第9話 しっかりした親
アイツの母はすぐにアイツを頼る。
「今日、実家行くわ」
アイツは、このメッセージの一言でろくに家にかえらぬ日がある。
時に私は、アイツに愚痴るのだ。
「お義母さんには、シッカリしてもらわな、頼られてばっかりあったらアカンで」
ピクリと耳を動かしながらアイツは
「フフン、俺とシッカリの定義が違うみたいやな。オカンにどうしっかりして欲しい?」
「月に2、3回呼ばれてるやん、何してるん聞いても、ご飯作った、掃除や洗濯したとか、べつにアンタを呼ぶ必要なくない?一人でいつもやってはる事やん」
私は真剣にアイツの目を覗き込む。
アイツはシッカリ目を合わせて話す。
「うちのオカンを舐めてるわ。うちのオカンは、いい迷惑をかけてるねん」
今度は、私がピクリとする。
「いい迷惑なら、断ってよ。急に一人分ご飯の段取り変わるの意外とキツいんだよ」
「言い方が悪かった。グッドで、ほんとに良い迷惑、グッドな迷惑といいたかってん」
アイツはチョット得意げな雰囲気を出してきた。
私は口を尖らせながら
「意味わからん、説明」
と首を大きく横に振りながら、話を促す。
「ん~。そっちのお義母さんは、普通に元気やから、分らんのかもしれんが、うちのオカンは一人暮らしで、ちょっとしんどい日があるねん。そん時に俺に頼るねん。それはイイことなんよ」
私が眉間にシワを作るとアイツは話を続けてくる。
「アカンのは黙って頼らんことなんよ。例えば、飯抜いたり掃除せえへん日ができたりして、それを誰にも相談せんかったらどうなると思う?」
ここまで言われて半信半疑ながら、アイツの言わんとするところを理解する。
「ヨボヨボ、ゴミ屋敷になりそう?」
アイツは無駄に両手の親指を立てて返事をする。
「エグザクトリー。オカンは、大きい迷惑と小さい迷惑を天秤にかけた上で俺を頼ってくれてるの、これはシッカリしてると言うていいんちゃう?もちろん頼られた通りに俺が全部するでなく、お姉ちゃんにお願いしたり、されたりもしてるんやで。まあ、いい迷惑の話は、お姉ちゃんの受け売りやけどな」
と、ドヤという顔芸がムカつく。アイツはお義姉さんのことをやたらと褒める。シスコン野郎である。実際、お義姉さんは完璧超人で、正直嫉妬してしまう。
私は早々に降参する。
「なるほど、いい迷惑をかけるのはシッカリしてるってことね」
「そうそう、ヨボヨボゴミ屋敷でいきなり助けて言われても困るからな」
私は、お義母さんの素直な振舞が子供っぽくて嫌いだったのに、今は素敵と思えてしまった。
アイツはなんでも素敵なものに変えていく天才だ。
つらつらふらふら日記 由兵衛(よしべえ) @you_hey_cool
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