第32話 闇夜の探求者


「私はフレッド=ブルームと申します。一応、伯爵家ですが、ご存じはないでしょう?」

「申し訳ないが、聞いたことはないな」


 フレッドとやらは俺に対してそう言ってきた。今のところ、敵対するような意志は感じられないが、それでも警戒は解けない。


 ただ問題なのは……ここにルイスがいること。このままだとルイスにも、俺の正体がバレてしまう可能性がある。ここは慎重に立ち回っていこう。


「剣聖と賢者。その二つを若くして両立する傑物。歴史上、あなたほどの存在はいないでしょう」

「……」


 うん。なんで?


 マジでどうして俺の人生はいつもこうなのだろうか。こいつにすでに俺の正体はバレており、隣でルイスは信じられないという表情をしていた。


「う、ウィルくんが剣聖と賢者……?」


 それは俺に話しかけたわけではなく、独り言だったが……まぁ、普通はその反応になるよな。俺はその件について掘り下げることはなく、すぐに本題に入った。こいつの目的は、何となく見えてきた。


「単刀直入に聞こう。王国の裏にあるドラッグの件、お前は真犯人じゃないな?」

「えぇ。流石はウィル様です。よくお分かりです」

「……」


 いや、何でも呼び方がウィル様なんだよ。それにこの視線はどこかアイシアのものに似通っていた。


「私は昔から目立つことが嫌いでして。加えて、他者を観察する能力に長けていました。とある貴族のパーティーで、あなたを見たときは震えました。幼いながらにも、魔力制御が完璧なのです! 周りに人間に悟られない程度にとどめているその姿は、もはや神の領域。その時から、私はあなたを追いかけてきました」

「……」


 え? 幼少期の時から俺のことを知っていたのか?


 流石にそこまでのことは俺の予想はしていなかった。このフレッドという男、中々侮れない。てか普通にストーカーじゃないのか……?


「剣聖と賢者になった際、私にはすぐ分かりました。あなたこそが、この世界の真の支配者になるのだと」

「つまり、何が言いたい?」

「私はあなたの配下になる時を、ずっと待っていたのです」

「……そういうことか」


 表向きは納得しているが、いやマジで怖いよ……! 何で俺の周りはこうなっていくんだ……。


 ただ、アイシアと似ているのがよく分かった。こいつの視線は尊敬を超えた、崇拝すら感じるものだったのだ。そして、ルイスをこの場に連れてきたのも何となく察していた。


「話を整理しよう。お前は俺に接触したかった。そうだな?」

「はい。その通りでございます。試すような真似をしてしまい、申し訳ございません」

「ルイスを連れてきたのは、彼女も仲間にしたいと思っていたからだな」

「はい。ウィル様が組織を立ち上げようとしていたのは、すでに把握しています。その際、彼女を仲間に入れるべきだと勝手ながらに判断しました。未来の勇者候補、その能力はぜひ採用すべきでしょう」

「……なるほどな」



 正直、ルイスのことは元々誘うつもりであった。仲も悪くないのもあるが、彼女には表舞台で活躍してもらう気だったからだ。表のルイスと裏の俺。その二つを軸にして活動を進めていけばいいと、何となく思っていたが。


 まさか、そこまで読んでいたと言うことか?


 この男はやはり只者ではない。貴族界で名前を聞いたことはないが、それもわざと台頭しないようにしているかもしれない。ただのストーカーではないということか。


「ウィル様」

「どうした、アイシア」

「彼は中々に分かっています。そして、今ここで組織を立ち上げるべきかと」

「……そうだな。せっかくここまでお膳立てしてもらったしな」


 今までの流れは全て、フレッドが計画したものだと分かった。ここで組織を立ち上げ、ドラッグの件にさらに迫っていく。まさか彼のような駒が手に入ると思っていなかったが、それも受け入れることにしよう。


 もっとも、まだ彼のことを俺はよく知らない。手放しで信用することはないが、まずは様子を窺ってみることにする。


「では、ウィル様。どうかこちらに」

「あぁ」


 フレッドの座っていた椅子に俺は着席して、全員と向かい合う。


「う、ウィルくん……その……」

「このような形になってすまないが、ルイス。俺はこれから組織を立ち上げる」

「組織……?」

「あぁ。裏社会で暗躍するものだ。そしてお前には、ぜひ表舞台で活躍してもらいたいと思っている」

「それは、どうしてですか?」

「俺が生き残るためだ」


 俺はそして、フレッドとルイスの二人に神託の件を伝えた。俺には破滅の未来が待っており、そのために裏で行動をしていることを。すると、ルイスは覚悟を持った目で俺に向かい合ってくる。


「そうだったんですか……なるほど。学院で見ていたのは、ウィルくんの片鱗だったんですね」

「あぁ。それでどうする? 断ってもいいが」

「いいえ。私もついて行きます! だって、ウィルくんはもうお友達です。友達を助けるのは当然のことじゃないですか」

「そうか。感謝する」


 まさかの形にはなったが、無事にウィルも引き込むことができた。表ではルイスとサリナに動いてもらい、裏では俺を筆頭にしてアイシアとフレッドに動いてもらう。


 うん。中々に悪くはない組織ができたんじゃないか? まぁその経緯は流石に俺も予想はしていなかったが……。


「ウィル様。組織名はいかがいたしましょう」


 フレッドがそう尋ねてくるので、俺は元々考えていた組織名を提示する。


「俺たちは──闇夜の探究者グルームシーカーだ」

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