仮にそうだとしたらこいつは消すだけだ。俺としては、どちらに転んでもさほど支障はない。


 と思いたいところだが、俺はフレッドのことを内心では信用していた。


「本日もウィル様は美しいです」

「えぇ。さらに磨きがかかってきている模様ですな」

「ほぅ。フレッド、あなたも理解わかっているようですね」

「もちろん。ウィル様の存在はもはや奇跡。神を崇拝するのは当然です」


 うん。だって、その。フレッドとアイシアは非常によく似ているのだ。尊敬の念を超えた、崇拝心。俺を神と何かと勘違いしているのではないか? と思うほどだ。いや実際に神って言ってるな……。


 なんで俺の周りにはこう言う系が集まってくるんだ……? 実害があるわけではないので別にいいが、それでもどこかむず痒さは覚える。


「では、行ってくる。フレッド。例の件、任せたぞ」

「仰せのままに。お任せください」


 フレッドは丁寧に一礼をして、俺のことを見送ってくれる。アイシアも隣で深く頭を下げている。そして俺は、学院へと向かうのだった。



「ふぅ……」


 いつものように昼休みに屋上にやってくる。やはり、ここはいいものだ。心の安寧の場所であり、思考を整理するのに適している。ゲームでよく屋上に登場人物がいる気持ちがよく理解できる。


 ここまで色々とあったなぁ、と俺は振り返る。


 原作とは異なる展開の数々。まさかのルイスは女性であり、その後は組織を立ち上げることになった。


 俺の未来はどうなるのか。それはまだ不確定だ。俺の知っているイベントがやってくるかもしれないし、やってこないかもしれない。


 現在はドラッグを追っているが、これもどうなるか不明だ。しかし、俺は自分が生き残るために全力を尽くす。そのことだけは変わりはなかった。


「やっぱり、ここにいたわね」


 やって来たのはサリナだった。このタイミングで来るのはいつもはルイスが多いのだが、今回はどうやら違うらしい。


「サリナか。どうした」

「学院では相変わらず、やる気がなさそうよね」

「こっちが本来の姿だからな。裏の顔は生き残るために仕方なくだ」

「そ。ちょっと話があるんだけど、いいかしら」

「あぁ。っと、その前に組織について共有していいか?」

「えぇ。構わないわよ」


 俺は魔法結界を展開してから、サリナに闇夜の探究者グルームシーカーについて伝える。無事に組織が立ち上がったこと、構成員はサリナを含めて五人。現在は、ドラッグの件を追いかけていることなど。


「立ち上げおめでとう」

「無事に立ち上がって良かった。ホッとしている」

「あなたほどの実力があっても、不安に感じるの?」

「そりゃな。どれだけ実力があっても、何が起こるか分からないからな」

「まぁ、そうね。それで本題なんだけれど」

「あぁ。どうした?」


 この時の俺は気が抜けていた。サリナが言っているのは、特に大したことではないだろう。なんの根拠もないが、そう思い込んでいたのだ。


「私の婚約者として、パーティーに出席してくれない?」

「──ん?」


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