剣聖、賢者、聖女を兼任する悪役貴族のワンオペ暗躍無双〜生き残るために全力を尽くしていたら、気がつけば凄い立場になっていました。それを活かして世界を裏から支配します〜
御子柴奈々
第一章 悪役の矜持
第1話 プロローグ
「ウィル!? 大丈夫……!?」
「う、うぅ……」
きっかけは庭で転んだことだった。
幼少期にはよくある話であり、ほんの些細な日常に過ぎない。
しかし運が悪いことに、頭を強く地面にぶつけてしまった。
流れ出る血液に朦朧とする意識。
その最中、俺は脳内にとある記憶が蘇ってきた。
そう。この世界は前世の俺がプレイしていた《天空のアステリア》というゲーム世界そのものなのだ。
社畜だった俺はこのゲームこそが生きがいであり、尋常ではないほどのやり込みをしていた。
そして、追加ストーリーのアプデがある直前で過労で死んでしまった──と言う流れだ。
けれど問題なのは、俺は決して主人公などではなく、悪役貴族に転生していることだった。
俺は主人公に倒されるだけのモブの悪役貴族。その事実は、もはや揺るぎようがなかった。
†
「まずは情報を整理しよう」
深夜。俺の部屋には大量の書物が積み上がっていた。
表向きは歴史を自主的に勉強したいと言って与えられたもので、両親は勤勉な俺に感心していた。
が、実際は現状を確認するためのものだった。
「俺は約十年後に破滅の未来を迎えることになる……」
まだ五歳と幼かったが、前世の記憶を取り戻したことで思考のレベルは大人と遜色は無い。
そして俺は、今思い出せるだけの知識を整理し始める。
「俺が破滅するイベントは主人公、賢者、剣聖が揃って始めて起こる。これを回避するためにどうするべきか」
主人公は賢者と剣聖を味方につけ、この世界の悪を淘汰していく。よくある王道ファンタジーのストーリー展開だ。
そんな物語の途中で、かませ犬として死んでいくことが俺の本来の役目である。
「一番の原因である主人公を暗殺……いや、現実的じゃ無いな」
その理由はまーじで主人公はチート的な存在だからだ。あらゆる属性魔法の担い手であり、最強スキルも複数持っている。暗殺は不可能に近い。
「待てよ。そういえば……」
俺はあることを思い出していた。剣聖と賢者とは、現代でもっとも優秀な剣士と魔法使いに授けられる称号である。
世襲に近いものであり、聖抜の儀と呼ばれるもので決定される。
では仮に、俺がその二つになったらどうなるのか。
「これって名案じゃないか?」
俺はすぐに自分の考えを実行することにした。
「アイシア!」
「夜遅くに、どうしたのですか」
メイドのアイシアの元へと俺は駆けて行った。彼女は過去に冒険者をしていて、それなりにランクが高かったはずだ。
「俺を鍛えてほしい!」
本当の理由を言えるわけもなく、俺はただ懇願するしかなかった。しかし、俺の本気さを感じ取ってくれたのか、アイシアは頷いてくれる。
「分かりました。幼い頃から強くなろうとするのは、とてもいいことですよ」
「剣聖と賢者になりたい!」
「……今なんと?」
「剣聖と賢者になる!」
「……仮にそれを目指すとしても、両方はあまりにも欲張りではないですか?」
これは子どものわがままに過ぎない。
アイシアもそれを分かっているようだが、俺はただじっと彼女の目を見つめる。俺は本気であると。
「分かりました。しかし、その二つになるのであれば、地獄のようなトレーニングを積むことになります。分かっているのですね」
「あぁ!」
どうせ子どもの戯言に過ぎない。ちょっとハードなトレーニングをすれば、すぐに諦めるだろうと彼女は思っていたらしい。
しかし、俺はその無茶なトレーニングをこなしていった。いつしかアイシアの指導も本気になり、俺たちは二人三脚で剣術と魔法を研鑽していった。
元々、このウィルというキャラクターには特殊な才能がある。ゲーム中では傲慢な性格から努力などはしないが、俺はウィルに備わっている才能に死ぬ気の努力を積み重ねていった。
そしてあの誓いから十年が経過しようとした時──俺は素性を隠して聖抜の儀を受け、なんと剣聖と賢者になることが出来たのだった。
「ウィル様。ついにやりましたね」
「あぁ! 俺はやったんだ!」
あまりの喜びに震える。それにこれだけの力を手に入れたんだ。死亡フラグなんてもはや、何の障害にもならないだろう。ははは!
「おめでとうございます。しかし、公表は絶対にするなとのことですよね?」
「もちろん。父上にも母上にも、誰にも口外してはならない」
「仰せのままに。メイドは主人に従うものです」
アイシアはいつも俺の味方だった。従順に従う彼女はまさにメイドの鑑である。
「じゃあ、ちょっと試運転でもしてくるか」
「はい。お供します」
近くの森にやってきた俺たち。
無事に聖剣と
「じゃあまあ、軽く。
聖杖セレスティリアを使って魔法を発動。試運転ということで、初級魔法である
しかし、杖の先から出たのは巨大な火炎の塊だった。勢いを殺すことなく、紅蓮の炎は森を抉り、その先にある山肌すらも削り取っていった。
「は……?」
えええええええええ?!?!
なんだこの力は!?
杖を振った先は
後日。この騒動は伝説の魔物であるエンシェントドラゴンの襲来とされたのだが、真実は俺が軽く放った火球なのだ。
うん。この力やばい。ヤバすぎる。
「聖剣の力も試しますか?」
「いや、また今度にしよう……」
自身の死亡ルートを回避するために努力に努力を重ね、二つの聖遺物を手に入れた。
問題はない。むしろ順調過ぎるほどだが、あまりにもうまくいき過ぎてしまった。
「ク、ククク……」
「ウィル様。震えていますが」
「アイシア! お前、俺を鍛え過ぎだろう!」
「遠慮するなと仰ったのはウィル様ですが。ただ私も、ここまでの才能だったとは予想外ですが……」
いつも冷静なアイシアもドン引きするほどの出来事だった。
「……ふ。俺は天才だからな」
表向きはとりあえず落ち着いたフリをしたが、うん。どうしよう、この力。絶対に持て余す気がするんだが……。
主人公とか軽くねじ伏せることができるというか、もはや何もしなくても脅威はないんじゃないか?
ハハハ! これ勝ったな! 我が人生に勝利したのだ!
あとはゆっくりと余生を過ごすだけだな。途方もない地獄のトレーニング積んできて良かったと、心から思った。
「明日は魔法学院の入学式です。早めにお休みになりましょう」
「ふ。そうだな」
俺は精一杯格好つけて、そう言った。
ともかく俺は無事に? 賢者と剣聖になることができたのだったのだが、この先に待ち受けている苦難を──俺はまだ知らない。
そしてこの瞬間から、世界は自分の知らない方向へと進み始めるのだった。
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