第2話 主人公との出会い


 ついにやってきました入学式。


 俺の人生は、ここで主人公と出会うことで終わりを迎えることになる。


 しかし、今の俺は剣聖と賢者の力を手に入れている。


 どんな苦難が襲い掛かってこようが、俺に立ち向かえるものなどあるはずがない。


 ガハハ! と、どこか慢心しながら俺は入学式へと向かう。


「おいあれって……」

「全属性の使い手らしいぞ?」

「でも平民出身でしょ」


 一人の人間に対して、全員がざわついている。


 この魔法学院──アステリア魔法学院は優秀な魔法使いしか入学が許されず、貴族出身の人間が多い。


 しかし、何事にも例外はある。


 それがこうして注目を集めている美男子である。この《天空のアステリア》の主人公であるルイスだ。


 彼は平民出身にもかかわらず、貴族たちを優に上回る魔力を持ち、さらにあらゆる属性魔法の適性があるチート的な存在。


 そして、俺が転生したウィルというキャラクターを破滅させる存在である。


 ま、今の俺の実力であれば主人公にすら負けることはないがな。


「おい。お前、平民出身なんだろう?」

「あ……えっと」


 俺は自分の知っているストーリー通り、ルイスに話しかけることにした。


 サラリと流れる金色の髪に、まるで宝石のように真っ青な瞳。肌も白く傷一つない。まるで陶器のようですらある。


 いや、こいつイケメン過ぎんだろ。主人公補正があるのは分かるが、もはや性別すら超越しているような中性的な容姿だった。


「ここは平民が来ていい場所じゃねぇんだよ」

「で、でも僕はちゃんと入試に合格しました……っ!」


 いや、まぁそうなんだよねー。主人公のルイスも実はかなり不遇な人生を歩んでいることを俺は知っている。


 父親は既に他界しており、母親は寝たきり。妹もおり、家族を養うために立派な魔法使いになるという使命を持ってこの学院に入学している。


 正直、俺だってルイスに厳しく当たりたくはないが、いずれ未来で戦うことになるかもしれない。ここは牽制をしておくべきだろう。


「だが、貴族至上主義のこの学院で平民がまともに生活を送ることができるのか?」

「そ、それは……」


 しゅんと頭を下げる。う、うおおおおお。心が痛むが、ここは鬼して言葉を吐き捨てる。


「ククク……ま、せいぜい楽しみにしてるぜ。お前がいつまで学院にいることができるのか」


 俺はルイスのもとを後にするが、彼はただ一人ポツンと立ち尽くしているしかなかった。


 しかし──あいつを見ていると昔の自分を思い出す。

 

 彼は入学してしばらく孤独に過ごすことになる。それからヒロインとの出会い、友人もできていくが、物語の序盤は非常に苦しい展開が続く。


 俺も前世の学生時代はぼっちだったので、ゲームをしているときは主人公にものすごく感情移入したものだった。


「まぁ、でもここでも同じなんだよなぁ……」


 と、俺は言葉を漏らす。


 俺は前世の記憶を思い出してからメイドのアイシアの指導のもと、尋常ではない研鑽を積んでいたのだ。


 剣聖と賢者という地位を手に入れるためには、周りと交流を図る暇はなかった。


 つまり、俺はここでもボッチだった。


「ふ、孤独とは人を強くしてくれる」


 と、入学式が行われる講堂の道中でそう言ってみる。


 けれど、俺は友人たちと仲良く歩みを進めている同級生たちを見て、内心羨ましいと思っていた。


 また、俺はふと思う。剣聖と賢者という立場になった今、物語の進行はどうなっていくのだろうか。


 本来であれば現在は共通ルートであり、その先は主人公がさまざまなヒロインの個別ルートを攻略していき、最後はグランドエンディングルートへと繋がっていく。


 今のところ、俺が知っている世界のまま進行していっているが、まぁ特に大きな変化はないだろう。この時の俺は自分の力を過信してそう思い込んでいた。



「ねぇ、ねぇ。知ってる? 賢者様、今ものすごい魔法を発明してるんだって」

「なんでも今の賢者様は歴代の中でも最強なんでしょ! あぁ、いつかお目にかかってみたいなぁ」

「剣聖様もすごいらしいよ! なんでも未攻略のSランクダンジョンをもう少しで踏破しそうだって!」

「賢者様も剣聖様もすごいねー!」



 女子生徒がそんな噂をしているのは聞こえてくる。


 うん。それ両方とも俺なんだよね。しかもこれ、実はある程度実力を抑えた上での話だ。本気を出したらどうなるか分からないからな。


 でも剣聖も賢者もワンオペなんだよなぁ。


 悲しくも前世でワンオペに慣れていたので、俺は二つの役割をこなすことは苦としていなかった。


 ただ俺はこの学院では余生を過ごす感覚でやってきている。


 世界最強とも呼ぶべき力を手に入れたんだ。障害などなく、後は自由気ままに生活を送るだけだからな。


「さて、入学式へと臨みますか」


 俺はそうして入学式が行われる講堂へと足を踏み入れるのだった。

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