第31話 対面


 情報を得た俺とアイシアは、早速地下へ潜ることにした。といっても、地下への正規入口などあるわけもない。


「さて、どうやって地下へ潜りましょうか」

「こっちだ」

「ご存じなのですか?」

「まぁな」


 こればかりは原作の知識が大いに役立った。この天空のアステリアというゲームでは、終盤に王国地下迷宮のクエストが発生する。俺は何度もそれをやりこんでいるので、地下への入り口は把握していた。


 俺は迷いなく歩みを進めていく。


 入って行くのはとある一室。何の変哲もなく、そこは空き家になっている。不法侵入になってしまうが、今回ばかりは仕方がない。


 俺は魔法でその部屋の鍵を施錠。室内へと入っていき、本棚へと進んでいく。


 そして、とある場所の本を抜いてみると……ゴゴゴと音を立てて、その棚が回転。さらに下層への階段が出現した。やはり、ここは原作と同じでほっとしたな。


「なんと。こんなものが」

「あぁ。行こうか」

「それにしても、たまに思うのですが」

「何をだ?」

「ウィル様は未来を見通す力があるのですよね?」

「そうだな……」


 ということにしてある。でもいつかは、アイシアには本当のことを説明してもいいかもしれないな。


「いえ。やはり、あなたは神に愛されたお方だなと」

「言い過ぎだ」

「そんな事はありません」

「むしろ、俺はアイシアの方がすごいと思うが」

「私がですか……?」


 俺たちは長い階段を降りながら、話を続ける。


「あぁ。幼少期、俺の無茶振りを引き受けてくれたからな」

「……正直なところ、子どもの戯言だと思っていました。しかし、ウィル様は幼いながらにも本気でした。そして私も本気で向き合うことにし、あなたの実力は飛躍的に伸びていきました。私がしたのは、正しい道へ導いただけ。大層なことは何もございません」


 声色と態度からして、アイシアは本当に大したことはないと思っているようだった。だが、決してそんなことはない。


「それが大層なことなんだよ。俺は思っている。アイシアのおかげで、着実な道を歩み、しっかりとした実力を身につけることができたと」

「……ウィル様! このアイシア、今ほどメイド業を選んで嬉しいことはございません!」


 気がつけばアイシアは涙を流していた。こんな時に感謝を伝えるのは場違いかもしれないが、いつかは言った方がいいとは思っていた。


 実際、原作の知識があるとはいえ、俺は自分の主観をそこまで信じていない。まぁ……これまで色々とあったしな……。


 それにやはり、他者の客観的な目があってこそ実力は伸びていく。それにアイシアは過去に高ランク冒険者だったらしい。そのこともあって、幼少期に彼女に頼んだのだ。


「思ったんだが、アイシアは過去に高ランクの冒険者だったんだよな」

「はい」

「高ランクってどれくらいなんだ? Aランクとかか?」

「いえ、Sランクです」

「──は?」


 流石に俺もこれには驚く。よく一緒にダンジョンに潜っていたが、そんな片鱗は一ミリも見せてはいない。彼女はあまり自分のことを多く語らないし、俺も聞いてこなかったが、まさかのSランク……?


 AランクとSランク冒険者では、天と地ほどの差がある。天才の中でも、さらなる上澄みが努力に努力を重ねた末に辿り着く領域だ。


「マジで?」

「はい。あまり自分から言うのは、メイドとして慎ましくはありません。聞かれるまでは黙っていました」

「そ、そうか……」

「メイドたるもの、主人に寄り添うことが全てですから」

「それがなぜメイドに……?」

「……まぁ、それはその。私も色々とあるんです……」


 急に視線を逸らすアイシア。今までは素直に全て話していたのに、急に気まずそうするが……まぁ、ここで追及することでもないか。


 そして俺たちは地下への扉を開き、そこへ入っていく。


「下水道……ですか?」

「だな」


 広がっているのは下水道だった。そこには割と大きめの道が広がっており、微かに灯りもある。ここには水の流れる音だけがあった。原作ではここは魔物が溢れているのだが、今はそのイベントではないので、閑散としている。


 魔法で管理されているので、下水特有の臭いなどの対策もしてあり、特に異臭などは漂っていない。


「あれ? ウィルくん?」


 そこでバッタリと出会ったのは、主人公のルイスだった。どうして、彼女がここに? 彼女は制服姿で学院での姿と変わりはなかった。


「ルイス。何でこんなところにいる」

「えっと……その。色々とありまして──」


 そして俺はルイスに話を聞くことに。彼女は路地裏にいるホームレスが酔っ払いに絡まれているのを見て、助けに入ったらしい。そしてその後、そのホームレスを襲った輩を追いかけてここまで来たとか。


 正義感の強いルイスらしいな。


 だが、なるほどな。俺は今回のイベントの概要が見えてきた。これは、偶然ではなく作為的なものである。そして相手もそれを承知している。


「……誘っているのか」


 ここまであからさまだと、逆にそれが罠ではないかと思えてくる。しかし、どうしてルイスまで介入させる? やはり、勇者の器である彼女は特別だからか?


 相手の意図は見えたが、それも全てではない。


「あ! あそこに人影が!」


 ルイスはそう言って慌てて走り始めた。俺とアイシアもそれに続いていくと、地面に魔法陣が出現。それは転移の魔法陣であり、俺たち三人はとある空間へと転移した。


「ここは……」

「書斎……ですかね?」

「ふむ」


 やってきたのは、どうやら書斎のようだ。周りの本棚には魔法書がこれでもかと敷き詰められている。そして、この薄暗い部屋には一人。男性が座っていた。


「ようこそ。私の世界へ」


 そう言って俺たちに言葉をかけてきたのは、少し年老いている男性だった。黒と白の混ざったグレーの髪は、キッチリとオールバックに纏められていた。


 そして俺たちはついに、このイベントの黒幕と相対するのだった。

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