第3話 入学式


 入学式が始まった。


 人数はざっと二百人程度。魔法使いの数はそれほど少なくはなく、世界的に見れば魔法を使える人間は一定数いる。もちろん、剣士などに比べると少ないが。


 その中でもここにいるのは選ばれた魔法使いのみ。もちろん、貴族出身の人間が多いが、それは貴族が魔法に長けている傾向にあるからだ。


 その中で主人公ルイスはこの学院始まって以来の平民出身の魔法使い。


 平民出身の魔法使いはいるにはいるが、この学院に合格するほどの実力者は今までいなかった。


 それほどまでに、このアステリア魔法学院は世界でもトップクラスの難関魔法学院とされているのだ。


「──であるからして。君たちには優秀な魔法使いになって欲しい。さて、当代の賢者は皆ご存知かな?」

「……」


 俺はそれとなく顔を逸らしてしまった。うん。まぁ、この話題になってもおかしくないよね。


「二年前の聖抜せいばつの儀において、彼は単独でドラゴンを討伐するなどの偉業を達成している」


 周りの生徒がキラキラと目を輝かせてその話に耳を傾けている。


 剣聖と賢者になるには聖抜せいばつの儀という試験のようなものがある。今回はちょうど二年前のにそれが行われた。


 俺は本来、剣聖と賢者になる予定だった二人を押し退け、その地位にたどり着いた。あ、もちろん両方ともに経歴や名称は偽っている。


 聖抜せいばつの儀で問われるのは実力のみだからな。そこは俺としても非常に都合のいい話だった。



「ドラゴン……!」

「流石は賢者様だな」

「なんでも、歴代最強なんでしょう?」

「俺たちもそれを目指さないとな!」



 いや、まぁ。あのドラゴンを討伐するのは骨が折れたが、俺もまさか単独で撃破できるとは思っていなかった。


 というか、このウィルというキャラクターは一見すれば普通に優秀程度の魔法使いだ。しかし、ウィルにはある一点だけ他の魔法使いでさえも匹敵しない能力がある。


 それを理解したからこそ、俺は剣聖と賢者になれたと言っても過言ではない。

 

 総合値的には主人公には劣るが、ものは使い用って感じだな。


「君たちには賢者のように素晴らしい魔法使いになることを期待している。では、私の話はここまでにしておこうか」


 校長の話はそこで終わることになった。校長という言えば長話の印象があるが、今回はあっさりと終わった。


 俺としてもあまり聞く気はなかったので、助かった。


 そして入学式が無事に終了し、俺たちは各教室へと足を運んだ。俺はAクラスであり、主人公と同じだ。


「あ……その。よろしくね?」

「あぁ」


 なんの因果か、俺は主人公ルイスの隣だった。入学式の前に悪態をついたというのに、彼は俺に優しく微笑みかけた。


 全く、どこまでいいやつなんだか。それにどことなくフローラルな香りもしてくる。イケメンってやつは、匂いまでも良いってか?

 

 そんなことを思っていると、担任教師が入ってきた。


「よし。全員いるな」


 俺たちの担任は女性教師だった。この学院は教師もまた一流である。彼女もまた優秀な魔法使いの一人なのだろう。


「まずはこの学院のシステムを説明しよう。一年時は共通過程で進行していく。二年次からは専門分野に分かれ、三年時にはゼミに所属して卒業論文を書くことになる。ま、魔法大学の簡易版だと思ってくれていい。が、ここは世界最高峰のアステリは魔法学院だ。卒業はかなり難しいものになるのは、覚悟しておけ」

「……」


 なるほどな。


 この辺りは原作プレイ時にも説明があった。実際に直接ストーリーに絡んではこないが、留年している話は噂程度でも耳に入ってくるほどだ。


 問題は、卒業時に俺は主人公と相対することになる。


 一ヶ月後にある実践魔法の授業で俺はルイスと決闘をして敗北。そこから強い憎しみを覚え、闇堕ちをして卒業間際に再びルイスと戦うことになる。


 ウィルというキャラクターは二年の歳月をかけて復讐を計画し、王国を大混乱に陥れるほどの混沌を生み出す。


 それに対処するのが、主人公、剣聖、賢者ってわけだ。

 

 ま、今回はそれも起きる予定はないので、俺は平穏無事に学園生活を送りつもりだ。人生は平穏が一番だからな。やはり、静かに生きるに限る。


 それからオリエンテーションなどを終えて、俺たちは帰路へつく。


「あははは!」

「だよねー!」

「……あっ」


 帰り際。主人公のルイスが教室を後にしようとすると、他の生徒に思い切り肩をぶつけられて転んでしまうそうになる。


 俺が咄嗟に体を掴んだおかげで転倒はしなかった。


 今のは流石にわざとだな。やはりルイスに対する当たりは厳しいようだ。


「あ。あの、ありがとうございます」

「ふん。ま、気をつけろ」

「はい!」


 なぜか満面の笑みを浮かべていた。眩しい、あまりにも眩しすぎる。


 俺は表面上は悪態をついて、その場から去っていく。そして校門の前では、一人の女子生徒が誰かを待っているようだったが、俺は気にせず歩みを進める。


「待ちなさい」


 もちろん、俺の話しかけたとは思わず、そのまま進んでいくと肩を思い切り掴まれる。


「あなたのことよ!」

「……はぁ。で、俺に用か?」

「えぇ。あなたルイスさんに酷い態度を取っているでしょう?」


 まさかここで俺に絡んでくるとは。


 銀髪の髪は腰まであり、まるで絹のような滑らかさを持っている。鼻は高く、目も非常に大きい。まつ毛は綺麗に上に跳ね、ずっと見ていれば吸い込まれてしまいそうなほど大きな瞳。


 これほどの美貌を持っている生徒は──そう。ヒロインの一人である、サリナ=ウェルズリーだ。


 俺はなぜかここで、ヒロインの一人と出会うことになるのだった。

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