第7話 始まりの追憶 4
障壁を砕かれ吹き飛ばされた私は……少しだけ意識が飛んでいたみたい。
むしろすぐに目を覚ませたのは奇跡かもしれない。
魔力は限界なんてとっくに超えて、体はズタボロになってる。
そして生きている事を疑問に思うと同時に。
私に覆い被さるお母さんに気付いた。
「──っ」
もはや声は出ない。
「シ、ア……」
理解出来てしまう。
「よかっ……た……無事、なの……ね」
疑い様の無い死。
「どうか、逃げて……生きてっ……」
こんなの……認めてたまるか。
「お願い……生きて……幸せに……なって……」
そう言って私の頬に口付けて――目を閉じた。
どうしてこんなことに……
お母さん……私は……
*
爆心から距離がありなんとか凌げた者は現状を確認し、一部の者は勇敢にもドラゴンの魔物に向かい注意を引く。
車は悉く破壊され、なんとか動きそうな1台のみが横たわっていた。
屋根ごと結界装置が破壊されてはいるが、起こして動く事を確認する。
崩れた門の瓦礫にギリギリ通れるだけの道を作り、生存者を逃がす為に車に乗せていく。
とは言え無事な人はたった一瞬で、数える程度になってしまった。
「治療出来る奴は居ないのか!」
「そいつは諦めろ! 逃げたところで助からん!」
「さっさと車を動かせ!」
「手を貸せ! こっちに子供が!」
「車を動かせるのは誰だ!」
「結界が無い以上戦えるやつが乗らなきゃだろう!」
「武器があったって戦えない! 捨てろ! 余計な物を積んで重くするな!」
「魔法が得意なやつが乗って護れ!」
助ける者も助けられた者も、怒号が飛び交う。
手遅れな者を切り捨て、僅かながら治癒の光が舞い、生き延びられそうな者だけを選び乗せる。
少しでも多く、少しでも早く。
「この子も息があるぞ!」
「外傷は酷いが、まだ大丈夫だ!」
「子を護ったのか……」
「これじゃ生き延びられるか分からんぞ!」
「だからと言ってまだ息のある子供を見捨てるのか!?」
「そうは言ってない、当然乗せる!」
「生き延びられるかはこの子次第だ……他に生きている者は!?」
「恐らくもう居ない……」
「あまり時間をかけるな! 非情だろうがなんだろうがもう逃げろ!」
様々な思いの中、壊れかけの車は発進し街を出る。
残った者は覚悟を決め、もしくは諦め、死に向かう。
地獄を背に車は街道を進む。
生き延びられる事を信じたいが……街の外も未だ多くの魔物が蔓延る。
結界も無しに進むにはあまりに無謀だ。
すぐさま襲われ、魔法でどうにか対応しながら逃げる。
転げ落ちたりと更なる犠牲者を出しながらも、あらゆるモノを振り切る様にギリギリで走り続けた。
街へ魔物が集まった所為か、離れるにつれて次第に安全になっていった。
そのまま進み、助けを求めて街を目指す。
しかし山脈の傍、峠を越えようかという時。
ついに車は限界を迎え止まってしまい、そこを狙ったかの様に魔物が現れる。
しばらく安全だった事と極度の疲労もあり、皆多少なりとも気が抜けてしまっていた。
否、気を張り続ける事なんて出来る筈も無かった。
車ごと吹き飛ばされ、山の斜面を滑り落ちていく。
いくつもの木や岩にぶつかり、皆落とされ魔物の餌食となる。
運良く放り出されなかった者も、止まった頃に襲われ……
結局――最後に脱出した者達は誰一人、街に辿り着く事は無かった。
当然だが、逃げ出せた者達は事情を説明していた。
周辺の街から最大限の戦力を結集させ、数日間に及ぶ大規模な戦闘の果て。
相当数の犠牲を出しつつも魔物は殲滅された。
そして前例の無い悲劇は、歴史と人々の心に深く刻まれる事となった。
各街は結界をより強力な物へ替え、更なる対策がいくつも進んでいく。
その所為で負のマナは増えてしまうが仕方ない。
魔物の対策をすれば魔物が増えるという、今更だがどうしようもない循環に嘆く。
それでも護りを強固にした方がマシと言うものだ。
崩壊した街を復興させるのは難しく……あえてそのまま残される事になった。
悲劇を忘れぬ為。
平和な日常は絶望に変わるという戒めの為。
街の傍には慰霊碑が建てられた。
どこもかしこも、誰も彼も、魔物の脅威を再認識した。
平和とは薄氷の上なのだと。
だからこそ平和を享受する。
その平和を作り護る者達への感謝を忘れず支え合う。
悲劇によって人類は少しだけ成長したのだった。
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